48 覆面の闘士
優秀な闘士を探しているというリゲスの話に、ゾイアは珍しく興味を示した。
「ほう。われのような流れ者でもよいのか?」
リゲスは反応があったことを喜び、「勿論だとも!」と胸を叩いた。
前に座っているロックが、止めた方がいいという目配せをしていたが、ゾイアは気がつかないのか平然と会話を続けた。
「だが、われが参加するには一つ問題があるな」
リゲスは、来たなという顔で、「金額の問題か?」と狡そうに笑った。
「いや、そうではない。われは『荒野の兄弟』とは因縁があって、顔を見られたくないのだ。覆面をして出場してもかまわないか?」
「へえ。そうかい。まあ、流れの闘士なんてのは、多かれ少なかれ脛に疵を持ってるもんだからな。いいだろう。おれが『暁の軍団』に上手いこと言っといてやろう」
「頼む。ああ、それから、闘うのはあくまでもこれ一回きりだ。われは人探しの旅の途中で、長居はできんからな」
「そいつは、まあ、仕方ねえだろうな。もっとも、『暁の軍団』の首領のバポロがおめえを気に入ったら、放してくれねえかもしれねえけどよ。いずれにしろ」
死んだらそれでお仕舞いだから、とでも言いたかったのかもしれないが、リゲスもさすがにその言葉は飲み込んだ。
「いずれにしろ、話はつけとくから、明日にでも『暁の軍団』の砦に来てくれ。おれも今は客分でそこにいる。場所はロックが知ってるはずだ。おお、そうだ、忘れてた。おめえの名前を聞いとこう」
「ゾ、いや、ガイアックだ」
「ガイアック、楽しみに待ってるぜ」
リゲスは麦酒の杯を乾すと、当然のように金を払わずに出て行った。
それを待ちかねたように、ロックが「何やってんだよ、おっさん!」と文句を言った。
「いけなかったか?」
「当ったり前だろ! あのリゲスってのは、スカンポ河の流域を根城にする破落戸で、金のためなら強盗でも誘拐でも何でもやるって悪党なんだぞ!」
「そうなのか。おまえとは随分親しげだったが」
ロックは怒りとも恥ずかしさともつかぬ表情で顔を赤くし、「だってしょうがねえだろ、おいらの従兄弟なんだからさ」と吐き捨てるように言った。
「なるほど。それなら尚更都合がいい。われに万一のことあった場合、おまえの生命が危ういのではないかと、それだけが気懸りだったのだ。おまえの従兄弟なら、少なくとも殺される心配はあるまい」
「何言ってんだよ、ゾイアが負ける訳ないだろ」
「いや、それはわからん。何しろ相手は『荒野の兄弟』だ。アジムとかいう大男も相当に手強かったが、今度の相手は恐らくそれ以上だろう」
それを聞いて、ロックは頬っぺたを膨らませた。
「だったら、なんで志願なんかしたんだよ!」
「金を稼ぐためさ。これ以上、おまえに盗みをさせたくないのだ」
ロックは半分嬉しそうに「余計なお世話だよ」と言い返した。
「いや、それがわれのためでもあるのだ。おまえが捕まったりしたら、必ず助けに行かねばならん。すると、その相手と事を構えることになる。それくらいなら、われがまともな仕事で稼いだ方がよい」
「ちっ、闘士がまともな仕事かよ!」
「わかっている。だが、今のところ、われができる仕事はこれくらいだ」
ロックは「そうか。そうだな」と呟くように言うと、一気に残りの麦酒を飲み、杯を置いた。
「けどよ、おっさん。だったら、先においらに言ってくれりゃあ、もっとまともな興行師を紹介してやったのに。よりによってリゲスなんて」
「まあ、良いではないか。これも何かの縁というものだろう」
「全く、おっさんは能天気だな。ふーっ。おいら、ちょっと小便してくるよ」
ロックが居酒屋の外に出ると、だいぶ日も傾き、薄暗くなっていた。
ロックはさりげなく左右を見回し、周辺に誰もいないのを確かめると、懐から小さな紙切れを取り出した。
そこに携帯用の羽根ペンで【明日は『暁の軍団』の砦へ行く】と書きつけた。
その紙を小さく丸めると、掌に乗せ、目を瞑った。
呼吸を整え、目を開くと、両目とも真っ赤になっていた。
ロックがヒューッと口笛を鳴らすと、どこからともなくコウモリが飛んで来て、掌の紙を脚で掴み、いずこかへ飛び去った。
再び目を閉じ、開いた時には普通の目に戻っていた。
「あれ? おいら何しに来たんだっけ? ああ、そうか。小便だ」
ロックは、焦って裏庭の方へ回って行った。




