表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
371/1520

355 啐啄同時

 ライナの屋敷では、ゾイアたちが集まって、今後の対応について話し合っていた。

 ニノフからの難民を受け入れて欲しいとの依頼に、ゾイアもギータも受け入れた方が良いとの考えを示した。ギータがその意味を皆に説明している。



 確かに、最大二十万人が一度に来れば、大混乱となろう。

 少なくとも、一年か二年かけて少しずつ移動させねばならん。

 それぐらいの時間の余裕はあるのか、ウルスラ?


 ほう、あるのだな。

 よいよい、理由がわからずとも、おまえがそう思うのなら正しかろう。

 ならば、受け入れるべきだ。

 わしがこう言うのは、中原ちゅうげん全体の人口構成を考えてのことなんじゃ。

 一口ひとくちに『豊穣神エナンの箱庭』などととわれるが、人口密度では明らかに南北で格差かくさがある。

 バロードやガルマニアがある北半分に比べ、南側は人口が少なく、大きな国もない。

 理由は、土地がせておるからだ。

 さらにわしらのおる西南部には乾燥という悪条件があり、ガイのさとなどがある東南部には土壌どじょうに含まれる毒素という問題がある。

 まあ、東南部のことは、一先ひとまず置こう。


 この二日間、義勇軍ぎゆうぐんを呼び掛けるため、わしらは駆け足で西南部の自由都市を回った。

 どこでも返事は同じであったよ。

 人を出す余裕がない、とな。

 今後、西北部にあるバロードが拡大政策をるのは間違いなく、それに対抗しようにも、兵力以前に抑々そもそも人口が足りないんじゃよ。

 辺境は、気候風土としては中原西南部に近い。

 もっと乾燥し、もっと土地が痩せているがな。

 移住先としては、一番合っているじゃろう。

 問題は、増える人口をどうやってやしなうか、じゃ。

 水については、『自由の風』のロムたちがやっているように、水がれてしまった廃市はいしの井戸を掘り直すのもいいじゃろう。

 あるいは、南のアルアリ大湿原しつげんから水を引いて来ることも考えられよう。

 東南部に比べて面積はせまく水量も少ないが、毒素はないからのう。

 土地の肥沃化ひよくかについては、それこそ遊牧民に定住してもらって、家畜のふんなどで改善していけばよい。

 ともかく、バロードに押しつぶされぬためには、兵力と共に、それを支える豊かさが必要なんじゃ。

 人も、家畜も、農産物も増えれば、サイカの商売も活気かっきづく。

 そういうことであろう、ゾイア?



 ギータが話している間中あいだじゅう莞爾かんじ微笑ほほえみながら聞いていたゾイアは、大きくうなずいた。

まさにそのとおりだ。さすがに、ギータは口が上手うまい。あ、いや、いい意味で、だぞ」

 ギータが苦笑した。

めるなら、雄弁ゆうべんじゃとか言ってくれ」

 ゾイアも笑ったが、すぐに表情を引きめた。

「難民の受け入れについては、これから追々おいおいに話し合ってゆこう。それより、喫緊きっきんの課題は義勇軍だ。われはロムに聞いてみたが、出せても二千という答えであった」

 ロックが鼻をらした。

「それはマシな方さ。おいらが回ったとこなんざ、数十人って返事だったぜ」

 ツイムも頷く。

「ああ、おれも出せて百人と言われたよ」

 ギータは皺深しわぶかい顔を一層いっそうしかめ、「じゃろうな」とめ息じりでつぶやいた。


 と、いきなりライナがバーンとテーブルをたたき、叫んだ。

「しけたつらするんじゃないよ! サイカから二千、いや、三千出してやるさ!」

 これには、ゾイアが首を振った。

「いや、それではサイカが丸裸まるはだかになってしまう。五百でよい。諸々もろもろあわせて三千人集まれば、何とか戦略はける」

 大人たちの言いぶんを聞いていたウルスラが、小さく手をげた。

「わたしから、サンサルスさまにお願いしてみましょうか?」

 ゾイアは笑顔ながらも断った。

「いや、今はまだその時機じきではあるまい。包囲戦では、かなり無理をしてもらったからな。いざとなればプシュケー教団が背後にいる、というだけで、相当そうとう抑止力ようしりょくにはなる。それに、今回は主戦場が『荒野あれのの兄弟』のとりでの近くになろう。プシュケー教団の拠点きょてんであるシンガリアからは、いくつも山越やまごえするか、大きくバロードの南を迂回うかいするかしかない。どちらもむずかしいと思うぞ」

 これを聞いて、横のロックが口をとがらせた。

「おいらたちだって遠いよ! どうすんだい?」

 ゾイアは、ニヤリと笑った。

無論むろん、『荒野の兄弟』の砦までは行かぬ。また、そんな時間の余裕もない。だが、さいわいバロードは大国だ。っつくところは、いくらでもあるさ。おお、それに、たまごかえる時は、親鳥が外から突つくのに合わせて、同時に中からひなも突つく、というではないか」

 ギータが驚いて「慎重しんちょうにな」とくぎを刺した。

「ゾイアはロムと会ったから、色々バロード国内の情報が入ったのかもしれんが、カルスやドーラを甘く見てはいかんぞ。あやつらは油断ゆだんすきい」

 言ってしまってから、ギータはウルスラに「すまん」とびた。

 ウルスラは「いいんです」と、ややかたい笑顔でこたえた。

 ゾイアも真顔まがおに戻って頭を下げた。

「われこそ、先走ったことを言ってすまぬ。取りえず義勇軍の参加者をサイカに集め、情勢を見ながら改めて考えよう。いついくさが始まってもおかしくないからな」



 ゾイアの予想どおり、その時すでに、バロード軍の一部が『荒野の兄弟』のとりで目指めざして進軍し始めていた。

 その数、五千。

 砦側の約ばいであり、攻城軍こうじょうぐんとしては然程さほど多くはない。

 人員構成は、ほぼ全員が蛮族であり、バロード人よりは山岳戦さんがくせんけているが、『荒野の兄弟』もそれは同じである。

 しかし、脅威きょういは別のところにあった。

 所謂いわゆる鉄の巨人ギガンが同行していたのである。

 そしてまた、その軍をひきいているのは、蛮族の者ではなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ