405 聖王奪還(19)
ニノフの私室に通されたゾイアの心を持つタロス。
そこへ、ウルスラがやって来て、相手がゾイアであることを確認すると、目の前でウルスと交代して見せた。
それを真似したゾイアは、瞳の色がタロス本来のコバルトブルーに戻っている。
「おお、ウルスさま!」
その声は、正にタロスのものであった。
ウルスはホッとしたように笑い、「ちょっと待ってね」と断って顔を上下させた。再び瞳の色が限りなく灰色に近い薄いブルーに戻る。
「ウルスラよ。先にタロスの無事を確認したかったの。どんな感じだったのか、教えてくれない?」
タロスは少し考えて、頷いた。
「はい。ニノフさまたちと話している途中、突然、意識がなくなりました。気がつくと、ニノフさまの部屋に向かって歩いていたのですが、身体の方が勝手に動いている感じです。見るものも聞くものも、透明な薄い膜を通しているようで、実感が伴っていません。喋っている言葉も自分の意思とは関係なく、別の人間が話しているのを横で聞いているような感覚です」
「今はどう?」
「今は普通です。特に何の違和感もありません」
「わかったわ。じゃあ、すまないけれど、もう一度ゾイアと交代してくれる?」
「交代?」
「そう。わたしとウルスの交代は、今見ていたでしょう? それを思い描きながら、顔を上下させてみて。ゆっくりでいいから」
「はあ」
タロスはゆっくり俯き、ゆっくり顔を上げた。
瞳の色がアクアマリンに変わっている。
「成程。おまえたち姉弟の人格交替とは、こういうことだったのだな」
「ゾイアね?」
「ああ、われだ。おまえとタロスどのの話は聞いた。タロスどのの説明どおり、薄い膜を通しているようであった。同じようにタロスどのが聞いておられるだろうから、改めてお詫びしたい。二度も身体を複製させてもらった上に、今回は身体そのものを間借りしたようだ。本当にすまないと思う」
ゾイアが頭を下げ、もう一度上げると、瞳の色がコバルトブルーに変わっている。
「ああ、よいのです。あなたには大切なお役目があられる。どうか、自由にわたしの身体をお使いください。そして、わが祖国バロードをお救いください」
同じように人格交替できるニノフは、微笑みながらそれを見ている。
タロスの顔が上下し、瞳の色がアクアマリンになった。
「忝い。では、王女よ。そして、ニノフどのよ。念のため、こうなる前にわれが見聞きしたことを、一通り説明しておこう」
どこから話したらよいかな。
うむ、ニノフどのもおられるから、やはり、ゲルヌ皇子救出のためここを出てからのことにしよう。
エイサでは、ゲルヌ皇子はご自身の力で脱出されたが、その後の話し合いの席上、われは理性を失って暴れた。
その際、ゲルヌ皇子は、何故かわれを自在に操る言葉を知っておられた。
たが、その命令に曖昧なところがあり、われは木偶人形のような状態になったらしい。
らしい、というのは、その時の記憶がないからだ。
そこで、クジュケどのが偶然、同じ言葉を話し、われにゾイア将軍に戻れと言ってくれた。
お陰で元に戻れたが、変身はできなくなっていた。
包囲戦の後、バロードが暁の女神を狙っていると知り、揺さぶりを掛けようと義勇軍を創設した。
まあ、結果的には、ニノフどのたちの大勝利となった訳だが、ちょうど廃都ヤナンで暴動が起きており、そちらを支援することにした。
まさか、いきなり蛮族軍一万がヤナンに向かって来るとは、正直思っていなかった。
カルス王は、もう少し穏やかな方法を採るとみていたのだ。
実際、後からわかったことだが、カルス王は交渉によって解決しようとしたようだ。
さて、義勇軍は三千、そのうち千名はヤナン市民の避難誘導に割いていた。
多少は現地で参加して貰えるとは思っていたが、どう考えても兵力が足りぬ。
この局面を打開するには、われが変身するしかない。
われには、どうしてもわれを操る言葉は思い出せない。
まあ、当たり前の話かもしれぬがな。
そこで、エイサでクジュケどのと一緒にいたツイムにその言葉を思い出してくれと頼んだ。
その言葉を思い出したら、続けて「今こそおまえは自由だ。全ての力を解き放て」と言ってくれとな。
その結果、われは今まで以上に巨大で力強い姿に変身し、蛮族軍を敗走させることができたのだ。
勝利は収めたものの、蛮族軍の一部がヤナン市内に逃げ込んだため、われが追跡すると、そこで瀕死の状態のロックを発見した。
おお、そうだ、その生命を救ってくれたのは、なんとニノフどのの妹であったよ。
終始にこやかに聞いていたニノフの顔色が変わった。
「そう、ですか。ピリカにお会いになったのですね。さぞかし、おれを恨んでいたでしょう」
「いや。そんなことはなかった。寧ろ、尊敬しておられたよ。機会があれば、直接会われた方が良いと思う。それはさて置き、そのピリカどのの施療院の患者に、ガイ族の者がいた。ハンゼという少年だ。そのハンゼが、カルス王が拉致され、幽閉されていると教えてくれたのだ」
事前に知っていたウルスラと違い、初めて知ったニノフは驚いて立ち上がった。
「いったい、誰が父を……。ああ、それが、祖母ドーラなのですね」
「そうだ。そして、カルス王の誘拐も、結局のところ罠であったのだ」
「罠?」
「われと、恐らくは、ウルスラを誘き寄せるためだ」
(作者註)交代と交替の使い分けについて
交代=AからBになる
交替=AになったりBになったり
ただし、わたし個人の意見です(^^;;




