378 ヤナンの乱(16)
(作者註)今回は、いつもと違って一人称の主観表現にしました。意識の流れ、みたいな感じです(。-_-。)
何だよ、このデカブツ。
仲間を皆殺しかよ!
確かにメギラ族ってのは、戦場の粛清担当らしいけど、温情の欠片もねえやつだな。
で、次はおいらの番だって?
ざけんなよ!
カリオテのロックさまを、なめんじゃねえぞ!
と、強がってみたものの、まあ、本音を言うと、逃げ出したいところだけどな。
でも、じいさんとピリカがまだ近くにいるからなあ。
時間を稼がなきゃなんねえ。
わあ、こっち見て笑ってやがる。
しっかし、でけえなあ。
ゾイアのおっさんより大っきいんじゃねえか?
筋肉の化け物だな。
二の腕なんか、おいらの胴より太いぜ。
しかも、見ろよ、あの剣捌き。
いや、剣じゃねえか、刀だな。
どっちでもいいが、動きが早過ぎて見えやしねえ。
試しに、ちょっと突っかけて。
ひえっ、危ねえ危ねえ。
とても近づけねえぞ。
どうしよう。
おいらの部隊はヤナン中に散らばってるから、近くには誰もいねえし。
おっさん、ちょっとこっちに様子見に来てくんねえかな。
おっと、いけねえ!
ふーっ、肝が冷えたぜ。
全く予備動作なしで刀を振るってきやがる。
他人の助けを当てにして、油断なんかしたら殺られちまう。
いや、恐らく、これでもあいつはまだ本気じゃねえんだな。
へっ、気色悪いニヤニヤ笑いをしやがって。
ネズミをいたぶるイタチかよ。
たが、追い詰められたラトゥスは、ムステラを咬むってことを知らねえな。
おいらには、女手一つで育ててくれた母ちゃんから貰った、すげえ御守りがあるんだぜ。
おいらの生まれたカリオテはな、漁業が盛んなことで有名だけど、香辛料の産地でもある。
母ちゃんはその農園で働いてたんだ。
いや、働かされてたんだ。
父ちゃんの残した借金を返すためにさ。
その母ちゃんが、働き過ぎて身体を壊し、働けなくなって農園を辞めさせられた時に、ホンの一握りだけ香辛料を貰ったんだ。
ひでえ話さ。
散々こき使いやがって、最後の餞別がこれっぽっちだよ。
ああ、ちくしょう、泣いてる場合じゃねえんだ、しっかりしなきゃ。
母ちゃんが死ぬ間際、困ったら売って金にするようにと言って、その香辛料を小さな袋に入れて、おいらにくれた。
それ以来、その袋を肌身離さず持ってんだ。
コソ泥してる時だって、これだけは手を付けずに残してたが、今は生命あっての物種ってやつさ。
袋ごと叩いて粉にして、目潰しにしてやるんだ。
とにかく距離を取らなきゃ。
そうだ、馬を下りよう。
おいらの逃げ足の速さをみせてやるぜ。
さあ、ついて来い!
狭い路地に入りゃ、向こうだって馬を捨てるしかねえ。
よし、来てる来てる。
笑っていられるのも、今のうちさ。
どうだ、走り難いだろう。
この狭さじゃ、おめえのでかい身体は邪魔でしかねえ。
この隙に、袋を石に乗っけて剣の柄で叩いて。
いいぞいいぞ。
だが、機会は一度だ。二度目はねえ。
粉々になったやつを袋から左の掌に出して、ギュッと握りしめる。
んで、剣は右手一本で持つ。
さあ、来やがれ!
うわっ、来た!
で、でけえなあ。近くで見ると、怪物だぜ。
こっちだ、こっちだ。
いいぞ、その調子。
引き付けるだけ引き付けて、諦めたフリをして、右手の剣を落として見せるんだ。
ほれっ。
よしっ、トドメを刺しに来たな。
これでも喰らえ!
やった、やったぞ!
見事に命中だ!
目を押さえて、手負いのイノシシみてえに吠えてやがる。
ざまあみろ!
あれっ、い、痛てえっ!
な、なんじゃ、こりゃ?
血みてえだな。
誰の血だ?
おいらのだ。
やられてる。
胸の近くだが、幸い心の臓は外れたらしい。
目潰しが当たる、一瞬前にやられたんだな。
随分派手に血が出てるぜ。
こりゃ、やばいな。
いや、それどころじゃねえ。
あいつ、目を瞑ったまんま、刀を振り回してやがる。
おいらの居場所を探してるんだ。
目潰しを投げた後、少し走ったけど、そんなに距離がある訳じゃない。
気づかれねえように、そっと逃げなきゃ。
あっ、誰だ?
ああっ、じいさん、戻って来やがったのか!
ば、馬鹿野郎、じいさんが敵う相手かよ!
お、しめた。ボロボロの甲冑に、あいつの刀が食い込んでる。
今しかねえ。
母ちゃん、おいらを護ってくれ!
この一撃に賭けるぞ。
あ、いけねえ、愚図愚図してたら、じいさんが殺されちまう。
そうはさせるか!
見てろ、カリオテのロックさまの渾身の突きを!
くたばりやがれっ!
や、やったぞ!
ゾイアのおっさんよりでっかい敵を斃したぞ。
ああ、だが、もう、限界みてえだな。
目が霞んできやがった。
頼む、ちょっと横にならせてくれ。
ふーっ、空が青いなあ。
いや、もう日暮れが近いせいか、紫色みてえだな。
綺麗だ。
あの空の上に母ちゃんがいるなら、あそこに行くのも悪くねえな。
あれ?
でっかい鳥が飛んでるが、ありゃ、おっさんだな。
そうか。
やっぱり助けに来てくれたんだな。
でも、ちょっと遅かったみてえだ。
いや、いいんだ。
別におっさんが悪い訳じゃない。
おいらの運が尽きたってことさ。
まあ、最後にじいさんを助けられて、良かったよ。
おいらも、他人の役に立ったってことさ。
じいさん、泣くことはねえよ。
人の生き死になんて、順番どおりじゃないさ。
ん?
なんだ、この温ったけえもんは?
おお、ピリカじゃねえか。
何してんだ?
掌をおいらに向けてさ。
え?
おいらを治してくれるのか。
へえ、ニノフみてえだな。
いや、あれは妹のニーナの方か。
ああ、なんだか気持ちがいいや。
眠ってもいいかい?
おやすみよ……。




