436 逆転(24)
ピリカの施療院兼自宅の大食堂で、ゾイアたちは食事をしている。
まず、ウルスの姿をしたタロスが腐死者との闘いに至る経緯を説明した。
その後、時系列としてはタロスの話の前の出来事になるが、異様な存在となったタンリンの登場を、ゾイアの身体に宿っているウルスラが述べた。
クジュケを倒したのはタンリンの口から発射された何かだとウルスラが話すと、それは団栗の実のような鉄の塊であったと、タロスが出して見せた。
「ほう。それは銃弾だな」
そう言ったのは、そのタロスの肉体を借りているゾイアである。
皆が訝しげな顔をする中、反射的に「なんだって?」と聞き返したのはロックであった。
聞かれたゾイアも、戸惑っている。
「ああ、いや、急にその言葉が浮かんだのだ。われにも何のことかわからぬ」
と、ゲルヌの額に第三の目が赤く光り、ゾイア、ウルスラ、タロスの三人が頭を押さえて呻き声を上げた。
それに気づいたゲルヌが何度か深呼吸すると、第三の目がスーッと消え、すぐに三人の痛みが治まった。
ゲルヌが三人に詫びた。
「すまぬ。どうも感情が激してしまったようだ。額に目が現れても、普通はそこまで影響を及ぼさないのだがな。今のゾイアの言葉に、非常に強い嫌悪感を持ったのだ。余にも理由はわからない。まあ、それより、愈々三人の縺れた糸を解すべき時のようだな」
ゲルヌを嫌っているロックが鼻を鳴らした。
「おめえに、そんなことができるのかよ!」
すると、周りの話など聞かず、ガツガツとシチューを食べ続けていたシャンロウが、顔を上げた。
「皇子なら、たぶんできるだ。一生懸命に修行したもんな」
ウルスラが「でも」と不安を口にした。
「最初にゾイアとタロスが入れ替わってしまった時、ニノフ兄さまが聖剣に命じたのに、できなかったのよ」
ゲルヌは、少し大人びた姿のウルスラに微笑みかけた。
「これはおまえの国、バロードの伝説だが、勇猛果敢な聖王として知られたマルスは、蛮族との戦いの前、勝利を祈願するためある神殿を訪れたという。そこの神官が、神殿に古代より安置されている紐があり、そのゴルディナの結び目を解くことができれば、勝利は間違いないと告げた。ところが、聖剣に命じても解くことができず、怒ったマルスは、聖剣そのもので結び目を断ち切った」
「ええ。その結果、大勝利を収めたという伝説ね。でも」
「ああ、勿論おまえたちは紐ではない。人間だ。この伝説の意味するところは、如何に聖剣とてできぬことはあり、それを補うのは人間の智慧だ、ということさ。何か方法があると思う」
また、ロックが鼻を鳴らした。
「あると思う? 偉そうに言いやがって、これから考えるのかよ!」
さすがに見かねたツイムが、「ロック、いい加減にしろ!」と窘めた。
ロックはプイッと横を向いた。
「わかったよ、もう! みんな、この赤毛の坊ちゃんの味方なんだな! いいよ、おいら、もう寝る!」
ロックはそのまま席を立ったが、「あ」と声を上げた。
「そうか。おいらの部屋には、尖がり耳の魔道師が寝てんのか。ちぇっ。おい、じいさん、他にいい部屋はねえのか?」
聞かれたトニトルスは顔を真っ赤にし、バンとテーブルを叩いて立ち上がった。
「部屋はいくらでもあるが、おまえのような無礼者を寝かせる部屋などない! 今すぐここを」
幸い、トニトルスがロックに出て行けと言う前に、孫娘のピリカが戻って来て、「まあ、おじいさま、落ち着いてちょうだい」と止めに入った。
「そんなことより、患者さんの目が醒めましたわ。応急の処置をして、安静にするように言ったのですが、どうしてもみなさんと話したいと仰っています。まだ痛みがあるので、長時間は無理ですが、少しの間なら構いませんわ」
結局、ピリカの計らいで、先にロックに別の部屋を宛がって頭を冷やさせることになった。
兄貴分のツイムも、宥め役として同じ部屋に泊まるという。
トニトルスにも、自分の部屋で早めに寝てもらうことにした。
その後、もう少し食べたいというシャンロウと、これから漸く自分が作ったシチューを食べられるピリカの二人だけを食堂に残し、ゾイア、ウルスラ、タロス、ゲルヌの四人は二階に上がった。
昨日までロックが寝ていた続き部屋の、奥の寝室に静かに入る。
クジュケは、寝台の背板にクッションを当て、上体だけを起こしていた。
顔は蒼褪めていたが、四人を見て微笑んでいる。
ウルスラが心配そうに「寝ていなくていいの?」と聞いた。その目は早くも潤んでいる。
「はい。ピリカさまが、キッチリと胸を固定してくださいました。自分が楽な姿勢なら、少し起きていていいそうです」
「ごめんなさいね、わたしを助けるために」
ポロリと涙を零すウルスラに、クジュケはホンの少しだけ首を振った。
やはり痛むのであろう。
「わたくしとて魔道師の端くれ。当然の役目です。それより王女、随分急に成長されたのですね。両性族は、皆そうなのかもしれませんが」
「え?」
変化を自覚していないウルスラの代わりに、ゲルヌがクジュケに話し掛けた。
「そのことも含め、おまえにも智慧を借りたいのだ」




