表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
414/1520

398 聖王奪還(12)

 クジュケが用意した跳躍リープの中継点は、出入口のない洞窟どうくつの中であった。

 そこへリープして来たドーラアルゴドーラは、散々さんざんウルスラたちをおどしたが、ギータが言うように、やはり本命のゾイアがいなかったためか、あっさり引き上げた。

 ウルスラは、それだけでなく、ドーラは四方しほうを囲まれたこの場所を警戒したのだろうと指摘する。

 クジュケがウルスラの言った意味を理解するのとほぼ同時に、ランプのらめきが止まった。

 クジュケもギータも、蝋人形ろうにんぎょうのようにかたまった。

 時の狭間はざまの中で、何処どこからともなく、コツコツとつえをついて歩く足音が聞こえてきた。


「サンジェルマヌスさま!」

 ウルスラの呼び掛けにこたえるように、せた老人の姿があらわれた。

 だが、サンジェルマヌスはひどく疲れている様子であった。

「王女よ。別れのときが来た」

「ええっ、そんな!」

 今にも泣き出しそうなウルスラを、サンジェルマヌスはいつくしみ深い目で見つめている。

「悲しむことはない、王女よ。長命メトス族とて、不死ふしではない。たとえ何千年生きようと、いずれは寿命じゅみょうきる。その意味では、数日しか生きぬ小さな虫と同じだ。はかないいものよ。まあ、その先に、来世らいせなどというものがあるのか、死んでみねばわからぬ。しかし、わかっていることもある。わしが死んだ後も、この世界は続く、ということだ。うれしくもあり、気懸きがかりでもある」

 如何いかかしこくとも、わずか十一歳のウルスラには、死期しきの近い老人の感慨かんがいは理解できず、ただ悲しみにしずんでいる。

「王女よ。そんな顔をしないでくれ。これは自然のことわりなのだ。それより、これからのことを話そう」

「これから?」

「ああ。つい先程さきほどまで、ドーラがおったであろう?」

「ご存知だったのですね」

「うむ。識閾下しきいきか回廊かいろうつうじて、王女の危機意識が高まっているのを感じたから、近くに待機たいきして潜時術せんじじゅつ介入かいにゅうする時機じき見計みはからっていた。その気配を感じたから、ドーラはあんなにあせって逃げたのだ」

「識閾下?」

所謂いわゆる、夢の中の世界じゃよ。おまえが、いや、あの時はウルスの方であったか、ダフィネのめんかぶった際に、回廊をひらいた。これは通常の時空間とは何の接点もないから、誰にも邪魔じゃまをされたり、傍受ぼうじゅされたりせずに、自由に情報を伝えられる。これを、おまえとわしとタロスにつないである」

「まあ、タロスと! それで時々」

「そうだ。スカンポ河でおぼれていたタロスを発見したのは、実は、わしが最初であった。直接かかわるのは危険と判断し、近くにいたルキッフという男が保護するように仕組んだ。その時に回廊を開いたのだ。おまえとう前にな」

 このような場合ではあったが、ウルスラの表情が少しだけ明るくなった。

「そうだったのですね。では、この三人だけの秘密の連絡網れんらくもうですのね」

「ところが、もう一人増えた」

「え? 誰ですの?」

「おまえたちのいう獣人将軍だ。あやつが初期化から再起動するため、タロスと二度目の合体をした際に、回廊も複写ふくしゃされてしまった。今のところ、悪い影響はない。逆に、そのうち役に立つかもしれぬ。それより、そろそろ本題に入ろう。座ってよいかな?」

「ああ、勿論もちろんでございます」

 座るとすぐに、サンジェルマヌスは話し出した。



 さて、気懸りの最大のものは、無論、聖剣のことじゃよ。

 おまえの記憶には残っておらぬであろうが、前回、白魔ドゥルブの活動を一時停止させるため、おまえに聖剣を使ってもらった。

 その時に確信したよ。

 聖剣はおまえが持つべきだ、とな。

 ただし、普通に保持ほじしておれば、必ずドーラにねらわれる。

 まして、おまえはじょうに流されやすいところがある。

 気をつけていても、あやつの巧言こうげんだまされかねない。

 そこで、わしも考えた。

 せっかく識閾下の回廊があるのだから、それにひもづけた亜空間あくうかんを設定し、そこに保管してはどうか、とな。そして、実行したよ。

 今後、おまえが危機を感じ、心に強くわしの名を叫べば、おまえの手の届く位置に転送ポートされて来る。

 必要がなくなったら、戻れと命じてくれれば、自分で亜空間に帰るはずだ。


 次に考えねばならんのは、ドーラにどう対処たいしょするのか、ということだ。

 識閾下の回廊については、心配ないと思う。

 ただし、おまえが頻繁ひんぱんに聖剣を使えばあやしまれるから、本当の危機以外では使わぬことだ。

 それ以外の部分では、敵対はしても、極力きょくりょく直接の対決はけた方がよい。

 おまえもつらいだろうしな。


 それから、獣人将軍こと、有翼獣神ケルビムのことだ。

 おまえたちはゾイアと呼んでいたな。

 では、わしもゾイアと言おう。

 おまえたちも気づいたように、ドーラは今、ゾイアをねらっている。

 聖剣がなくとも、ゾイアを自在にあやつることができれば、中原ちゅうげん制覇せいはできると思っている。

 そして、それは多分正しい。

 わしも、ゾイア、すなわち、ケルビムにどの程度の力があるのかは、わからん。

 多少は知っていることもあるが、今は言えぬ。

 主知ノシス族は三種の利器りきの一つであるというが、そうではない。

 他の二つもそうだが、ノシス族は偶々たまたまそれを手に入れただけで、本来の所有者は別にいる。

 それは、この世界の外の存在だ。

 それがどのような存在なのかは、北の大海に浮いている、あの宙船そらぶねを見れば、想像がつくだろう。

 人間とは違う、きわめて異質いしつな存在なのだ。


 そこで、最後にこれだけは言っておく。

 この世界は、良くも悪くも人間のものだ。

 わしの願いはただ一つ。

 普通の人間が、普通に暮らせるような世界になって欲しい。

 それだけだ。


 名残なごりはしいが、これでお別れじゃ。

 ああ、それから、このの記憶は、わしが生きているあいだ封印ふういんしておく。

 これをおもい出した時には、わしは、もうこの世にいないと思ってくれ。

 さらばだ、王女よ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ