表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
384/1520

368 ヤナンの乱(6)

 ゾイア、ツイム、ロックの三人が、それぞれ千名を連れてその場を離れたあと、近くの木陰こかげから黒尽くろずくめの人物がユラリとあらわれた。

 ガイ族の女族長、バドリヌのようであった。

「何か、コソコソ、言ってた。気づかれたのか、わからぬ。まあ、よい。どうせ、皆、蛮族に、殺される」

 独特な抑揚イントネーションひとちると、再びユラユラと姿を消した。



 その蛮族軍一万は、ゾイアの想像どおり、隊列たいれつが細く長く伸びていた。

 中原ちゅうげんの中でも比較的古い時代からひらけているバロードは、人口密度も高く、人家じんかて込んでいるということもあろう。

 しかし、それ以上に大きな原因は、蛮族軍に蔓延まんえんしている厭戦気分えんせんきぶんであった。

 別の部隊とはいえ西側国境付近で手痛ていたい負けをきっし、全体に士気しきがっている上に、市民暴動ぼうどう鎮圧ちんあつという、はなやかさも褒賞ほうしょうの可能性もない地道じみちな仕事にまわされたからだ。


 そのような中で唯一ゆいいついているのは、メギラ族である。

 族長のギルガがまだ若く、攻撃的な性格ということもあるが、ほかの理由もあった。

『獣人将軍は、まだ出て来ないのか?』

 ギルガの問い掛けに、仲間たちがおびえたように首を振る。

 若い族長の粗暴そぼうさは皆知っており、気に入らない報告をしただけで殺された者もいるのだ。

 が、今日はそこまで不機嫌ふきげんではなく、むしろニヤリと笑った。

『ちゃんと見張っておけよ。どうせ一番乗りで来るはずだ。『あかつきの軍団』のとりでに乗り込んで来た時みたいにな』


 ギルガが言っているのは、ワルテール平原の会戦かいせん前哨戦ぜんしょうせんとして、蛮族軍の拠点きょてんとなっていた『暁の軍団』の砦をゾイアが四千の軍で攻めた時のことである。

 巨大な十字弓じゅうじゆみのようなバリスタで、太くて長いロープくくりつけたもり正門せいもんに打ち込むと、ゾイアはそのロープの上を走って単身たんしん砦の内部に乗り込んだのだ。

 二千名の蛮族の中に、たった一人でり立ったゾイアは、獣人化を自在に制御コントロールしつつ、大剣を振るって奮戦ふんせんした。

 多勢たぜい無勢ぶぜいどころではない苦戦であったが、砦の留守るすまかされていたバポロが早々はやばやと蛮族を見限みかぎって投降とうこうしたこともあって、ゾイアはからくも勝利をおさめることができた。

 結果として手に入れたこの砦が、今はニノフの本拠地ほんきょちとなった暁の女神エオスの砦である。

 その前哨戦の際に、蛮族側の中核ちゅうかくになっていたのがメギラ族であった。


『あの時、バポロの阿呆あほうが裏切らなければ、負けることはなかった。兄者あにじゃも獣人将軍にり殺されずにんだだろうな。もっとも、そのおかげで、おれさまが族長になれたわけだ。だから、その恩返おんがえしがしたいのさ。この半月刀はんげつとうでな』

 ギルガが自分の冗談に笑いながら、背中の半月刀を抜いて見せると、横にいた仲間が愛想笑あいそわらいを浮かべた。

 次の瞬間。

 ザンッ、という音が聞こえ、愛想笑いをした男は脳天のうてんを割られて絶命していた。

『ふん。戦場で笑っていいのは、おれさまだけだ』

 そう言うと、ギルガは声を上げて笑った。



 その頃、ゾイアのひきいる千名の義勇軍は、ヤナンの西側を回り込んで、北側にいる蛮族軍に接近しつつあった。

 先行した斥候せっこうが戻って来て、騎乗きじょうのままゾイアに報告する。

「敵は縦列じゅうれつにて行軍しており、先頭部隊は約二千であります!」

「おお、そうか、ご苦労! 後方こうほうがって休め!」

「はっ!」

 下がって行く斥候には笑顔を見せていたゾイアだが、正面に向き直ると厳しい表情になった。

「二千か。ちと多いな。しかも、混戦になった場合、向こうはさらに八千の後詰ごづめがいる。はじめに大きな打撃を与えて、サッと退くべきだ。が、その最初の一撃を与える力が、今のわれにはない」

 ゾイアはまよいを振り切るように大きく頭を振ると、大音声だいおんじょうで命じた。

「全員、戦闘態勢にて、われに続け!」

 あたりの空気がふるえるような「おう!」という大きな声がひびきわたり、ゾイアを先頭に千騎が駆け出した。



 ヤナンがあるバロード東南部と反対の、スカンポ河に程近ほどちかい西北部のはずれにある廃村はいそんに、ユラリと黒尽くめの人物が現れた。

 バドリヌである。

 人気ひとけのない廃村の中で、比較的原型をたもっている一軒いっけんの家の前に来ると、周囲を見回してサッと入った。

 ほこりもったゆかに、新しい足跡あしあといくつも付いている。

 バドリヌが奥の一室に進むと、中には椅子にしばり付けられた金髪碧眼きんぱつへきがんの男がいた。

 なんと、バロードの聖王カルスであった。

 バドリヌが帰って来たのに気づいてはいるようだが、目はうつろで、口を半開きにしている。

 その顔を見て、バドリヌは「ほう」と言った。

「少し、若く、なったな。あの、薬草、いた、らしい」

 カルスは何度か口を開け閉めして、ようやく声をしぼり出した。

に、何を飲ませた?」

 バドリヌは、フフンと鼻で笑った。

「あんた、の親、から、もらった、薬草。飲むと、しばらく、魔道、使えない、らしい。それと、ガイ族に伝わる、薬も、ぜた。これ飲むと、やる気、くなる。死ぬ気も」

 一瞬、カルスの目に怒りに似たものが浮かび上がりそうになったが、スッと消え、元の虚ろに戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ