459 バロード内戦(4)
【作者註】
昨日も申し上げましたように、内戦のエピソードと、ウルスラ王女のミッションを交互に進めて行きます。少々ご面倒かもしれませんが、よろしくお願いいたします(^^;;
「おっさんがいなくなったって、どういうこったよ?」
ロックが、同郷の兄貴分であるツイムに不満げに尋ねているのは、豪商の屋敷跡を手直しした策戦本部の二階であった。
部屋数が多いため、私室として一人ずつ部屋を宛がわれており、ここはツイムの部屋である。
聞かれたツイムも、要領を得ない顔で答えた。
「おれも詳しくは知らんが、東方魔道師のシャンロウが何か重大な情報を持ち帰ったらしい。それを確かめに行くとだけ、クジュケに言い残したそうだ」
「これから決戦だってのに、大将自ら斥候に出るなんて、いったいどういうつもりだよ!」
声を荒げるロックの後ろから、「全くですよ!」と同調しながら部屋に入って来たのは、魔道師のマントを羽織ったクジュケであった。
「ガルマニア帝国が密かに援軍を送っていないか、わたくしが中原の北側を、シャンロウが南側を手分けして調べましたが、全体を統括するわたくしを差し置いて、直接ゾイア将軍に報告するなんて!」
どうやら、クジュケの怒りはゾイアではなく、同じ魔道師のシャンロウに向かっているようであった。
とばっちりで二人に不満をぶつけられ、ツイムが困っているところへ、一階から上がって来たタロスが声を掛けた。
「レウス王子側から回答があった。下で今後の対応を話し合うから、みんな来てくれ」
ツイムは、猶もブツブツ文句を言うロックとクジュケを説得し、三人で一階にある大広間に向かった。
中に入るなり、長方形のテーブルに一人座って待っているゲルヌ皇子を見て、ロックが顔色を変えた。
「おい、赤毛小僧! そこはウルスの席だろうが!」
ロックの言うとおり、いつもの策戦会議ではウルスが座る正面の席に、ゲルヌが座っていたのである。
しかし、ゲルヌは少しも動揺せず、サラリと説明した。
「ウルスは今、熱を出して寝込んでいる。余は、直接本人から代行を頼まれたのだ。さあ、会議を始めようではないか」
猶も文句を言おうとするロックをツイムが抑え、席に着かせた。
クジュケもその向かい側に座り、最後にタロスがクジュケの横に座った。
司会役は、珍しくタロスが務めるようであった。
外交交渉など苦手なわたしですが、ウルス王子、いえ、バローニャ公ウルス殿下の名代として、本日、レウス王子の即位無効の訴えと聖王宮の明け渡しを申し入れに行って参りました。
場合によってはその場で戦になる可能性もあり、千人隊を同行させ、まずは城門の前から呼び掛けたのです。
すぐに矢が飛んで来るものと覚悟しておりましたが、意外にもあっさり城門が開かれ、わたしと護衛の数名のみという条件で、招じ入れられました。
対応したのは、レウス王子の、まあ、向こうはレウス陛下と呼んでいましたが、その外曾祖父に当たるという、レオンという蛮族の老人です。
当然、わたしは抗議しました。
わたしはウルス殿下の名代という公的な立場で来ているのに、如何にレウス王子の親戚であろうが、私人が対応するのは無礼であろうと。
ところが、先代のカルス陛下から正式に摂政に任命されたと言って、王家の印璽の入った書面を見せられました。
どうせ勝手にでっち上げたものでしょうが、それを言い争ったところで仕方ありませんから、こちらの申し入れをそのレオンに伝えました。
怒り狂うかと思いきや、極めて冷静に、但し、断固たる態度で、こう回答しました。
レウス王子の即位はカルス陛下の遺言に基づくものであること。
従って、聖王国の正統な後継者はレウス王子であり、ウルス王子はその家臣となるべき立場であること。
また、ニノフ王子については、その出自に些か疑念があり、バロード王家の一員とは認められないこと。
よって、両王子が現在配下に置いている兵士全員を速やかに聖王家に返還し、ウルス王子は王都バロンに上洛して聖王レウス陛下に忠誠を誓い、ニノフ王子は王家の名を騙った咎により入牢すること。
そのための猶予として、明日より三日間与えるが、これらが四日目の朝までに実行されない場合には、直ちに武力を行使するであろう、と。
タロスがそこまで言ったところで、ロックが激昂して立ち上がった。
「ふざけるのも大概にしやがれってんだ! タロス、あんた、そんなこと言われて、おめおめと帰って来たのかよ!」
タロスも色を成して「わたしとて、腸が煮えくり返っている!」と怒鳴り返した。
ツイムが「二人とも落ち着け」と宥めている横で、クジュケが「おかしいですね」と首を傾げた。
ゲルヌ皇子も「そうだな」と頷いた。
その二人の態度に、ロックが喰ってかかった。
「また、尖がり耳同士で、内緒話かよ!」
ゲルヌが苦笑して応えた。
「別に内緒にはせぬ。ロックも疑問には思わぬか? 何故三日待つのかと」
ロックは、グッと言葉に詰まった。
「そ、それは、だな。ええと、こっちの準備も色々あるだろうと」
クジュケがサラサラの銀髪を揺らして首を振った。
「あり得ません。こちらに温情を掛けるような連中ではありませんよ」
「じゃあ、何だってんだよ!」
それには、ゲルヌが静かに答えた。
「時間稼ぎだ。機械魔神がまだ到着していないのか、或いは、シャンロウが発見したかもしれない援軍を待っているのか、であろうな」




