表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
490/1520

470 ミッテレ・インポシビリタス(7)

 レウス王子側から言い渡された三日間の猶予ゆうよの二日目の早朝、クジュケは暁の女神エオスとりでに到着した。

 まだ誰も起きていないであろうとの予想は外れ、張り出し露台オープンテラスにニノフが座っていた。

 大きめのポットをテーブルに置いて、薬草茶ハーブティーを飲んでいたようだ。

 目の前に跳躍リープして来たクジュケを見て、ニノフは何故なぜか、ややホッとしたような顔をしている。

 クジュケはその前に進み、片膝かたひざいて挨拶あいさつをした。

「お久しうござりまする、ニノフ殿下でんか

 ニノフは笑いながら手を振った。

「ああ、そのような堅苦かたくるしいことはせずに、一緒いっしょにハーブティーを飲まないか?」

「ありがとうございます。ですが、緊急のお知らせにて」

 ニノフも表情を改めた。

「おれを牢屋ろうやに入れるとかいう摂政レジェンスレオンの通達つうたつの件なら、こちらにも来ているよ。無礼ぶれいな話だし、従うつもりはないけどね。すでに国境は封鎖ふうさし、副将ふくしょうのボローを警戒に当たらせている」

「おお、素早すばやい御対応、安堵あんどしました」

 まだ片膝を着いたままのクジュケを、ニノフは微笑ほほえみながら手招てまねいた。

「取りえず座らないか?」

「ありがとうございます」

 遠慮がちに向かい側に座るクジュケに、ニノフはたずねた。

「どうしたの? 向こうで何かあった?」

 クジュケも苦笑して答えた。

「すみません。ある男が、ウルス王子に対してあまりにもれ馴れしく、腹が立ったので、自分はキチンと礼儀正しくしようと思いまして」

 ニノフも「ああ」と笑った。

「ロックだね。しかし、ああいう態度はかれの持ち味で、あれはあれでいと思うよ」

 クジュケは身を乗り出した。

「そこなんです! ゾイア将軍もそうですが、みんなしてあの男を甘やかすから」

 ゾイアの名前が出た瞬間、ニノフは少し顔を強張こわばらせた。

 が、すぐに笑顔になって「まあまあ」とクジュケをなだめ、みずからカップをもう一つ用意してポットからハーブティーをそそぎ、クジュケにすすめると、おもむろに本題に入った。

「今回の件だけど、ウルス王子のほうは、どう対処されるおつもりなの?」

 クジュケも、一口ひとくちハーブティーを飲むと、いつもの有能な官僚かんりょうの顔に戻った。

「はい。ウルス殿下も理不尽りふじんな要求に応じるつもりはありません。向こうは三日間の期限を切ってきましたが、油断することなく、いつでも不測ふそくの事態に対応できるよう、準備を進めています。わたくしのように各地へ飛んで連絡すると共に、予定戦場の住民の避難誘導など、手分けして当たっております」

「情報収集は?」

 クジュケは下唇したくちびるをちょっと突き出したが、ニノフに対して失礼になると気づき、あわてて引っ込めた。

「ロックがやっています。ガサツな男ですが、何しろ下世話げせわなことにはくわしいので。ただ、報告の仕方には問題がありまして」

 クジュケはさら文句もんくを言いたそうであったが、ニノフは違うことを考えているようであった。

「かれなら、抜かりはないと思うけど。ああ、話をちゃんと聞いてなくて、ごめんね。ちょっと気になっていることがあって」

「何でしょうか?」

「まあ、単純な話だけど、蛮族軍は二万、正規軍は四万五千だよね。今回、おれの方は援軍を出す余裕はないけど、二万はいる。それに自由都市同盟が、さあ、今では同じ二万ぐらいかな。場合によったら、プシュケー教団の援軍も来るかもしれない。それなのに、レオンは強気だ。常識的に、これは何かある、と思うよね」

「ああ、それでしたら、シャンロウが見つけてくれました。中原ちゅうげんの南側を大きく迂回うかいして、ガルマニアの竜騎兵ドラグン八千騎がバロードに向かって来ております」

「八千騎? 随分ずいぶん少ないね」

大蜥蜴おおとかげにも戦闘力がございますから、実際の戦力としては、その倍ぐらいかと」

「に、しても、公称こうしょう二十万とも三十万ともわれるガルマニア帝国軍の規模を考えると、如何いかにも少ないな。まあ、宰相さいしょうのチャドスに人望じんぼうがないとは聞くけどね。でも、ガルマニアが当てにならないとしたら、きっと、何かほかに戦力になるものがあると思うよ」

 クジュケは、「ああ、それなら」とうなずいた。

「殿下が想定されているのは、例の機械魔神デウスエクスマキナのことでございましょう。わたくしが山岳地帯を調べた限り、どこにもそれらしき姿も痕跡こんせきもなく」

 ニノフがさえぎって「地下は?」とたずねると、クジュケはギクリとした顔になった。

「そ、そこまでは」

「じゃあ、調べた方がいい。以前の戦いで、油断して進路をあからさまに見せた結果、ルキッフたちがった穴に落とされて、向こうはりたはずだよ。多分空は飛べないだろうから、ひそかに移動するとしたら、地下しかない」

 クジュケはその可能性に思い当たり、ブルブルッと身震みぶるいした。

「申し訳ございません。戻って来たばかりではございますが、すぐに調べに行ってまいります」

「そうしておくれ」

 来た時と違って、挨拶もそこそこにクジュケが帰ると、ニノフはその方向に頭を下げた。

「追い返すみたいで、すまない。優秀なおまえがここにいれば、必ず秘密に気づくだろう。でも、おれの言ったことにうそはないよ。ウルスを助けてやってくれ」



 その秘密の使命ミッテレに向かったウルスラとケロニウスは、アーロン辺境伯へんきょうはくから現地の情報を得るため、一先ひとまずクルム城へ到着していた。


 だが、そこは不気味ぶきみなほど静まり返っていたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ