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転生幼女な真祖さまは最強魔法に興味がない  作者: 深田くれと


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新星・幼女真祖があらわれた!

「ここ、通してもらうね」

「はい、どうぞ」


 虚ろな瞳を向けた門番が、通り道をあけた。

 ヴァンパイアによる催眠というのは本当らしい。私が見つめ、本気で命令したことに、モンスターは抗えないのかもしれない。

 気分は良くない。

 ゲームにはなかった設定だし、まったく望んでいない能力だ。

 ふと、気づいて足を止めた。

 異形の門番に言っておかなくちゃいけないことがあった。


「プルルスに心の底から心酔してる? もし、してないなら、ここから去りなさい」


 これでいい。どう転んでも戦力を削ぐことにはなるだろう。

 私は長い廊下を進み、らせん階段を昇った。

 慌ただしく数人が走っているけれど、それだけだ。この城のモンスターたちは、さっきの暴挙に借りだされているのかもしれない。

 いくらか進むと、とてもおしゃれな部屋があった。

 覗いた空間が驚くほどフェミニンで、少し興味を惹かれて足を踏み入れた。

 そこには、数名のモンスターがいた。

 奥に、指示を出す、黒い水着のような服に身を包んだ人間に近いモンスター。サキュバスだ。

 確か、☆5。元々のディアッチと同格とすると、幹部みたいなものだろう。

 彼女たちの視線が一瞬にして私を捉えた。


「二人にして」


 私の言葉で、声をあげかけた者が寸前で動きを止めた。

 使いかけた魔法を中断し、構えた武器を下ろした。

 そして、すごすごと静かに出て行った。

 部屋には、私とサキュバスが二人になった。彼女は驚かなかった。


「誰かと思ったら、あのときのちっちゃなヴァンパイアさんね。ダメよ、何度も特権を簡単に使ったら」

「こんにちは。リリです。名乗ってなかったよね?」

「ええ。それにしても……びっくりするぐらいの催眠能力ね。遮魔布を貫通して、一瞬で威力を発揮するなんて。でも、また城内に勝手に入ってくるなんて」

「ごめんなさい。緊急で。少し聞きたいことがあって」

「キツネ狩り……のことね」

「何なの、それ。たくさんのモンスターが暴れているけど、プルルスの指示なの?」

「そうよ。もうどうすることもできないわ。止めようとした同志もいたけどね……」

「……どんな内容なのか教えてくれる?」

「構わないわ」


 返事は意外だった。私のような幼女に素直に聞かせてくれるなんて。

 サキュバスは少し疲れたように微笑んだ。

 彼女も辟易しているように見えた。

 聞かされた内容は思っていた以上のものだった。

 プルルスの配下を抜けたものを全員始末する――完全なジェノサイドだ。

 言葉を失う私に、彼女は探るように言った。


「リリといったわね。あなた、ディアッチとどういう関係なの?」

「友達だけど」

「嘘ね。あいつは、とても友達なんて作れるやつじゃなかったわ。誰も近づかなかったもの」

「……急ぐから、もう行くね」

「待って。あなた、ディアッチと対等以上に話せるくらいだから、だいぶ強いんでしょ? 私を放っておいていいの? もしかするとプルルスに手を貸して、あなたを襲うかもよ」


 サキュバスは疲れの溶け込んだ、重いため息を吐いた。

 顔のどこにも力のこもっていない生気のない微笑みが浮かんでいた。


「別にあなた、悪い人じゃなさそう。それに、ディアッチの友達なんでしょ。生まれ変わったあいつと仲良くできるなら、それでいい。色々教えてくれてありがとう」

「待って」

「まだなにか?」

「私は、プルルスの配下の一人、サキュバスのウーバ。一つだけ、お願いがあるの……」

「なに?」

「ディアッチが……もし生きていたら、助けてあげてほしいの。あいつ……とてもがんばったから」

「任せて。私も、練習仲間を失いたくはないから」

「練習仲間……?」

「言ってなかった? 黄金比率がどうのこうのって」

「あ、あなたが……ディアッチの言っていた……」

「じゃあ、また。あっ、言い忘れてたけど、とりあえず、この城から大至急逃げてね。絶対に」


 ***


 さらに上に昇る。

 空気が冷たくなっていくようだ。

 廊下にはいくつかの死体があった。

 プルルスの暴挙を止めようとしたものだろうか。

 不思議と恐怖感は湧いてこない。ヴァンパイアの特性だろうか。

 敵に近づいていることがなんとなくわかる。

 大きな広間に出た。

 悪趣味極まりないインテリア。様々なモンスターや人間の骨をシャンデリア代わりにしている。

 最奥に、鎖にぶら下げられている巨体があった。

 ディアッチだ。

 そして、その前に、背を向けた黒い長髪の男。


「どんな化け物が来たかと思えば、まさか子供とは」


 声は意外と高かった。雰囲気は優男と言っていい。

 すっと通った鼻梁、優し気な瞳。整った顔。体は細く、白い法衣に身を包んでいる。

 瞳は紅色。ヴァンパイアだ。


「どういうこと?」


 私は混乱していた。

 目の前の男が――知っているのに、知らないモンスターだったからだ。

 こんなことがあり得るのか。


「ハイブリッド型のモンスター?」


 顔は、とある騎士のモンスター。

 法衣は聖母のモンスター。

 立ち姿は、聖者のモンスター。

 三つのモンスターの一部ずつを混ぜたような外観だったのだ。


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