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ウサギ印の暗殺屋~短編集~  作者: 三ツ葉きあ
『ウサギ印の暗殺屋~13日の金曜日~』後
23/34

ウサギとヘビのハロウィン(BL風味SS)




「お菓子をくれんと悪戯するでー。イタズラ、イタズラー」


 昼過ぎに事務所へ帰って来た所長は、何の曲かは不明だが、鼻歌混じりで駄菓子の袋を広げていた。


 デスクの上には、数種類の駄菓子の小袋が散乱している。


「十二人分の菓子袋を作ろうと思ってな!」

 と所長は、室内に居る相方に笑いかけた。


 ハロウィンといえば、お菓子とイタズラ。近年、祭り好きの日本人は、様々な手法でこの行事を楽しんでいる。

 祭り好きの所長は、イベント事には乗るタイプの人間だ。要するに、騒ぐのが好きな性分なのだ。


 対して、その相方である副所長は、なるべくなら静かに過ごしたい性分なのだが――残念ながら、この相方と一緒に居る限り、そんな生活は望めない。


 小さな溜め息をひとつ漏らすと、副所長は「じゃあ、六袋」とひと言。

 透明な包装用PP袋を六枚、受け取った。




 駄菓子の詰め合わせが、十二袋。

 この事務所員の人数は、十四人。


「よし。っちゅーわけで、潤」


 名前を呼ばれた副所長は、首を傾げる。


「お菓子をくれんと悪戯するでー!」

「あぁ。菓子なら……恵未から貰った、抹茶のダクワーズが……」


 デスクの引き出しに掛けた副所長の右手を、所長の左手が制した。それはもう、凄い速さと、凄い力で。


「いやいやいや。そうじゃねーじゃろ」

「は?」


 菓子なら……、と反復する副所長を、所長は更に制止する。


「菓子は要らんから、悪戯させろ。っちゅー事じゃって!」

「悪戯……? 今朝起き抜けに、俺の背中に手を突っ込んできただろ。まだ何かする気か」


 副所長の言い分に、所長は言葉を詰まらせた。

 図星だ。

 確かに、朝イチで悪戯を仕掛けている。


 だが、その程度の反論で、引き下がる所長ではない。

 満面の笑みで以て、堂々と、宣言した。


「もちろん! 逆に、もう何もせんと思ったんか」


 こうなったら、話を聞くような人物ではない。

 副所長は諦めて、何をするんだ、という意味を込めて「で?」と返した。

 それを聞き届けるや否や、所長は両手を、副所長の両脇腹へ宛てがった。


「ひッ!? ちょっゃ、やめ! だか、それっ駄……ッ、ひゃ――ッッ」


 昨日から所長のお気に入りとなっている、“脇腹こちょこちょ”。

 所長は、これがやりたくて仕方がなかったのだ。


 副所長がヒィヒィ言っていると――、ガチャ。

 と、唐突に部屋の扉が開いた。


 そして、今まさにこの部屋へ足を踏み入れようとしていた紫頭の人物は、部屋へ入る事なく、無言で扉を閉め、静寂だけを残して去って行った。


 数秒の沈黙。


「今の、何か……誤解された気がする……」


 後ろから副所長に抱き付く体勢で“脇腹こちょこちょ”をしていた所長は、無言の扉を見詰めて、口元を引き攣らせた。





『ウサギ印の暗殺屋~13日の金曜日~』最終話直後、『ウサギ印のハロウィン~臨時ボーナス争奪戦~』直前の話でした。

内容の関係で、『臨時ボーナス争奪戦』の後ろに掲載してあります。


因みに、“脇腹こちょこちょ”は番外の『その後の一日』で初登場しています(笑)


余談の更に余談ですが、泰騎の体温は37℃超えです。あったかいです。

朝の悪戯時は、水仕事直後でした。


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