456 バロード内戦(2)
ウルスたちは、ヤナンが王都であった時代の豪商の屋敷跡に策戦本部を置いた。
準備が整った次の日、主な面々が一階の大広間に集まり、朝食を摂りながら策戦を話し合うことになった。
テーブルに着いたのは、ウルス、ゲルヌ皇子、クジュケ、タロス、ゾイア、ツイム、そしてロックの七人である。
ウルスは「最強の布陣だね」と嬉しがったが、意外にもゾイアが反論した。
「いや。このままでは心許ない気がする」
ロックが「おっさん、珍しく弱気だな」と笑う。
すると、ゲルヌ皇子が「余も危ういと思う」と述べた。
「軍事的な分析はゾイア将軍に委ねるが、残念ながら、ウルスの置かれている政治的な立場は弱い。内実はどうあれ、現状は向こうが正統政府で、われらの方が反乱軍だ」
ゲルヌを嫌っているロックが、フンと鼻を鳴らした。
「馬鹿なことを言うんじゃねえよ。向こうは蛮族で、こっちはバロード人だ。まあ、おいらは違うけどな。ってか、この場にはウルスとタロスだけだが、兵士はみんなバロード人だぜ。どっちが正統か、わかり切っているじゃねえか」
ロックの言うとおり、ここに集まっている中では、金髪碧眼のバロード人はウルスとタロスのみで、ロックとツイムは肌が浅黒く焦げ茶色の髪のカリオテ人、ゲルヌとクジュケはどちらも妖精族の血を引いているものの髪の色は赤と銀、ゾイアに至っては何人でもない。
クジュケがサラサラの銀髪を揺らしながら、「そうではありません」とロックの意見を否定した。
「外交的には、まだ向こうに正統性があります。レウス王子が聖王に即位すると喧伝していますし、じきに戴冠式もやるでしょう」
二人に言い返され、ロックは熱くなった。
「何言ってやがる! レウスってのは、まだ赤ん坊だぜ! 正統性もクソもあるかよ! 尖がり耳同士で同調し合ってんじゃねえよ!」
アールヴ族の特徴を持つ二人を揶揄するような発言に、さすがに隣に座っているツイムが「よさんか、ロック!」と窘めた。
と、生真面目なタロスが、天井を見上げて嘆息した。
「悔しいですが、向こうは王宮を押さえています。王家の印璽なども全て向こうが持っているのです」
ことが王家に係わることだけに、いつも以上にタロスの口調が固い。
ロックが再び立ち上がった。
「だったら、こっちもウルスを即位させりゃいいじゃねえか! 印璽なんて、指輪に王家の紋章を彫ればいいんだろう?」
これには、ウルスが首を振った。
「今は父上の喪中なんだ。即位なんかできないよ」
「向こうはやろうとしてるじゃねえか!」
ツイムがロックの腕を引き「少し落ち着け」と座らせた。
ところが、クジュケが「いや、案外いいかもしれません」と立ち上がった。
「今すぐに、王、若しくは聖王に即位されるのは憚られるでしょうが、取り敢えず、ウルス王子がバローニャ公となられるのは如何でしょう? かつてガルマニア帝国の主導で準備され、結局、幻となったウルス殿下の戴冠式でも、一旦はバローニャ公となる手筈でした。慣例では、王子が複数いらっしゃる場合、バローニャ公になられた王子が後に王となる決まりだからです。相手方はレウス王子の名で外交文書を乱発しているようですから、こちらも対抗した方が良いでしょう」
ウルスが「でも、バローニャは」と言いかけると、ゲルヌが笑って「それは余が何とかしよう」と引き取った。
「バローニャのあるエイサは、現在ガルマニア帝国領ではあるが、余の宣言した『神聖ガルマニア帝国』の帝都でもある。まあ、名目上だけだがな。よって、余の名で、ウルスにバローニャを割譲し、ウルスのバローニャ公襲名の宣言と併せて中原諸国へ報せれば好い」
どんどん話が自分のわからない方向に進むため、ロックは「ふん、勝手に外交ごっこをやってろ!」と席を立とうとした。
と、最初の発言の後考え込んでいたゾイアが、「まあ、待て、ロック」と止めた。
「われの懸念はもっと軍事的なことで、それにはおまえの協力が是非とも必要なのだ」
ロックは「だろ?」と小鼻を膨らませて席に戻った。
そのあまりにも子供っぽい態度に、ウルスなどは笑いを噛み殺している。
ゾイアは気づかぬふりで、話を続けた。
「外交的な問題はクジュケらに任せるが、戦力差が倍以上あるからといって、戦局は決して楽観できぬ」
これには、ツイムも頷いた。
「おれもそう思う。義勇軍の時と違って、何しろ今回は準備期間がなさ過ぎるんだ。殆ど初対面の何万もの兵士を統率しろと言われても、なかなかできることじゃない」
タロスも同意した。
「それはわたしも同じです。わたしはバロード人ですから、勿論顔見知りの兵も大勢いますが、将軍として率いるには、互いにまだまだ訓練が足りません」
ゾイアが「そこで、だ」と二人の話を引き取った。
「ロックには、ヤナンの乱で指揮した時の義勇軍の一部を呼び戻してもらい、至急、情報部隊に仕立て上げてもらいたい。本隊の訓練が不足している分を、情報を密に伝え合うことで補うのだ。ロック、やり方はわかるな?」
ロックは得意満面で、「おいらに任せな!」と答えた。
ゾイアも思わず微かに笑ったが、すぐに表情を引き締めて続けた。
われが心配しているのは、それだけではない。
今回の内乱は、色々とキナ臭いところがある。
常識的に考えても、倍以上の敵に戦いを挑むのは無謀な話だ。
何か、われらのまだ知らない要素があるはずだ。
一つ考えられるのは、例の火を噴く鉄の巨人が直ったのではないか、ということ。
また、これとも関連するが、ウルスが見事な演説をしてくれたゲティスベルクを見てもわかるように、蛮族軍は市街地を焼くことに何の躊躇もない。
こちらはバロード人が主力だから、無論そんなことはできん。
これは蛮族軍にとって、意外な強みになっている。
しかし、まだ何かあるような気がしてならん。
例えば、外国から、というよりガルマニア帝国だろうが、密かに援軍が送られて来るとか、そういう可能性もなくはないのだ。
そのゾイアの危惧は、当たっていた。




