439 逆転(27)
複雑に入り組んでしまった、ゾイア、ウルスラ、タロスの三人の心と身体。
それを、クジュケは「簡単で自然な方法」で元に戻せるという。
ウルスラに「自然な方法って?」と聞かれたクジュケは、ニッコリ笑って答えた。
「はい。皆さん起きたばかりでしょうが、これから眠るのです。そして、夢を見ればよいのです」
当事者の三人が首を捻る中、また、ゲルヌ一人が「成程」と頷いた。
「余も何かの書物で目にしただけだが、『夢の通い路』のことだな」
クジュケは、わが意を得たりと勢い込んだ。
「そうなんです! わたくしは、識閾下の回廊とは何であろうと考えに考え、ふと、それに思い当たったのです。以前、ウルスラ王女は、夢の中でタロスどのの身体に入り込んだことがあると言われておりました。その時は、ウルス王子はご一緒ではなく、今回のような入れ替わりではありません。ちょっと身体を借りて覗き見る程度、ということでしょう。ですが、これこそ伝説の『夢の通い路』、つまり識閾下の回廊であろうと思われます。路であれ、回廊であれ、意味するところは同じです。行けるのならば、帰れるのです。さあ、始めま」
ウルスラが「ちょっと待ってちょうだい」と止めた。
「確かにそういう経験があったけど、今回は、別に眠っていた訳じゃないわ」
クジュケは両方の眉を上げて見せた。
「そうですね。ただ、いずれも生命の危険が迫った非常事態であり、瞬間的に気絶して夢を見たのか、或いは、普段は固く閉じている門が一時的に開いたのか、そういうことだと思いますよ。それが夢の中では、もっと簡単に行き来できるのではないでしょうか?」
悩むウルスラの代わりに、ゾイアが結論を出した。
「やってみようではないか。少なくとも、大きな危険はないと思う。まあ、あまり眠り過ぎると、夜眠れずに困るかもしれんがな」
それがゾイアの精一杯の冗談であることに気づき、一気に皆の緊張が解れる。
生真面目なタロスも微笑みながら、「わかりました。やりましょう」と応え、最終的にはウルスラも「そうね。まだ眠くはないけど」と笑った。
一旦決心すると気持ちも軽くなったようで、その足でウルスラがピリカのいる一階に下り、三人が同時に眠れる寝台がないかと聞いた。
「三人同時?」
驚くピリカに、ウルスラは上手く説明できず、結局、クジュケのいる二階の部屋に連れて行った。
ベッドに腰掛けているクジュケに、ピリカは「まあ、何をしてるんですか!」と小言をいったが、その顔色の良さを見て、それ以上は叱らず、三人眠るベッドの意味を聞いた。
クジュケも二回目なので、朝食の三品を使って要領よく説明した。
ピリカは、フーッと長い息を吐いた。
「二階の一番奥に、万が一王さまが泊まることになった時に使う続き部屋があるわ。ベッドが大きくて、大人三人でも大丈夫だと思います。実際に使うのは、大人一人と子供二人なのね。だけど、まさかとは思うけど、クジュケさんが、その施術を取り仕切る訳じゃないでしょうね?」
クジュケは苦笑した。
「わたくしとて魔道師の端くれ。その、まさか、でございます」
一瞬、怒り出すかと思われたピリカは、諦めたように肩を竦めた。
「わかったわ。その代わり、わたしも付添います」
結局、六人全員で新しい部屋に移動した。
そこは、先程までいたスイートの倍ぐらいの広さがあり、確かにベッドは三倍ぐらい大きかった。
その上には、豪奢な飾りを施された天蓋もある。
入るなり、ウルスラが感激の声を上げた。
「まあ! 昔の王宮を想い出すわ!」
ピリカも漸く笑顔になった。
「そうでしょうね。設計施工は同じ流派の建築師と聞いておりますわ。さあ、王女殿下、お休みなさいませ」
普通に歩けないクジュケは浮身してついて来ていたが、そのまま床に足はつけず、空中で止まった。
「それでは、ゾイア将軍、タロスどの、ウルスラ王女の順番で、ベッドに横になってください。その間に、わたくしはこの部屋に結界を張っておきます。ゲルヌ皇子とピリカさんは、適当に椅子を出して座っていてください。今度こそ、始めましょう!」
その頃、ツイムとロックは馬を並べ、軽装備でゆっくりと市内を巡回していた。
二人の上を、フワフワと小太りのシャンロウが飛んでいる。
ロックは時々それを見上げ、「しっ、しっ」と片手を振った。
「ついて来んじゃねえ!」
邪険に扱うロックに、シャンロウは不服を述べた。
「おら、あんたらの身を護れって、ゲルヌさまに言われてるだよ」
「要らねえって言ってんだろ!」
こういうやり取りを、もう何度も繰り返している。
最初は一々宥めていたツイムも、呆れて放っているようだ。
と、その顔に緊張が走った。
「二人とも静かにしろ! 伝令の早馬が来るぞ。何かあったようだ」
乗っているのは、バロード正規軍の甲冑を着た若い兵士で、ツイムたちに気づくと、真っ直ぐこちらに向かって駆けて来る。
「義勇軍のお方とお見受けした! 至急、ゾイア将軍にお取次ぎ願いたい!」
ツイムが問い返す。
「如何にも義勇軍の者である! 取次ぐ前に、用件を伺いたい!」
一瞬、若い兵士は迷ったが、周辺に人がいないことを確認し、声を低めて告げた。
「王都バロンにて内乱が勃発し、聖王カルス陛下が重傷を負われました!」




