20話 しろくまの憧れ
ボーヒゥンは動きが遅い。
特に移動速度はかなりノロノロとしている。
すなわち狩りをするときは移動して追い詰めるのではなく、罠を張って狩りをする。
動いていなければただの木なのだから擬態は簡単。
獲物が目の前に現れたときだけ動けば無駄がない。
突如動き出したボーヒゥンにぽむの魔法発動は間に合わない。
ノアも間に合わない距離だったが、横を颯爽と抜けていく白い塊がいた。
「くまくまーーー」
こおりがぽむの前に出てボーヒゥンの攻撃を受けて飛ばされる。
「メェ(ファイヤボール)」
こおりの作った一瞬の時間でぽむは魔法を発動。
追撃をしようとしていた枝を燃やす。
「メェメェメェメェ、メェェェ(黒き炎は灰すら残さぬ、一切合切灰燼と帰せ、『深淵業火』)」
攻撃が止んだところで本体を燃やし尽くす。
「メェ」
「大丈夫か?」
ノアとぽむはすぐにこおりの元へ走っていく。
横たわっていたこおりはムクっと起きる。
多少のダメージはあったもののそこまで慌てるほどではなかった。
その日はもう日も落ちかけこれ以上の森は危険だとノアは判断して引き上げる。
こおりの戦闘を見て大体の戦いから装備を揃えることにする。
ぽむの場合は最初から装備をしていたが、こおりの場合は装備が簡易的なものしかない。
「明日は朝からこおりの装備を買いに行くから夜更かしするんじゃないぞ」
ぽむもこおりもすっかり動画に夢中だった。
いつもは魔法使いの動画を見てインスピレーションを膨らませているのだが、こおりも一緒に見ていることもあって、いつもとは違う動画を見ることにしたぽむ。
慣れた手つきで画面をスクロールして選択したのは巷で流行のPK動画だ。
帝国ではそれほど数はいないが他国ではPKが跋扈しているという噂で持ちきりになっている。
何人かのPKを見ているとぽむの隣でこおりがバタバタと足を動かして、明らかにテンションが上がったのが丸わかりなほど動画にくいついた。
動画に映っていたのは背中に龍の一文字をあしらった男がPKをしている様子だ。
PKにも色々と種類があってソロで活動しているのか、集団で活動しているのかやどういう目的でPKをするのかなどで分かれる。
動画の男の名前は龍という。
PKの中でも一、二を争うほど有名な男で修羅というPK集団の団長をしている。
10人以上のプレイヤーがタツを取り囲んでいた。
修羅のPKの目的は単純に戦闘を楽しむため。
手当たり次第に喧嘩を吹っかけていて敵が多い。
「調子に乗ってられるのも今日までだ。死ねっ!!」
取り囲んでいた内の1人が動き出した。
跳躍して大剣を振り下ろす。
タツはギリギリまで動かずに近づく大剣に対して左拳をぶつけた。
何故か真っ二つに折れたのは大剣の方だ。
右拳で男の腹部を殴ると鈍い音が響いて数メートル吹き飛んだ。
腹部が拳の形に陥没して男は悶絶している。
その様子を見てしまった他のプレイヤーは後退りをしている。
その後は一方的な蹂躙だった。
タツはギリギリまで殺さないように手を抜いてかかってこいと挑発するが、誰も立てる者はいなかった。
「またいつでも殺しに来い。楽しみに待っている」
タツはそう残して誰一人殺さずにその場を去っていった。
しかし、取り囲んでいた彼らが再びタツを襲うことはないだろう。
圧倒的な格を見せつけられて絶望している。
そんな内容の動画を見てこおりは興奮している。
教育上よろしくはないがタツの職業は無法者系統なのでこおりの勉強になると思ってノアは見逃す。
嫌な予感はしていた。
翌朝、その予感が的中することとなる。
こおりはタツのような特攻服を所望してきてしまったのだ。
訪れたのは無法者専門店。
無法者が通う店だけあって出入りするのは見るからに怪しい者たちばかり。
さらに店の場所も表通りから外れた裏路地に隠れるように作られている。
店の扉を開いて地下へと続く階段を降りていくと蝋燭のランプで照らされた薄暗い空間がある。
従業員と思われる青年はカウンターに両足を乗せてノアたちを睨んだ。
「うちにおもちゃは売ってねぇぜ、帰んな」
「一応、無法者の装備を買いに来たんですけど……」
「二度は言わねぇ、帰んな」
青年はさらに鋭い眼光で睨みつける。
仕方ないと階段を上がっていると上から見知った顔が現れる。
「あら、ノアさん奇遇ですね」
「えーっと、ロザリーアだっけ?」
「そうです。覚えてくれて嬉しいです。ぽむ様もお元気そうで……」
ロザリーアはノアの後ろで丸まっている白い毛玉をじっと見つめる。
(ぽむ様は目の前にいる。では、隠れている白い毛玉はなんなのでしょうか? もしかして、第二のぽむ様!?)
「とりあえずノアさん、お茶でもどうですか?」
「……お茶? まぁ、いいよ」
「では、この店の奥でお話をしましょう」
「あっ、ここはさっき門前払いされたばっかなんだよ」
「……門前払い? なぜに?」
「いや、おもちゃは売ってねぇよって……」
「大丈夫ですよ、ここの経営者は私なので。ボランチオ締めといて」
「分かりました」
青年はロザリーアからなぜ客を追い返すのかと詰められて、ボランチオにどこかへ連れて行かれた。




