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14. エトウの提案

「私の目的とするところは、第二の門をできるだけ迅速にこちらの支配下に置き、人質の犠牲を最小限にすることです。それを実現するため、三つの特別部隊を新たに編成することを提案いたします」


 エトウは攻城戦の作戦を話し始めた。それはロナウドとミレイの大技を軸に、自らの補助魔法を駆使した作戦だった。

 半信半疑の司令官や部隊長には、補助魔法の効果を実際に見せることにする。


 エトウが提案した一つ目の特別部隊は、ソラノが加わった十二名のエルフ弓兵隊である。

 作戦会議に参加していたメンバーは、エトウに連れられて野営地の外れまでやって来た。サニーに頼んで、エルフたちにも参加してもらっている。


「ソラノ、南の砦を見下ろせる崖の上から、第二の門の城壁まで、目算でどのくらいの距離がある?」

 エトウはソラノに尋ねた。

「だいたい千メートルといったところ。ここからなら……てっぺんだけ見えているあの杉の木ぐらいの距離」

「それじゃあ、今から補助魔法をかけるから、杉の木をねらってみてくれ」

「分かった」


 ソラノはそれが当たり前かのようにうなずいた。

 周囲でエトウたちの話を聞いていたエルフは、怪訝な表情でソラノを見つめている。


「ソラノ、我が妹ながら、お前が優れた弓使いだということは理解している。だがな、あの杉の木は遠すぎる。なにがねらいなんだ? 特別な攻撃方法でもあるのか?」

 サニーが皆を代表して訊いた。

「そんなものはない。あの杉の木に矢を射るだけ」

「だから、そんなことは――」

「黙って見てて」


 ソラノは身体能力強化のバトルスペルを自分にかけてから足の位置を定めた。

 そこにエトウが筋力強化のバフを重ねがけし、矢には風魔法のエンチャントを行う。


 ソラノがゆっくりとした動作で、矢をつがえた弓を頭上に持っていく。そこから左手を的に向けて開くと、今度は弓を大きく引きながら両手を下ろしてきた。

 両腕が射撃の位置に収まると、場には静寂が訪れる。


 そして次の瞬間、ピュンという軽い音とともに、ソラノが放った矢がはるか遠方の杉の木を目指して飛んでいった。

 付与された風魔法が矢の周囲を覆い、空気抵抗を最小限に抑えている。


「むっ、矢速が落ちない」


 サニーは飛んでいく矢をにらんでいる。他のエルフたちも真剣な表情だ。

 矢は空気を切り裂くようにまっすぐ飛び続け、杉の木の先端に見事命中した。


「おおー!」


 その場にいた者たちから驚きと感嘆の声がもれる。


「これが私の補助魔法です。エルフの皆さんには、第二の門の城壁にいる敵兵を攻撃してもらいたい。ソラノと同じことが、あなた方にもできますか?」


 このエトウの言葉は、エルフたちの誇りを十分に刺激したようだった。全員が好戦的な笑みを浮かべると、自分にも試させてくれと願い出たのである。


 司令官や部隊長たちは、作戦会議の席ではエトウの補助魔法に懐疑的だったが、目の前で実演したおかげで一定の信頼を得ることができたようだ。


 次にエトウたちは野営地内の馬場にやってきた。

 そこには騎士たちによる破城槌隊が待機している。

 傍らには金属で補強された破城槌が置いてあり、少し離れた場所には訓練用に木で作られた壁も見えていた。


「皆さん、お待たせしました。破城槌隊の方々ですね?」

 エトウは騎士たちに尋ねた。

「はい、そうです。こちらで待機せよという命令を受けました」

 隊長格の騎士が答えた。

「ええ。私がお願いしました。皆さんには、私のパーティーメンバーであるアモーと一緒に、補助魔法を試して頂きたいのです」

「補助魔法ですか?」

「はい。論より証拠で、あの木の壁で試してみましょう」

「はぁ、やってはみますが、破城槌は一人の筋力が優れていても、破壊力が格段に上がるというものではありませんよ」

「ええ。物は試しですので、お願いしますね」

「はい……」


 まずは騎士たちだけで壁を攻撃してもらう。補助魔法は使わず、いつもの訓練通りの動きを心がけてもらった。

 破城槌を打ちつけられた木の壁は大きな音ともに激しく震えたが、特に損傷したような様子はない。


 その後、エトウは彼らのバトルスペルの上から、ストレングスの補助魔法を重ねがけしていく。

 破城槌には土魔法のハーデンを付与した。対象を硬化するもっとも基本的な魔法である。


「それではもう一度、お願いしますね」


 破城槌隊の隊員は、自分たちでなにを試されているのか分からない様子だった。

 エトウに言われるまま破城槌を持つと、タイミングを合わせて木の壁に打ちつけた。


 すると、これまで聞いたこともない爆発したような音が馬場に響いた。

 馬場にいた馬たちが驚いて、各地でいななきをあげる。

 その音を出した当の隊員たちも、なにが起こったのか理解していないようだった。


「皆さん、もう一度やってみましょう! さぁ、早く!」


 エトウが声をかけると、隊員たちは顔を見合わせて、もう一度木の壁に破城槌を打ちつけた。

 再びドカーンというすごい音が響く。押し込まれた壁の表面は割れ、破城槌の跡がくっきりと残った。


「アモー、彼らに加わってくれ。タイミングを合わせるのが大事みたいだぞ」

「ああ。まかせてくれ」


 アモーが隊員の中に入ることで、メンバーの入れ替えも行われた。

 最前列の右にアモーが、左に体の大きさをそろえるように、破城槌隊でもっとも体が大きいタローという騎士が陣取った。


 軽い掛け声とともに、破城槌が木の壁を打つ。

 タイミングを合わせただけの一回目の打ち込みで、木の壁は歪んだ形になったままもどらなくなった。


 隊員たちの顔は興奮を隠せなかった。

 これまであまり役に立っていなかった自分たちが、大きな力を手に入れたかもしれないのだ。


「次の一撃は全力でいきたい」

 アモーが隊員を見渡すと、全員が目に力を込めてうなずいた。

「お、俺たちの力を、見せてやるぞ!」

 タローが声を張り上げる。

「おぉー!」


 彼らが全力で放った次の一撃は、木の壁を軽々と打ち抜き、それを支えていた太い杭すらも途中から叩き折ったのだった。


 エルフ弓兵隊と破城槌隊にエトウが補助魔法を使ったことで、司令官や部隊長はその効果の大きさに驚き、作戦に乗り気になった。

 一行は馬場からテントにもどってきて、エトウの話に耳を傾ける。


「エルフ弓兵隊とアモーを加えた破城槌隊の確認が終わりました。最後は、第二の門の制圧を担当する突撃部隊です。その前に、門の破壊については、ロナウド様とミレイ様にお願いしても大丈夫なんですね?」


 エトウの作戦は、ロナウドとミレイの二人に、門を一撃で破壊できるだけのスキルがあることが前提だった。


「ああ。問題ない。私たちには補助魔法は必要ないぞ」

 ロナウドは言った。

「前にかけてもらったときには、あまり効果がありませんでした。もともと戦闘力が高い者には、効果がうすいのでしょうか?」

 ミレイも補助魔法の効果に懐疑的な様子だった。

「補助魔法を使うかどうかは、お二人におまかせします」

 エトウは気にした様子もなく、判断を二人にまかせた。


「エトウ、私には補助魔法かけてね。突撃部隊に参加することになるんでしょ?」

 ラナは言う。

「ああ、分かった」

「せっかくですから、私たちもかけてもらおうかしら? 物は試しと、先程エトウさんもおっしゃっていたことですし。ロナウド様、どうでしょうか?」

「どちらでも構わない。ミレイの好きにしろ」

「それでは、エトウさん、お願いしますね」

「はい、分かりました」


 第一の門が破壊された後、ラナ、コハク、ナル、ニー、騎士団の斥候六人の合計十人は、連絡通路を一気に駆け抜けて第二の門に向かってもらう。

 この部隊には考えられる最速のメンバーをそろえた。

 エトウは彼らにヘイスト、ストレングス、プロテクト、シールドの重ねがけを行う予定である。


 エトウの補助魔法の効果を目の当たりにした司令官や部隊長、勇者パーティーのメンバーは、すでに作戦の実行が決まったような態度だった。

 あまりにもすんなりと話がまとまったため、エトウは例のごとくなにかの罠なのではないかと考えてしまったくらいだ。

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