表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
413/1520

397 聖王奪還(11)

 バロードの流浪るろうの王女ウルスラは、幽閉ゆうへいされた父カルス王を救うため、魔道師のクジュケ、小人ボップ族のギータと共に、庶兄しょけいニノフがいる暁の女神エオスたずねようとしていた。

 クジュケは、直接エオスに跳躍リープするのは危険と判断し、中継点の座標アクシスをウルスラに伝えた。

 中継点は、出入口のない洞窟どうくつの中である。

 クジュケはここなら安全だと胸を張るが、そこへ突如とつじょ誰かがリープして来る。

 それは、ウルスラの祖母そぼであり、カルス監禁かんきん首謀者しゅぼうしゃであるドーラアルゴドーラであった。

 ウルスラは父カルスの解放を懇願こんがんするが、ドーラはとぼけて相手にもしない。

 そこへ、横合よこあいから口を出そうとしたクジュケを、ドーラは片手から出る理気力ロゴスだけで洞窟の壁にたたきつけたのである。


 一瞬にして、和平会談の際のチャダイ将軍の最期さいごを思い出したウルスラは悲鳴をげた。

 が、ドーラはフンと鼻で笑った。

「わが孫娘まごむすめウルスラよ。おまえの耳は駄馬だばの耳なのかい? その男が壁にぶつかる音が聞こえたかい?」

 言われたウルスラはギクリとして、壁にり付いたまま動かないクジュケを見た。

 クジュケは四肢ししをダラリと伸ばし、少しうつむいて目をつむってが、パッと顔を上げて目をひらき、苦笑した

「わたくしとしたことが、咄嗟とっさ浮身ふしん用のロゴスを背中側に出し、激突を回避かいひするのが精一杯せいいっぱいで、やられたフリをするための擬音ぎおんを出す余裕はありませんでした」

 よく見ると、クジュケの身体からだ壁面へきめんに接しておらず、ホンの少しだけ離れている。

 クジュケは、銀髪ぎんぱつらしてフワリとり立ち、得意とくいげに笑った。

「わたくしとて魔道師のはしくれ、これくらいの防御ぼうぎょはできまする。おお、ご挨拶あいさつもせずに申しわけございませんでした。おはつにお目に掛かります。わたくしは、ウルスラさまのおともをさせていただいております、クジュケと申します。はて、あなたさまを、何とお呼びしたらよろしいのでしょう?」

 ドーラはまた鼻で笑った。

「好きに呼ぶがよい。その、すみっこにかくれて、反撃の機会をねらっているっこいやつものう」

 言われたギータは、ランプの明かりのかげからゆっくりと歩み出た。

 手には護身用の小さな細剣レイピアを持っている。

「あなたさまのことは、和平会談に同行した仲間のツイムから色々聞いておる。ツイムの感想は唯一言ただひとことであったよ。『決して油断してはならない相手』じゃとな」

 ドーラはホホホと声をげて笑ったが、その目は少しも笑っていない。

「ほう。あの海賊上かいぞくあがりとかいう日に焼けた色男が、そんな殊勝しゅしょうなことを申しておったのか。満更まんざら脳味噌のうみそがないわけではなかったのだのう」

 ウルスラは、ドーラのいきなりの出現とそれに続く乱暴ないに衝撃ショックを受けていたが、ようやく落ち着いた様子で、改めてドーラに頼んだ。

「お祖母ばあさま、お願いです! 父上とのあいだでどのようなごとがあったのかは存じませんが、どうか、解放してあげてください!」

 ドーラは、それまで見せなかったすごみのある表情でウルスラをにらみつけた。

「和平会談の際には、あの教主きょうしゅサンサルスの顔を立てて穏便おんびんませてやったが、あまり付け上がるようなら、孫とて容赦ようしゃせぬぞえ!」

 言いざまてのひらをウルスラに向けたが、ウルスラの方が一瞬早く同じかまえをしていた。

 ウルスラの表情もけわしくなっている。

 が、どちらも波動は出さず、ドーラが先に手を下げ、表情もゆるめた。

「ふん。容赦せぬのはお互いさまか。はてさて、いったい誰に似たものやら」

 なおも構えをかないウルスラのわりに、クジュケが「まあまあ」と割って入った。

穏便おんびんに話し合おうではありませぬか、ドーラさま。わたくしたちはカルス王さえご無事であればよいのです。ああ、いえ、無論むろん、ご自由の身にしていただき、どなたかをおびき寄せるためにご利用などなさらずに、ですが」

 ドーラが再び掌を構えるより、早く、今度はクジュケも同じ構えをとった。

 ニヤリと笑っている。

「おお、先程さきほども申し上げたとおり、これでもわたくしも魔道師の端くれ。同じことができますよ」

 ドーラは憎々にくにくしげに「カルボンのい犬だったくせに、何をえらそうに」とき捨てた。

「まあ、よいわさ。今回の無礼の数々はいずれ必ずつぐなわせよう。しかし、わたしの掌中しょうちゅうにカルスがいることを忘れるな。下手へた身柄みがらうばおうなどとすれば、後悔することになるぞよ!」

 捨て科白ぜりふだけ残し、意外にもあっさりとドーラは消えた。


 自分が追いめたはずなのに、クジュケは首をかしげた。

「あまりにも早いおちでしたね。何のために来られたのでしょう?」

 ギータが笑った。

「決まっておるではないか。ここにゾイアが一緒にいるのではないかと、様子を見に来たんじゃよ」

 ウルスラも、ホッとしたように微笑ほほえんだ。

「そうね。それに、クジュケの選んだこの場所が良かったのよ」

 クジュケも、「ああ」と声を上げる。

成程なるほど! 四周ししゅうを囲まれた場所ですね! さすがのドーラさまもおそれるあの方の」

 ウルスラが「そうよ」と答えた時、洞窟を照らすランプの揺らめきがまった。

 クジュケもギータも蝋人形ろうにんぎょうのように固まる中、何処どこからともなく、コツコツとつえをついて歩く足音が聞こえてきた。

「サンジェルマヌスさま!」


 ウルスラの呼び掛けにこたえるように、せた老人の姿があらわれた。

 たが、サンジェルマヌスはひどく疲れているようである。

「王女よ。別れのときが来た」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ