479 バロード内戦(14)
ニノフから機械魔神の危険性を指摘され、急いで廃都ヤナンに戻ったクジュケは、街に異常がなくホッとする。
だが、ウルスの部屋で、デウスエクスマキナを倒した手柄話をしているロックの横柄な態度にクジュケが腹を立て、言い争いになってしまう。
睨み合う二人に、どう声を掛けようかとウルスが困惑しているところへ、いきなり部屋の扉を開けてタロスが入って来た。
蛮族軍一万が王都バロンを離れて真っ直ぐ南下しているため、ツイムが正規軍七千を率い追撃しているが、自分も援軍を連れて合流したい、というのである。
ウルスが唖然としている中、ロックとクジュケがほぼ同時に、タロスに待つように叫ぶ。
そこでクジュケが軽く肩を竦め、「どうぞ」と掌をロックに向けて、先に発言するよう促した。
「ああ、うん。じゃあ、言うぜ。これは罠だ。間違いねえ。だって、蛮族軍が真南に下って何の得がある? サイカへ行くったって、遠すぎらあ。ってことは、ツイムの兄ちゃんは、誘き出されたんだ。だから、援軍を出すんじゃなくて、引き返すように伝えるべきなんだ。おいらの言いたいことはこうさ。さあ、次、いいぜ、尖がり耳のおっちゃん」
クジュケは不愉快そのものの顔をしていたが、ポツリとこう言った。
「残念ながら、わたくしも全く同じ考えです」
対立していた二人が同じ意見であることに、ウルスは一瞬嬉しそうな顔になったが、そんな場合ではないと、表情を引き締めた。
「タロス、今二人の話を聞いていて、ぼくもそうだと思った。ツイムに戻るように伝えて。ただ、ツイムは自分が南へ誘導した住民のことを心配するだろうから、すまないけどクジュケはすぐに南に飛んで、住民の安全を確保してくれるかな。それから、ロックは敵の本当の狙いを探って来てよ。いい?」
テキパキと指示するウルスを見て、タロスは感激に目を潤ませながら「はっ、直ちに!」と一礼して出て行った。
クジュケは軽く自分の下唇を摘まみ、「うーん、なかなか難しい役目ですが、なんとかいたしましょう」と告げると、その場から跳躍した。
最後に残ったロックは、ニヤニヤ笑っている。
「ウルスも随分大将らしく、いや、王さまらしくなってきたもんだな」
ウルスは少し顔を赤らめ、「だと、いいんだけど」と言ったが、ふと不安そうな表情を浮かべた。
「お祖母さまは、ああ、今はお祖父さまか、大元帥になったって聞いたけど、いったい何を考えているんだろう?」
同じ頃、そのドーンは、偶然にもウルスの真下にいた。
ヤナンの地下神殿のある場所から真東に向かって横穴が掘られ、ちょうどウルスが策戦本部に使っている豪商の屋敷跡のある位置にまで達していたのである。
横穴では、大勢の蛮族が手に手に十字鍬を持ち、慣れない穴掘り作業をしていたが、あからさまに不平を漏らしている者も多い。
それを監督する立場であるらしい若い蛮族は、横で一緒に作業の進捗を見ているドーンに、先程から何度も頭を下げ続けている。
「申し訳ございません。思ったより手間取り、陛下にこんなところにまでご足労いただき、面目次第もございませぬ」
流暢に中原の言葉を話すところをみると、蛮族の中で唯一中原と交易を行うシトラ族の者であろう。
そのシトラ族の長である摂政レオンには冷淡なドーンが、この若者には笑顔を見せている。
「いや、おまえのせいではないさ、レロン。デウスエクスマキナの身体が思いの外深く埋もれており、掘り出して頭部を取り外すのに時間が掛かってしまった。破損も甚だしく、余も本当に熱光線が出せるか不安になったほどだ。まあ、結果的には上手くいったがな。それに、作業をさせておる者たちが不満なのもわかっている。元々戦士としての誇りが高い蛮族は、こういう土木作業を嫌う。まして、おまえはレオンの甥とはいえ、歳も若い。他所の部族の者たちの統制は難しかろう。よくやってくれていると思うぞ」
レロンという若者は、感激で顔を真っ赤にした。
「有難き幸せ! 陛下の御ために、このレロン、不肖ながら粉骨砕身いたしまする!」
大仰な言い方にドーンは苦笑した。
「まあ、もう少し肩の力を抜け。それに、余は今は聖王ではなく、大元帥だ。陛下ではなく、閣下と呼べ」
「御意!」
話が終わったと見て、二人の傍に作業中の蛮族が一人寄って来た。
「とても、固い、岩に、ぶつかった。また、融かして、くれ」
ドーンはまた苦笑した。
「こっちは極端に礼儀知らずだな。まあよい。どうだ、レロン、さっきやって見せたように、今度はおまえがやってみよ」
「はっ!」
レロンは緊張した面持ちで、デウスエクスマキナの巨大な頭部が載った台車を引いて来た。
すぐに操作を始めようとするレロンを、ドーンは止め、作業中の蛮族たちに蛮族の言葉で呼び掛けた。
『これより、また熱い光を放射する! 作業を中断し、後ろに退け!』
ノロノロと移動する蛮族たちに、さすがにドーンも少し苛立ちを見せた。
それに気づいたレロンが「構わずにやりましょう」と進言すると、ドーンは表情を和らげた。
「まあ、待て。無用に他部族の反感をかうな。おまえにはもっと活躍してもらわねばならん。早晩、レオンを隠居させ、おまえを後釜に据えようと思っておる。自重せよ」
「ははーっ!」
ところがそのレオンは、ドーンの不在をいいことに、勝手に軍を動かしていたのである。




