表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/1520

51 罠

 ティルスは、また同じ夢を見ていた。


 そこは城の中のようであった。ティルスの前を、パタパタと足音を立てながら幼い子供が走っている。ティルスと同じく、金髪でコバルトブルーの瞳をしていた。

「やだよ。ぼく、剣術の稽古けいこなんかしたくない!」

「何をおっしゃるのです。最悪の場合に自分の身をまもるのは、あなたさま御自身なのですよ」

 男の子をしかっていたはずなのに、相手はいつの間にか女の子に変わっていた。

 これもいつものことだ。

 女の子の瞳は灰色に近いあわいブルーである。

「わたしには剣術なんか必要ないわ。魔道を使えばいいんだもの」

「人前で、それをしてはなりません!」

 次の瞬間、女の子の手から見えない波動のようなものがほとばしった。

 それがティルスの腹にドンと当たると、こらえ切れずに倒れてしまう。


「うっ」

 いつものように、きながら目がめた。

 一瞬、自分がどこにいるのかわからなくなったが、ルキッフのはからいでティルスに与えられた個室の中だった。

 いつもと違うのは、朝稽古にさそいに来たらしいベゼルが、目の前に笑って立っていたことである。

 ごつい体つきに似合にあわぬ、うねうねと波打つくせのある長い黒髪くろかみを、後ろでたばねている。

随分ずいぶん楽しい夢を見ていたらしいな」

「楽しい?」

「ああ、ずっとニコニコしていたぞ」

「そうか」

 笑うような内容の夢ではなかった気がするが、もう記憶がうすれ始め、ボンヤリとしか思い出せない。

 しかし、それ以上夢のことを考えている余裕はなかった。『あかつきの軍団』との再試合が目前に迫っていたからだ。


 二人でとりでの中庭に出ると、木剣ぼっけん素振すぶりから始め、実戦に近い打ち合いまでこなし、近くの川で汗を洗い流した。


 その後、長老のドメスの部屋に行って、朝餉あさげった。

 今日は、雑穀ざっこく山羊やぎちちかゆであった。

「このようなものしかなくて、すまん」

 そう言ってびるドメスを、ベゼルは笑ってとどめた。

「何言ってんだよ。おれたちにはこの上ない御馳走ごちそうさ。なあ、ティルス」

勿論もちろんだとも」

 ドメスもうれしそうに笑ったが、すぐに表情を引きめた。

「今度の試合のことだが、用心してくれ」

「用心、とは?」

 無邪気むじゃきたずねるティルスの横で、さすがにベゼルはにがい顔をした。

わなかもしれない、ということさ、ティルス」

「罠?」

 ドメスが説明した。

「わしら『荒野あれのの兄弟』は、野盗とは言っても、首領かしらのルキッフの考えで、非道ひどうなことはしない。じゃが、『暁の軍団』は、団長のバポロの性格そのままに、もうけのためなら、誘拐ゆうかいだろうが虐殺ぎゃくさつだろうが、なんでもやる。そんな連中が、自分らのとりでの中で開催かいさいする試合を、果たして正々堂々せいせいどうどうとやるじゃろうか?」

 ティルスもいやな顔をした。

ズルをするというのか?」

「わからん。まあ、わしもベゼルもなるべく近くで目を光らせるがな。それに、試合で不正をするぐらいならまだしも、それ以上の危険があるかもしれぬ」

「うーむ、わたしは無論むろんよく知らない相手だが、バポロというのは、そんなに悪いやつなのか?」

 すると、ベゼルが苦笑した。

「バポロだけが悪い人間というより、野盗の首領ってのは、大方おおかたそんなもんだ。うちの大将たいしょうが例外すぎるんだよ」

 ティルスも「確かに」とうなずいた。

「記憶をくし、身元もわからないわたしを、こうして代表闘士ウォリアに選んでくれるのだからな。昔からそうなのか?」

 急に二人がだまり込んだため、ティルスも、ルキッフの過去をくことがタブーらしいことがわかった。

 以前、ルキッフがいつもしている黒い眼帯のことを、何気なにげなくたずねた時もそうだったことを不意ふいに思い出し、ティルスはこれ以上穿鑿せんさくするまいと決めた。



 一方、対戦予定地の『暁の軍団』の砦では、ガイアックことゾイアに負けた赤毛のザクブルが、団長のバポロの部屋に抗議こうぎに来ていた。

「どうしてあんな流れ者なんかに、大事な試合をまかせるんだ? 今度負けたら、取り返しがつかないぜ!」

 酒の飲み過ぎで鼻が赤く、下膨しもぶくれであごゆるみ、頭髪もほとんどないバポロは、狡猾こうかつそうな笑顔を浮かべて聞いていた。

「わかっておる。だが、勝負の結果がどうあれ、ルキッフたちを無事に返すつもりはない。だから、試合など、本当はどうでも良いのだ。あの流れ者だとて、話が違うと騒ぐようなら、どさくさにまぎれて始末する。おまえも代表にえらばれなかったことを、むしろ感謝するんだな」

 そう言うと、バポロは美味うまそうに葡萄酒ぶどうざけはいを飲みした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ