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短編コメディ―

強力スキル「アベレージヒッター」の能力が理解されず冒険者パーティを追放されましたが、プロ野球選手としてスカウトされました

作者: ななみや

「ベイス! お前をパーティから追放する!」


「そんな……俺の何が悪いんですか!?」


 それは、俺達の冒険者パーティリーダーであるカインさんからの突然の追放宣告だった。



「お前のスキルが役立たずだからだ!」


「や……役立たずなんてことは……!」


「じゃあ聞くけど、アベレージヒッターって何なんだよ!!」




 そう、俺の固有スキルは「アベレージヒッター」。


 スキル鑑定によれば希少度の高い能力らしい。



 しかし肝心のその能力だが「ミート打ちした場合にヒット性の当たりが出やすくなる」と言う程度の説明にとどまっており、そもそもミート打ちとやらもヒット性の当たりとやらも何を言っているのかなのかさっぱり分からない。


 実際冒険の役に立っているかどうかはさっぱり分からず、すっかり外れスキル扱いだ。



「いや、『アベレージヒッター』はレアリティの高い能力ですよ!? この間だって俺の一撃で敵をすこーんとかっ飛ばしたじゃないですか……!」


「生け捕り依頼の敵をな!! なんでお前の攻撃は敵をあんなに吹っ飛ばせるんだよ! 大体、剣とか弓が主流の中で頑なに棍棒なのはなんでだ!?」



 そう、俺の愛用の武器はアオダモ製の棍棒である。


 どういうわけかこの棍棒が最も手に馴染む武器であり、剣や弓はうまく扱えなかった。



「あとお前のステータス、よく分からねえんだよ! ギルドカード見せてみろ!」



 ギルドカードには冒険者のステータスが記されており、例えばカインさんのギルドカードには次のような形で能力が示されている。



名前:カイン

ジョブ:剣術士

HP:79

MP:23

STR:A

DEX:C

AGI:D

INT:D

MND:F

DEF:B

スキル:「剣術B」「盾術C」「神聖魔法F」



 カインさんだけでなく、冒険者はみなこのような能力だ。


 だがしかし、俺だけが違う。



名前:ベイス

守備位置:三塁手

弾 道:3

ミート:S

パワー:B

走 力:A

肩 力:A

守備力:G

捕 球:F

送球B・回復A

能力:アベレージヒッター・流し打ち・固め打ち・初球○・チャンスメーカー・内野安打・ムード×



「ミートとかパワーは何となくわかるよ!? DEXとかSTRなんだろうなって。だけど弾道とか捕球ってなんなんだよ!」


「お言葉ですがカインさん、俺だってよく分からない。そもそも三塁手って何です?」


「自分でも分かってねえんじゃねえか!」



 俺のジョブ……いや、守備位置とやらは、冒険者になった時から三塁手だった。


 そう言えば今まであまり疑問に持たなかったが、そもそも三塁手とは一体何だろうか。



「大体お前さ、結構頑丈なのになんで守備力がGなんだよ。ギルドカードが間違っているわけじゃないんだよな?」


 ギルドカードは各人が知覚できる「ステータスオープン」と連動している。


 ステータスオープンでも俺の守備力は確かにGと言う判定だ。



「そうですね、間違ってないです。確かに頑強さで言うとパーティではリーダーの次くらいだと思うんですが、何故か守備力の項目は上がらないんですよね。代わりと言っては何ですが、防御力を上げるトレーニングをすると『回復』が上がっていきます」


「回復って、字面からするとヒーラースキルだろ? お前魔法一切使えないじゃん」


「俺には無縁の能力みたいですが、守備を鍛えると『魔術師』と言うスキルを覚えるみたいです」


「なんで守備力なのに魔術師なの!? 意味分かんない!!」



 リーダーの言うことも分かる。


 そもそも「魔術師」はジョブではないか。


 なぜスキルなのか。



「あとさ、肩力って投擲武器専用のステータスだよね? なんで独立してるの? パワーとかミートで判断すればよくない?」


「いえ、なんかこうパワーとかミートとは違う感じなんです。物を投げる時にはパワーを使ってないと言うか……」


「うん、さっぱり分からないね」



 一体どう説明すればいいのか。


 パワーとかミートは武器を振り回している時の能力なのだが、肩力はナイフなどの投擲武器の能力らしい。



 ちなみに今までで一番しっくり来る投擲武器は掌に収まる真球に近い石だった。


 あの石を投げた時は感動すら覚えたし、今でも袋の中に大事にしまっている。



「私からもいい? ベイスのHPって、なんで数字じゃなくゲージなわけ……? 数値じゃないからすっごく分かりにくいんだけど……。あと、HPが半分くらいになったら休息が必要なくせに0になっても死なないし……」


 ヒーラーであるレイアが俺達の間に入って質問をしてくる。



 そう、俺の体力は数字で表されるのではなく、何故かゲージなのだ。


 しかも体力ゲージがカラになったからと言って死ぬわけではなく、行動した時に怪我率が上がるだけだ。



「俺からしてみたら、HPが0になったら死ぬ方が分からないですね。あと、行動するのに怪我率とか出ませんか? HPが半分を切ると怪我率が跳ね上がるんですけど」


「いや、怪我率ってなんだよ! 普通は敵から攻撃受けたら裂傷とか打撲とかするだろうが! あー……そう言えばお前、基本無傷だよな……」


「それは誤解ですカインさん、俺だって打撲くらいはします」


 あとは捻挫もするし酷い時にはアキレス腱も断裂する。



「とにかく、あんたは存在自体が不気味なのよ……! 大体ねぇ……きゃっ!?」


 俺に対して詰め寄り罵りの台詞を言いかけたレイアは何かに躓いたらしく盛大にすっころび、大袈裟にひっくり返ってローブが下半身から捲り上がる形で酒場の床に突っ伏した。


 悪いと思ったがその勢いで、レイアの下着がしっかり見えてしまった。


 と、同時に俺の頭の中にステータス変動を示す音が鳴り響く。



<弾道が1上がった>



「あ、ギルドカード見てください。弾道が4になっています。1上がったみたいです」


「なんで弾道が上がったの?」


「なんで弾道が上がったんでしょうね」



 そもそも弾道とは何なのだろうか。


 疑問は深まるばかりだが、それはそれとして弾道のステータスはこれがマックスらしい。


 能力上昇の項目が暗転している。



「ベイスのステータスなんてどうでもいいでしょ!? 私の心配をしなさいよ!!」


「分かった分かった。後で菓子でも買ってやるから機嫌直せ。今はベイスを追放する方が先だ」



 レイアが何やらわめいているが、カインさんは取り合わない。


 そんなに俺を追放したいのか。


 アベレージヒッターの何が悪いのか。



「あのー、僕もひとつ、聞きたいことがあります。ベイスさん、この間白い服を着た人について行ったあとステータスが物凄く上がりましたよね? 何があったんですか? それだけは後学のために教えて頂きたいのですが」


 今まで黙っていただけのパーティ最年少である魔導士のルイが俺に対してそんな質問をぶつけてきた。



「すまないルイ、俺もその時の記憶がさっぱり残っていないんだ。なんだか酷い目にあった気はするのだが……」


 確かに能力が飛躍的に上昇したことがあった気がするのだが、残念ながら何も覚えていない。


 みんなが言うハゲた白い服の人の顔すら覚えていない有様だ。



「そうですか、ならいいです。ベイスさんはもう用済みです」


 いや、流石にドライすぎでは?


 もう少し何かないの?



「とにかくだ、もうお前は俺達のパーティに必要ないので荷物をまとめてここから出ていけ。アベレージヒッターだか何だか知らないが、能力を活かせるところで勝手に活かしてくれ」


 リーダーのカインさんがそう言うと、俺は拠点にしていた宿屋から追い出されてしまった。





*****************************





「いや、困ったな……これからどうしたらいいんだ」


 宿屋から放り出された俺は思わず呟いてしまう。



 カインさんは同じ村出身の先輩であり、その縁でパーティに入れて貰っていた。


 同郷の(よしみ)にもかかわらず、思いのほかドライな別れとなってしまった。



 しかし何の伝手(つて)もなく「アベレージヒッター」などと言うよく分からない能力を拾ってくれるようなパーティがあるとは思えないし、冒険者稼業をやめたとして他に何が出来るわけでもない。


 ひょっとしたら、いよいよもって詰んでしまったのだろうか俺の人生。



「ベイス君だね? 今までずっと君のことを追いかけてきていた者だ。どうやらパーティを追放されたみたいだが、私の話を聞いてくれないか?」


 途方に暮れていた俺に、何やら胡散臭いおっさんが話しかけてくる。


 しかし、その目の光はただものではない雰囲気を宿していた。



「ええと……あなたは?」


「私はプロ野球のスカウトだ。本来であれば日本でスカウティングをしているのだが、最近は色々と事情があって異世界方面でも選手を探していてね。君さえよければ是非うちで働かないか?」


 青色の毛糸で編んだ帽子を被った男は俺にそう告げる。



「言ってることがよく分からないのですが、俺を仲間に入れてくれるってことですか?」


「そうだ。君のヒッティング技術は目を見張るものがある。サードの好打者を探しているうちのチームに是非欲しい」


 何を言っているのか分からないが、要するに俺をパーティに入れてくれるらしい。


 見た目はちょっと胡散臭いが、俺はおっさんの誘いに乗ることにした。






*****************************







「打ったー! ボールはセカンドの頭を越えて右中間真っ二つ―! ベイス選手、走者一掃となる3点タイムリーヒットー!」


 満員の客席の中、晴れ晴れとした蒼天の下で俺は高らかと拳を突き上げた。



 俺は今、冒険者ではなくプロ野球選手としてある在京球団のクリーンナップの一角として打棒を稼いでいる。


 外れスキルだと言われてきた「アベレージヒッター」だが実はヒット性の当たりを量産する超優良スキルであり、三番バッターとしてこれ以上ない適性があったようだ。



 年俸はおよそ3億円。


 冒険者をやっていた頃からは信じられないくらいの稼ぎだ。


 最初は文化や仕事の違いに戸惑ったがわりとすぐに慣れる事が出来た。



 前にパーティを組んでいたカインさん達は、相変わらず細々と冒険者をやっているらしいが、俺を追放してからあまりうまくいってないらしい。


 あんまり向こうの世界の情報は入ってこないが、風の便りで聞いた。



 しかしそんなことはどうだっていい、今の俺はスキルを活かしてこっちの世界で活躍しているのだ。


 今日も大勢の観客の声援を浴びながら、俺はヒットを量産している。





 ところでムード×ってなに?






能力の説明


アベレージヒッター:ミート打ちした時にヒット性の当たりが出やすくなる。古くはイチローから、最近では高打率を残して首位打者を取った選手につけられる。


弾道:1から4まであり数字が高いほど打球の角度が上がる。ミートヒッターは3くらいが適正だが、アベレージヒッターなら別に4でもフライになりにくい。


魔術師:華麗な守備力を見せる特殊能力である「守備職人」の更に上位互換。現役選手で持っている人はいない。


ムード×:ベンチ入りしていると味方の打力が下がるバッドステータス。こちらも現役選手で持っている人はいないから安心して欲しい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 追い出す側の理由に正当性しか無くて笑った
[良い点] これは笑うw よいアホ作品でした(※褒め言葉です
[良い点] こんな選手がいるんだ!(*^○^*) [一言] 果たして何人目の「ベイス」なんやろなあ…
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