表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
400/1520

384 もう一人のヒーラー(4)

 ピリカの家は、元は貴族のための宿屋ホテルであった建物を、病気や怪我けがをした者の施療院サナトリウムに改装したものだという。

 その二階の続き部屋スイートルームの寝室に、重傷じゅうしょうったロックを寝かせ、隣の応接室でゾイアはピリカの身の上を聞いていた。

 そこへピリカの祖父トニトルスもくわわり、少し場がなごんだところへ、寝ていたはずのロックが起きて来たのである。

 たのしそうだから自分も話に参加したいというロックに、トニトルスが愉しくて笑っているわけではないと言うと、ロックは珍しく真面目まじめに反論した。


「わかってるさ。おいらだって、いろんなひどい目にってきたんだ。涙がれたら笑うしかねえ。がらにもねえことを言うが、それが生きるってことだろ?」

 唖然あぜんとしてロックの顔を見つめる三人に、ロックはまたニヤリと笑って見せた。

えらそうなことを言っちまったが、実は、こうして立ってるのは結構けっこうしんどいんだ。良かったら、こっちの部屋で話してくれねえか。おいらは横になってくからさ」

 ロックをしかりつけようと身構えていたトニトルスは、結局、笑い出してしまった。

「どこまで我儘わがままなやつなのだ。まあ、仕方あるまい。そっちに行ってやろう。おお、そうだ。食欲はあるか?」

 ロックは自分のはらに手を当てて少し考えていたが、「不思議だ。腹がってる」と笑って答えた。

「ふん。いいだろう。ピリカ、何か用意してくれ。四五人前しごにんまえだ」

 ゾイアは手をげて「いや、われは」と断ろうとしたが、トニトルスは首を振った。

「もう日もれる。今日はまって行け。部屋ならまだいくらでもある。今そこに来た者の分もな」

 ゾイアが振り返ると、部屋を出るピリカと入れ違いに、ツイムがあらわれた。

「勝手に入ってすまない。玄関で声を掛けたが返事がなく、どうしようかと考えていると、ロックの声がしたような気がして、急いで上がって来たんだ。ロック、おまえ大丈夫なのか?」

 ロックはヘヘッと力なく笑うと「ちょっと無理した。もう寝るよ」と言いながら、その場にへたり込みそうになっている。

 ゾイアが素早すばやく動いてめ、「言わぬことではない」と言いながら、寝台ベッドへ運ぶ。

 ピローを重ねて折り、背中にあてがって上半身だけ起こした形に横たえた。

「おっさん、すまねえな」

 殊勝しゅしょうれいべるロックに、ゾイアは「この姿勢がつらくなったら、いつでも言ってくれ」とだけ告げた。

 トニトルスはピリカを手伝うと言って部屋を出て行ったため、ゾイアとツイムで椅子やテーブルを寝室側に移動した。


 食事の支度したくを待つあいだ、ゾイアはツイムにたずねた。

まかせきりにしてすまなかった。状況を教えてくれ」

「うむ。一応、市内をくまなく調べた。すでに死んでいたメギラ族以外にも多少蛮族が入り込んでいた形跡けいせきはあったが、みんな逃げたようだ。こっちは、避難誘導を終えたロックの隊をあわせて五千名になったからな。確認が終わったところで、日も落ちたし、宿営の準備をしながら、念のため交替で市内を巡回させてる。それと、ないとは思うが、夜討ようちに備えて各方面に見張りを立ててる」

 ゾイアはうれしそうに、「完璧かんぺきだ」とツイムをめた。

 すると、ベッドのロックが、「おいらだって頑張がんばったんだぜ」と口をとがらせる。

 ゾイアは苦笑して、「すまん」とびた。

「われが発見した時には、おまえはもう意識がなかったからな。改めて言おう。よくやった、ロック。民間人をまもるため、われにさえたおせなかったギルガを、よくぞ仕留しとめた。すごいものだ」

 ロックは照れて「へへへ」と笑ったが、ツイムはあきれたように「おいおい」とたしなめた。

「今回は偶々たまたまそばにピリカさんがいたから助かったものの、下手へたすりゃ死んでたんだぜ。あんまり無茶するなよ」

 丁度ちょうど戻って来たトニトルスも、「わしの協力があったことも忘れるなよ」と口をはさむ。

 ロックはまた口を尖らせた。

「なんだよ、もう。褒めたりけなしたり。こっちは怪我人だぜ。いたわってくれよ」

 そこへうまそうなにおいと共に、シチューなべかかえてピリカが笑顔で入って来た。

「少なくとも、わたしはロックさまに感謝していますわ。ヤナンの新市民に一人の犠牲ぎせいも出なかったのは、ロックさまのおかげですもの。このようなものしかありませんけど、たんとし上がってくださいな」

「おお、ありがてえ。おいらの女神さま!」

 トニトルスが「調子に乗るな、阿呆あほう」と言ったが、その顔も半分笑っていた。


 ゾイアとツイムも食器の準備などを手伝い、シチューとパンだけの質素しっそな食事ではあったが、その美味おいしさとあたたかさに皆満足した。

 怪我人のロックでさえ、シチューをおわりしたくらいである。

 食後の薬草茶ハーブティーを飲みながら、トニトルスはフーッと長い息をいた。

「何年ぶりであろう。このように大勢で食事をするのは。まあ、最後の晩餐ばんさんかもしれぬが」

「おじいさまったら、縁起えんぎでもないことを言わないで」

 ピリカは顔色を変えてトニトルスの言葉をさえぎったが、意外にもゾイアが「いや、そうかもしれぬ」と同意した。

「われらは、あくまでも義勇軍だ。一先ひとまずヤナンの住民を避難させたが、この地を占領する訳にはいかぬ。早々に撤退てったいせねば、本格的な戦争となろう。残念だが、おぬしらも国外に脱出するしかあるまい」


 皆だまり込んでしまった、その時。

 コンコンと窓をたたく音がして、みょう抑揚イントネーションささやきが聞こえた。

「ピリカ先生、教えたい、ことが、ある」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ