表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
378/1520

362 魔王親征(7)

 中原ちゅうげん二分割にぶんかつを目指すバロードの聖王カルスは、ほうって置けば中原全体を制覇せいはしかねない勢力を持つガルマニア帝国を、母ドーラの調略ちょうりゃくによって東半分におさえ込みながら、西半分に侵略の手を伸ばそうとしていた。

 その障害しょうがいとなっているのが、カルスの実の子供であるニノフとウルス(と、いうより、実際には女性形のウルスラ)であった。

 ず、領土拡大に邪魔じゃまな南の『自由都市同盟』をつぶそうと、その盟主めいしゅとなっている商人あきんどみやこサイカを一万の兵で包囲させたが、結果的にはウルスラの説得によってほぼ全軍が寝返ってしまった。

 次にカルスは、母ドーラのすすめで矛先ほこさきを西にてんじる。

 庶子しょしであるニノフの王位継承権を剥奪はくだつし、仲介ちゅうかいしたケロニウスとの口約束に過ぎないとはえ、不可侵ふかしんの取り決めを反故ほごにして、西側国境近くに二万の兵を集めた。

 そして、みずから兵をひきいて、ニノフが新しい国造くにづくりを進めている暁の女神エオスと、その同盟相手の『荒野あれのの兄弟』を攻めたのである。

 その際、ドーラの男性形である父ドーンアルゴドラスも同行している。

 ところが、『荒野の兄弟』の首領ルキッフの奇策きさくによって機械魔神デウスエクスマキナが戦闘不能となり、父をその場に残し、カルスは一旦いったんエオスの近くの本隊に戻った。

 だが、カルスはそこでまたしても、ニノフに協力しているウルスの従者タロスのわなはまり、大敗をきっしてしまう。

 敵の只中ただなかに一騎で取り残されたカルスは、女性形のカンナになり、さらに白いコウモリノスフェルに変身してその場をのがれた。

 飛んで行った先は、『荒野の兄弟』のとりでを包囲している父ドーンのところである。


 ドーンは、デウスエクスマキナの暴走で逃げ散った蛮族軍を何とかき集め、完全に砦へ通じる道を封鎖ふうさして兵糧攻ひょうろうぜめの態勢たいせいを作り上げていた。

 今は、その一部が砦のある山のふもとり、ニノフの送った援軍えんぐんむかつ準備をしている。

 その指揮しきっているは、派手はでな仮面をかぶったドーン自身であった。

 そこへ、白いノスフェルがヒラヒラとりてきて、クルリと宙返ちゅうがえりするとカンナの姿となって着地した。

 ドーンに向かって歩きながら、徐々じょじょ筋骨きんこつたくましいカルスの姿に変わっていく。

 それを視線のすみとらえたはずであるのに、えてドーンはそちらを見ないで大きなひとごとのように話した。

いたものだ。息子のまぼろしが見えるわい。だが、そんなはずはないからのう。わが息子は、今頃いまごろは激しく敵と戦っているに違いないからな。おめおめと負け犬のように余のもとへ来るなど、ありん」

 皮肉たっぷりにそう言われ、カルスはくちびるんだ。

 しかし、思い直したように首を振り、笑顔を作って父に報告した。

手厳てきびしいお言葉、いたります。なれど、今は弁解するいとまもございません。明日には、ニノフの送った援軍と辺境からの軍、あわせて九千がここに参るでしょう。その前にここを引きはらい、一度帰国して出直でなおしましょう」

 ドーンは静かに仮面を脱ぎ、あわれむような目で息子を見た。

何故なぜだ? 危機きき好機こうきとなり合わせなのだぞ。援軍が砦の外でウロウロしておるなら、これをたたけばよい。おまえは、ここへ来るのではなく、本隊に戻って一万を率い、途中で敗走した五千をひろい集めて、大軍を作って攻めて来るべきだったのだ。そのあいだぐらい、余がおとりとなって、この場をしのいだものを。おまえの頭には逃げることしかないのか。この、臆病者おくびょうものめ!」

 次第しだいにドーンの言葉がキツくなり、最後には叱責しっせきびせられたものの、カルスの笑顔はこおりついたように変わらなかった。

「父上のお怒りはもっともながら、辺境の難民を受け入れたいだけと申しておるニノフをえてつぶさずとも、バロード傘下さんか自治領じちりょうとして認めるなど、ほかにも方法はございましょう。ウルスもまたしかり。骨肉相食こつにくあいはむばかりが中原統一のみちではないと存じます。むしろ、わが子らと同盟すれば、容易たやす事業ことが進むのではありませぬか?」

 ドーンが怒りで顔を真っ赤にして、息子を怒鳴どなりつけようとした、まさにその時。

 龍馬りゅうばに乗った伝令でんれいが駆け込んで来た。

「申し上げます、申し上げます! 火急の事態にて、王都おうとバロンより急行して参りました! 廃都はいとヤナンを中心に国民の暴動が起き、これに呼応こおうするように、南側国境の外に三千名ほどの軍勢がせまって来ております!」


 運命とは、時に悪戯者いたずらものである。

 亀裂きれつの入りかけた聖王親子は、バロードの緊急事態を知り、それ以上の争いをめたのである。

 息子をしかりつけようとしていたドーンの顔色がスーッと白くなった。

「息子よ、その話はまたの機会にせよ。今は国家存亡こっかそんぼう危急ききゅうの時じゃ!」

 カルスも氷のような笑顔を改めた。

「はっ! 直ちに本隊に戻り、急ぎ帰国いたしまする!」



 南側国境の外に集結している三千とは、無論むろん、ゾイアの組織した義勇軍ぎゆうぐんである。

 ゾイアの心積こころづもりとしては、西側のニノフに集中しているカルスの意識を分散ぶんさんさせ、遠方から援護えんごしようということであったろう。

 一方的にニノフのがわが勝つなどという番狂ばんくるわせは、さすがのゾイアも予想だにしていない。

 ゾイアは同時に、バロード国内で高まっている反政府感情が暴発ぼうはつするかもしれないとの、『自由の風』代表のロムからの情報も考慮こうりょしていた。


 サイカを出発するに際して、ゾイアはそのことを義勇軍の参加者に説明した。

「蛮族軍が西側国境付近に集まっているとはいえ、単発的な暴動ならばすぐに鎮圧ちんあつされ、悪くすれば、全員が逮捕たいほされ投獄とうごくされてしまう。犠牲者ぎせいしゃも相当出るだろう。それをさせぬため、われらが国外からさぶりをかけるのだ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ