461 バロード内戦(5)
シャンロウが持ち帰った情報を確かめに行ったというゾイアが不在のまま、豪商の屋敷跡の策戦本部では、使者としてレウス王子側の代表と会ったタロスの報告がなされた。
レウス王子の外曾祖父であるという蛮族の長老レオンは、先代の聖王カルスから摂政に任命されたと主張し、ウルスとニノフに対し、兵の返還を求めてきた。
更に、ウルスにはレウスの臣下となることを、また、ニノフに至っては、聖王の血筋を騙る罪人として牢に入ることを要求し、三日だけ猶予を与えるという。
激昂するロックやタロスに比べ、クジュケとゲルヌ皇子は冷静に疑問点を指摘した。
反発して喰ってかかるロックに、ゲルヌは苦笑して応えた。
「別に内緒にはせぬ。ロックも疑問には思わぬか? 何故三日待つのかと」
「そ、それは、だな。ええと、こっちの準備も色々あるだろうと」
クジュケが首を振った。
「あり得ません。こちらに温情を掛けるような連中ではありませんよ」
「じゃあ、何だってんだよ!」
ゲルヌが静かに答えた。
「時間稼ぎだ。機械魔神がまだ到着していないのか、或いは、シャンロウが発見したかもしれない援軍を待っているのか、であろうな」
すると、「んだ、発見しただよ!」というシャンロウの声が窓の外から聞こえてきた。
仲間内の対立に嫌気が差していたらしいツイムがサッと立ち上がり、「ちょっと待て。今開けてやる」と窓のところまで行った。
ツイムが木の窓を開くと、待ちかねたように鍔広帽子を被ったシャンロウが飛び込んで来た。
「おら、見つけただよ。あれはマオールの竜騎兵に間違いねえ。おらたちも、散々やられたからなあ。しかも、随分と沢山いたよ」
前置きもなく話し始めたシャンロウに、少し興奮が冷めた様子のタロスが聞いた。
「凡そ何騎ぐらいいたのだ?」
「そんなことおらに聞かれても、わかんねえよ」
こちらはまだ腹立ちが治まらないらしいロックが、「馬鹿野郎!」と怒鳴った。
「そんなんで、斥候が務まるかよ!」
シャンロウも負けずに「おら、斥候でねえ!」と言い返すと、先程までロックと対立していたクジュケまでもが、「正式な斥候でなくても、偵察に行ったのなら、それぐらい確かめてください!」と加勢した。
二人に言われてグッと返事に詰まってしまったシャンロウに、ゲルヌ皇子が助け舟を出した。
「ゾイア将軍が一緒だったのではないか?」
シャンロウはホッとしたように照れ笑いを浮かべた。
「そうだった。ゾイアさんから、手紙を預かってたよ」
また「それを早く言えよ!」と突っかかるロックに、兄貴分のツイムが「少し静かにしてろ」と窘めた上で、「おれが読んで、皆に聞かせよう」とシャンロウから手紙を受け取った。
急に出て行ってすまぬ。
シャンロウの報告が要領を得ないため、われが直接飛んで行って確かめることにしたのだ。
ガルマニア帝国の援軍は、竜騎兵凡そ八千騎だ。
大きく中原南部に迂回して、馬が通れない湿地帯を西へ進んでいる。
大蜥蜴は意外に脚が速く、恐らく四日後にはヤナンの近くまで来るだろう。
乗っている兵は、真っ黒の変わった甲冑を着ている。
近くに寄れなかったから詳しくは見れなかったが、鱗状の小さな鉄片を貼り合わせたもののようだ。
軽量化のためだろう。
馬と違い、大蜥蜴には戦闘力があるから、単純に考えても倍の兵力があると考えた方がいい。
因みに、シャンロウに聞いたところ、マオールでは忌避剤を城の周りに撒いて、大蜥蜴避けにしているとのことだ。
その薬を大量に作るようシャンロウに頼んだ。
竜騎兵の到着を少しでも遅らせることが、勝敗の鍵となるからな。
この手紙が届く頃には、タロスどのが戻って来て、先方の回答を皆に伝えているのではないかと思う。
恐らく相当に手厳しいものだろう。
竜騎兵の到着を待つため、多少の猶予期間を言って来るはずだが、あまり信じない方がいい。
シャンロウの前にクジュケから報告を聞いたが、中原の北側では、怪しい動きは全くなかったそうだ。
それが怪しい。
山中に隠されているという火を噴く鉄の巨人は、既にバロード国内に入っていると見るべきだ。
猶予期間を設け、こちらを油断させて攻めて来る可能性がある。
混戦の最中に竜騎兵が到着すれば、壊滅的な打撃を受けることになる。
綿密な情報収集が重要だ。
ロックにはすぐにでも動き始めてもらいたい。
同時に、王都バロン近郊の住民の避難を急いだ方がいい。
嫌な言い方だが、人間の盾にされる虞がある。
タロスどのやツイムたちで手分けして誘導してくれ。
さて、ここからは、われのことだ。
このような事態の時に、本当に申し訳ないのだが、別の重大な事案に対処する必要があり、暫く不在にする。
無責任との誹りは甘んじて受けるが、こちらも中原全体の死活問題なのだ。
どうか理解してくれ。
但し、われの不在が敵方に知られれば、侮られることになろうから、伏せて置いて欲しい。
われも、可能な時にはこちらに戻り、参戦するつもりだ。
それでは、ウルス王子、ゲルヌ皇子、クジュケ参与、タロスどの、ツイム、ロック、そしてシャンロウ、宜しく頼む。
「宜しくじゃねえよ!」
早速声を上げたのは、やはりロックであった。
「目の前で戦争が起こりそうだって時に、もっと大事な用があるからって大将がいなくなるなんて、聞いたこともねえや! しかも、一番上に立つ王子さまは熱出して寝てるし、やってらんねえぜ!」
今度こそキチンと叱ってやらねばと思ったらしく、ツイムが大きく息を吸った時、玄関の方から声が聞こえた。
「ぼくなら、もう大丈夫だよ!」




