450 ゲティスベルクの誓い
聖王カルスの葬儀は、先日の義勇軍と蛮族軍の戦いで焼け野原となったゲティスベルクという土地で行われることとなった。
質素な祭壇の前の広場には、昨日国内を回ったタロスとツイムの呼び掛けに応じて、バロード正規軍二万弱が集まっている。
当初、葬儀の挨拶は、偶々ウルスと心が入れ替わってしまったゾイアが代役を務める予定であった。
見た目だけでなく、東方魔道師シャンロウの魔道で声もウルスそのものに変えられる上に、政治にも軍事にも詳しいゾイアならば、国民を鼓舞する立派な演説ができるだろうと、皆が思っていた。
ところが、正規軍を集めるため昨夜遅くに戻って来たタロスとツイムだけでなく、ずっとピリカの家に残っていたロックすら知らなかったことだが、既にゾイアとウルスは元の身体に戻っていたのである。
タロスとツイムが心配のあまり席を立とうとした時、クジュケの拡声器を通じて、少し震えるウルスの声が聞こえてきた。
バロード正規軍の皆さん、ぼくが世継ぎの王子、ウルスです。
ぼくは、姉と違って人前で喋るのは苦手なので、聞きづらかったらごめんなさい。
すみません、王子らしく上手く言えなくて。
でも、ぼくは、ぼくの言葉で、皆さんに伝えたかったんです。
ええと、知ってる人もいると思いますが、ぼくと姉は、一つの身体を分け合う双子です。
父もそうでした。
ぼくらは両性族という失わた種族で、初代聖王アルゴドラスもその一人でした。
そして、そのアルゴドラスこそ、ぼくらの祖父です。
アルゴドラスは古代バロード聖王国を建国後、自分の子孫がどうなるかが心配で、禁断の時渡りを行ったのです。
アンドロギノス族は男女両性の特徴を持つため、アルゴドラスは女性の姿、すなわちドーラとなって祖父ピロスに近づき、父を産みました。
目的は、父に王国を再興させ、千年の戦乱が続く中原をバロードによって統一することでした。
ぼくだって、戦乱の世は早く終わって欲しいと思います。
でも、祖母ドーラは、そのためには手段を選びませんでした。
父を世継ぎにするため、祖父ピロスの死と前後して父の三人の兄を始末し、魔道の力を駆使して、新バロード王国の建国を実現しました。
ところが、父が母と出会い、それ以上の領土拡大を望まなくなると、カルボン卿を唆して謀叛を起こさせ、母を、ああ、母を……ううっ。
……ごめんなさい。取り乱してしまいました。もう大丈夫です。
母は殺され、父はコウモリに変身して北方へ逃れました。
ぼくはタロスの機転で国外に落ち延び、そこでゾイアに助けられました。
その後も、アーロン辺境伯、北方警備軍のマリシ将軍、そして、ツイムに助けられ、それ以外にも言い尽くせない程多くの人々に助けられ、これまで生きることができました。
ぼくは何もできない王子ですが、本当に人との出会いに恵まれていることに感謝しています。
すみません、話を戻します。
北方に行った父は、祖母ドーラの勧めで蛮族と手を結び、蛮族の帝王となって母国バロードを襲いました。
母国を奪還し、王政復古した父は、徹底した粛清を行い、政治や軍事の主要な地位を蛮族に入れ替え、恐怖を以て国家を統制しました。
父は、自分の妻を奪った母国に復讐したのです。
しかし、その後、父は気づいてしまったのです。
自分の妻を殺させたのが、自分の実の母であることを。
父は、どんなにか悩んだことでしょう。
どれほど苦しんだことでしょう。
その父を、祖母ドーラは幽閉し、自分が息子になりすましてバロードを支配しようとしました。
それでも、ぼくの庶兄のニノフ将軍を始め、多くの人の力で父は解放され、祖母ドーラは国外に追放されました。
漸く自由に国家運営ができるようになった父は、庶兄ニノフやぼくらと対立することを止め、平和共存の道に進もうとしていました。
ああ、でも、またしても祖母の陰謀で、今度こそ生命を……。
……、すみません、また、取り乱しました。
大丈夫です。続けます。
父は聖王の地位を奪われ、蛮族たちは生まれたばかりのぼくの弟を次の聖王に担ぎ上げようとしています。
それは許されないことですが、ぼくは復讐は望みません。
蛮族たちも、祖母に利用されているだけだと思います。
生まれたばかりの弟にも、何の罪もありません。
ですが、蛮族たちに国民が支配されることは、もう真っ平なのです。
ぼくが望むのは、バロード人による政府です。
既に故郷を失っている蛮族が、共にこの国に住むことは構いませんが、ちゃんとバロードの法を守るべきですし、乱暴狼藉など言語道断です。
こちらが道理を説いても、蛮族たちが聖王宮を明け渡さないのなら、その時こそ正々堂々と戦うべきです。
ぼくらは、バロードをバロード人が取り戻すために、その自由と権利を護るために、戦うべきなのです。
そして、ぼくは皆さんに誓います。
必ず、バロード人の、バロード人による、バロード人のための政府を樹立します!
さあ、皆さん、聖王宮を取り戻しましょう!
ぼくと一緒に戦いましょう!
次第に高まるウルスの声に、静まり返っていた広場が一気に爆発するような拍手と歓声に包まれた。
「ウルス殿下万歳!」
「バロードを取り戻そう!」
「われらの、自由と権利のために!」
「王子、共に戦います!」
どうなることかと見守っていたタロスとツイムも、涙を流し、肩を抱き合って喜んでいた。
ゲルヌ皇子もホッとしたように微笑み、ロックですら「やるじゃねえか」と笑顔になっている。
そうした中で、ゾイアだけは表情を引き締めていた。
「ここからが、われらの仕事だ」




