438 逆転(26)
怪我をしたクジュケは、ピリカの家の二階にある続き部屋に寝かされていた。
今朝も、クジュケの寝台の横には、昨夜と同じ四人が座っている。
赤いサラサラの髪をした子供。
ダークブロンドの髪でアクアマリンの瞳をした筋骨隆々の大男。
少し癖のある金髪が腰まで伸び、限りなく灰色に近い薄いブルーの瞳をした美少女。
少女より一回り小柄な金髪碧眼の少年。
ゲルヌ皇子、ゾイア、ウルスラ、タロスの四人なのだが、心と身体が一致しているのはゲルヌだけだった。
そのゲルヌから意見を求められ、クジュケはベッドの上で上体だけ起こした状態で、滔々と自分の考えを述べた。
最後に、「さあ、それでは始めましょう!」という言葉で、クジュケは長広舌を締め括った。
四人のうち、ゲルヌだけは「成程」と頷いたが、他の三人は呆然としている。
気を取り直したゾイアが代表して、クジュケに頼んだ。
「すまぬ。話が複雑過ぎて、聞いただけではサッパリわからぬ。われらにもわかるように、もう一度説明してくれぬか?」
クジュケは、今の説明で充分と思っていたらしく、「え?」という顔をしたが、ウルスラからも「お願い!」と言われて、「そうですねえ」と少し考え、パッと顔を輝かせた。
「おお、いいものがありました! ピリカさんが朝食を用意してくれたのですが、後で食べようと思い、そこに置いてあります。すみませんが、サイドテーブルごとここに持って来てもらえませんか?」
ゾイアとタロスがテーブルを運ぼうとしたが、現在ウルスの姿をしているタロスでは身長が合わず、少し背が伸びたウルスラが代わった。
サイドテーブルの上には盆があり、朝食の品々が載せてある。
クジュケは横目で内容を確認して頷くと、ゾイアに頼んだ。
「ちょっと起こしていただけますか?」
「よいのか?」
「はい。あ、でも、そっとお願いしますね」
四人の中で唯一大人の姿をしているゾイアに手助けしてもらい、クジュケはベッドの横から足だけ下ろして座った。
トレイの中を見て、「そうですねえ、これと、これと、うん、これでいいでしょう」と三つを取り出してサイドテーブルの上に直に置いた。
それは、茹で卵が立てられたエッグスタンド、黒パンが載ったパン皿、殻つきの落花生が入った小皿であった。
またゲルヌが「成程」と呟いたが、三人は首を傾げている。
クジュケはトレイを少し横に避けて空間を作り、取り出した三品を、それぞれを頂点とする三角形の形に置いた。
これらを使ってご説明してみます。
初期設定として、茹で卵とエッグスタンドをゾイア将軍、黒パンとパン皿をタロスどの、ピーナッツと小皿をウルス・ウルスラ両殿下とします。
因みにピーナッツの殻の中の二つの実が、ウルス王子とウルスラ王女の心とお考えください。
さて、最初にこのエッグスタンドから茹で卵が追い出されます。
こうして、ゾイア将軍の心である茹で卵を掴んで、ああ、ちょっと失礼な点はお許しください。
うーん、ここからは人物名を言わないでおきますね。
で、茹で卵をこちらのパン皿に入れます。
驚いた黒パンはエッグスタンドに入ろうとしますが、別のもの、そうですねえ、あ、これがいいかな。
この林檎の実があって入れません。
それで、パン皿に茹で卵と黒パンの両方が載っている状態になったのです。
その後、林檎の実は追い出され、エッグスタンドは空になりました。
本来なら、ここで茹で卵が戻ればよかったのですが、今回は回廊、即ちわたくしの手ではなく、直接の触れあいによって移動したのです。
ちょっとインチキをしますが、目を瞑ってくださいね。
こうやって、茹で卵だけをパン皿に押さえつけたまま、皿を傾けます。
よっ、ほれっ、どうだ。おお、見事に黒パンがエッグスタンドに載りました!
ああ、すみません、少し不謹慎でした。
ここから、元に戻そうとしても、エッグスタンドとパン皿の間の繋がりは切れていると考えてください。
ええと、これはわたくしの手帳ですが、これを立てて置きましょう。
それから、エッグスタンドの黒パンと、小皿のピーナッツを入れ替えます。
さあ、これが今の状態です。
エッグスタンドにピーナッツが、パン皿に茹で卵が、小皿に黒パンが、それぞれ載っています。
ちょっと不安定ですが、それも現状に似ていますね。
注意していただきたいのは、エッグスタンドとパン皿の間には手帳がありますね。
これは越えられないものとします。
では、どうするか。
簡単な話です。
最初に、パン皿の茹で卵と小皿の黒パンを入れ替えます。
これで、黒パンはパン皿に戻ります。
次に、小皿に載った茹で卵とエッグスタンドのピーナッツを交換します。
はい。全部元どおりになりました。
何かご質問は?
得意げに笑うクジュケに、今度はウルスの姿をしたタロスが尋ねた。
「うーむ。なんとなくですが、理屈はわかりました。ですが、問題は、その入れ替えをどうやって行うのか、です。聖剣は、今はまだニノフ殿下が預かっておられるはず。わたしたち三人は、暁の女神に行った方がよいのでしょうか?」
クジュケは、サラサラの銀髪を揺らす程、大きく首を振った。
昨日よりかなり元気を回復したようである。
「いえいえ、その必要はありません。と、言うより、聖剣は使わぬ方がよいでしょう。諺にも、大鉈で小枝を切ってはならない、と申すでしょう。それより、もっと簡単で自然な方法がありますよ」
ウルスラが聞き返した。
「自然な方法って?」
クジュケは、またニッコリ笑った。
「はい。皆さん起きたばかりでしょうが、これから眠るのです。そして、夢を見ればよいのです」




