69 新しい仲間
(作者註)
今日も、ペテオさん目線です。
カツンという乾いた音がした。
二人の動きが止まっている。
それはペテオが見たことのない、不思議な光景であった。
マーサ姫の突き出した細剣と、元闘士だというガイアックの木剣が、三分の一程重なりあっている。
よく見ると、レイピアの刀身が木剣に突き刺さっているのだ。
堅い樫材の木剣に、一撃でそこまで突き刺すマーサ姫の膂力もさることながら、それを木剣の中心軸から寸分もブレずに受けたガイアックの方は、神業と言うしかない。
勿論、止まっているように見えても、両者が物凄い力で押し合っているため、メリッ、メリッという音と共に少しずつレイピアが木剣に喰い込んでいる。
と、いきなりガイアックが、木剣から手を離した。
勢い余ったマーサ姫は、たたらを踏むように前のめりに二三歩進む。
ガイアックは体を開いてそれを躱すと、レイピアを握ったまま伸びて来るマーサ姫の腕を掴み、投げを打つ体勢に持ち込んだところで、動きを止めた。
「このようなもので、如何だろう?」
「まだよ!」
マーサ姫は、ガイアックの背後から腕を回し、裸締めを掛けようとしたが、その手を握られ、クルリと反転されて後ろ手を取られた。
呆然と成り行きを観ていたペテオたちは、騒然となった。
「姫御前から手を離せ、この下郎め!」
だが、マーサ姫の方が「騒ぐな!」と叱責した。
「ガイアックとやら、もうよい。わらわの手を離してくれ」
「わかった」
ガイアックはスッと手を離すと、少し間合いを取って立った。
その意味がわかったのか、マーサ姫は苦笑した。
「もう終わりじゃ。騙し討ちになどせぬ。おまえは父上の貴重な戦力となろうからな」
「父上?」
「ええ。北方警備軍のマリシ将軍こそ、わらわの父よ。北方からの脅威に備え、常に有能な戦士を探しているわ。おまえも今日からその一員よ」
そこで、初めて見せるような悪戯めいた笑顔で、「おまえの恋人もね」と告げた。
旅芸人のレックスが、「違うって言ってんだろ、このじゃじゃ馬娘!」と叫ぶのを聞き流し、マーサ姫は右手を差し出した。
ガイアックは片膝をついてその手を取り、型どおり手の甲に口づけした。
マーサ姫は軽く頷き、「お立ちなさい」と命じた。
「わらわの親衛隊に入れたいところだけど、今は哨戒兵が必要なの。後はペテオに教わってちょうだい」
「うむ。わかった。そうしよう」
マーサ姫は「おまえは本当に面白い男ね」と笑うと、ペテオに「任せたぞ!」と告げ、風のように去って行った。
ガイアックはペテオの前まで来ると、少しも悪びれず「よろしく頼む、先輩」と笑顔を見せた。
何か文句を言ってやろうと身構えていたペテオは、その笑顔を見た瞬間、最早何の蟠りも無くなっていることに、自分でも驚いた。
「ああ。その、なんだ。おれにはそれでいいが、姫御前にはもう少し言葉遣いを改めろよ」
「そのように心掛けよう」
「ふん、まあいいか。おれはペテオだ。もう十年程、哨戒兵をやってる。向こうに突っ立ってる太っちょが工兵のヨゼフだ。ちょっと言葉が不自由だし、剣の方はからっきし下手だが、この長城内の様々な機械を扱ってる。武器にも詳しい」
「われは、ゾ、いや、ガイアックだ。連れは旅芸人のレックスだ。ああ見えて、手先は器用でな。雑役兵でもいいが、今の話を聞くと工兵でもいいかもしれぬ」
「ほう、それならこっちもありがたい。なかなか工兵のなり手がいなくてな」
「それは良かった」
「では、これから案内しよう」
事態がよく呑み込めていないようなヨゼフと、まだ不機嫌な旅芸人のレックスも加わり、四人で受付所を出た。長城の中を見学しようと城壁内に入った、正にその時。
けたたましい喇叭の音が城内に響いた。
城壁の上の見張り台から、当直兵が大声で叫んでいる。
「敵襲だーっ! クビラ族と思われる騎兵、凡そ三千! 総員、戦闘配置につけーっ!」
ペテオは振り返り、新入り二人に「案内は後だ。おれも行かなきゃならん。おまえたちどうする?」と尋ねた。
無論、どこかで待機させるつもりで訊いたのである。
しかし、ガイアックはニッコリ笑い、「われにも何か武器を貸してくれ」と申し出た。
「え? いいのか?」
「われの覚悟は決まっている。襲い掛かって来る敵は、ただ斃すのみ!」




