表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/1520

76 運命の悪戯

 ウルス王子のことをかれたマリシ将軍も、逆にまじまじとゾイアを見た。

 さらに横のロックを見て、もう一度ゾイアの顔を確認した。

「おぬしらは、二人ともバロード人には見えんな。若い方は明らかに沿海えんかい諸国のだろう。いや」ゾイアの髪の色を見直し「うむ。おぬしの方は混血かもしれぬな」

「いえ、この身体からだは、元々生粋きっすいのバロード人でございました」

「これは、なことを聞くものだ。めている、というわけでもなさそうだな。瞳もバロードでは見かけぬ色をしておるしな」

「事情がございます」

「では、その事情を聞こう。その内容によっては、先程さきほどの質問に答えてもよい」


 ゾイアは、スカンポ河の近くでウルスと出会って以来の出来事を、ウルス自身から聞いたことも含めて、つまんで説明した。

 ただし、もう一人の人格である姉のウルスラのことだけはせた。


 聞き終わったマリシは、「信じられん」とうめいたが、すぐに「いや、変身は事実だしな」とつぶやいた。

「すると、クルム城の手前で別れて以来、ウルス王子とは一度も会っておらんのだな」

「はい。何とか消息しょうそくを知りたいと自由都市サイカの情報屋に頼んだところ、北長城きたちょうじょうに入ったらしいと」

「そうか」

 マリシは太い息をき、「すまぬ」と頭を下げた。

 ゾイアの表情が強張こわばった。

「もしや、お生命いのち別状べつじょうが」

「ああ、いや、たぶん、ご無事ぶじのはずだ」

「おお、それは良かった」

 心底しんそこホッとした様子のゾイアを見て、マリシは微笑ほほえんだ。

「おぬしの話は突拍子とっぴょうしもないが、心根こころねしかとわかった。すべて話そう」


 自分たちが北を目指めざしているかんに、逆にウルスは南下したと知って、ゾイアは少し落胆らくたんしたようだが、すぐに気を取りなおした。

「わかりました。将軍の配下はいかの方とご一緒ならば、無事に沿海えんかい諸国にお着きでしょう。われのたすべき責務せきむ肩代かたがわりいただき、感謝申し上げる」

「なんの。本来ならここでかくまうべきだったかもしれぬが、北長城をあずかる者として、無用に中原ちゅうげん政争せいそうに巻き込まれることはけたかった。今となっては笑止千万しょうしせんばんな話だが」

 自嘲気味じちょうぎみに笑うマリシに、ゾイアは首を振った。

「いや、それは違いまする」

「違う、とは?」

「今こそ、北方への備えをあらためるべき時です。北方警備軍の役割は、今後一層いっそう重大となりましょう」

「ほう。それは何故なにゆえ?」

僭越せんえつながら、哨戒兵レンジャーとは、そもそも哨戒しょうかい、すなわち、敵の動静どうせいを見張る役目のはず。今回、如何いかに想定外とはいえ、易々やすやすと防衛線を突破されたのは、失礼ながら職務怠慢しょくむたいまんと言わざるをません。至急しきゅう態勢たいせいを立てなおすと共に、スカンポ河および対岸地区にまで防衛線をばすべきです」

 マリシは笑いながら「よくもズケズケと言いおったな。覚悟せよ」と姿勢しせいあらためた。

「元闘士ウォリアガイアックこと、北方警備軍新兵ゾイア、おぬしに千人長をめいずる」

 小隊長をび越えて、その上の千人長である。

 更にその上には、将軍本人しかいない。

「あ、いや、それは」

「もう決めた。言ったことの責任は取ってもらうぞ」

 いいことを思いついたとニヤついていた将軍は、ゾイアの横でひっそりと黙っているロックに目をめた。

「おお、これはすまん。おぬしは何が望みだ。ペテオからは是非ぜひ工兵エンジニアにと、推薦を受けたが」

 珍しく思いめた表情のロックは、首を振った。

「いや、その前に、おいらも聞きたいことがあるんだ。将軍さまの顔にどうも見覚みおぼえがあると、さっきから考えてたんだ。将軍さまは、元海賊の、ツイムってあんちゃんを知らねえかい?」

 マリシは、今度はロックの顔を驚きの表情で見た。

何故なにゆえおまえがツイムの名を知っておる?」

「やっぱり知ってるんだね。ツイムってあんちゃんは、おいらがまだ小さいころ命懸いのちがけでおいらと母ちゃんを助けてくれたんだ!」

 マリシは、遠い記憶を辿たどるように目を閉じた。

 再び目をひらいた時には、ゾイアの連れとしてではなく、ロック自身を改めて認識した顔をしていた。

「そうか。あの時の坊主ぼうずか」

「やっぱりそうなんだね! あの時、将軍さまは、ツイムのあんちゃんに自分のとこに来ないかって言ってたろ。おいら、会ってお礼を言いたいんだ。ここにるんじゃないか?」

 勢い込んで聞くロックに、マリシはまなそうな顔をした。

運命の女神フォトナ悪戯いたずらかのう。まさにウルス王子を沿海諸国にお送りしている者こそ、ツイムなのだ」

 ロックはあきらめ切れぬように、「じゃあ、無事に送り届けたら、ここに戻って来るんだよね?」とたずねた。

 だが、マリシはかぶりを振った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ