あらすじ(301 誘拐(12) ~ 350 三種の利器)
商人の都サイカでは、誘拐されたゲルヌを救出したいと珍しく強硬に主張するウルス王子に、ツイムが困っていると、プシュケー教団のヨルム青年が同行を申し出た。
一方、ゲルヌがいるエイサに潜入するため、態と東方魔道師に捕まったゾイアとシャンロウは、チャロア団長の前に引き出されたものの、ゾイアの変身能力で一度は脱出できたかに思われた。
が、そこへタンリンが現れ、ゾイアに痺れ薬を塗った刀子を突き刺し、一気に形勢が逆転してしまう。
タンリンは、ゾイアとシャンロウだけでなくゲルヌも、地下道で飼われている生き物の餌にすると宣言する。
そのゾイアとシャンロウを追って来たギータとクジュケは、地下通路の地図を拾う。
それは、再び赤目族を支配したいとの妄執に取り憑かれたカルボン卿の仕業であった。
ギータとクジュケは、その地図を頼りに、エイサの地下通路へ入って行く。
同じ頃、幽閉されているゲルヌの許には、『潜時術』を使ってサンジェルマヌス伯爵が訪れていた。
が、ゲルヌは、今すぐ脱出することは拒否する。
そこで、サンジェルマヌスは、このエイサの古代からの歴史を話して聞かせた。
……この地に高度な文明を築いていたイサニアに大災害が起こり、人々は中原からダフィニア島へ渡って『失われた種族』になった。
その後、元のイサニアの地に主知族が戻って来て自由都市イサニアを創り、地下の神殿も再建された
ダフィニア島が海没した際、中原に渡って来たアルゴドラス聖王によって、イサニアは滅ぼされてしまった。
その際、ノシス族自身によって厳重に神殿は封印され、そこが埋め立てられた後に、魔道師の都エイサができた。
それから二千年、地下の古代神殿は気づかれることなく埋もれていたが、磁場の乱れに気づいたブロシウスが発掘を始めていた。
ブロシウス討伐後、それを引き継いだ東方魔道師たちは、地下の隧道を実利的な目的に使っているという……。
話し終えたサンジェルマヌスは、隧道に潜む危険に備えるため、ゲルヌに忌避剤を渡して去って行く。
地図を頼りに地下通路に入ったギータとクジュケは、大蜥蜴の群れと出くわす。
そこへ、痺れ薬で動けないゾイアと、縛られたシャンロウも放り込まれる。
何とかその四人全員で隠れていると、更にゲルヌも連れて来られ、地下通路に放置された。
ゲルヌはサンジェルマヌスから貰った忌避剤を撒き、一時的ではあるが大蜥蜴たちを遠ざけることができた。
姿を現したクジュケ・シャンロウ・ギータは意識を失ったゾイアを連れ、ゲルヌと一緒に地下通路を奥へ向かって進んだ。
それを密かにカルボン卿が追って行く。
ゲルヌたちの一行が赤目族に遭遇すると、その機会を窺っていたカルボンが姿を現した。
だが、赤目族たちは集団でカルボンを凍結すると、妖精族の血を引くゲルヌとクジュケだけを、地下の古代神殿を通って外まで案内するという。
未だ意識の戻らぬゾイアのため、ギータはシャンロウと共にここに残り、後程合流することになった。
地上では、ゲルヌを救出に来たウルス・ツイム・ヨルムの三人が、エイサに侵入しようと、替え玉によって攪乱を図った。
ヨルムが大蛇に変身して暴れる間に、ウルスとツイムは検問をすり抜けた。
しかし、ヨルムはタンリンに痺れ薬を塗った刀子で刺されて捕らわれてしまう。
ウルスとツイムは、エイサの中央広場で、十字架に掛けられたヨルムを目撃した。
ヨルムを救うため、ツイムとウルスは仇討ちを装い、処刑を中止させる。
その時、ちょうど痺れ薬の効き目が切れたヨルムが再び大蛇となり、どさくさに紛れて三人で逃げようとするが、タンリン率いる東方魔道師たちに行く手を阻まれてしまう。
その頃、赤目族に案内され、更に地下深く進んだゲルヌとクジュケは、巨大な円筒形の空洞の底にある、古代神殿を目にする。
それは、かつて塔の都とも称されたエイサを彷彿とさせるものであった。
古代神殿の中に入った二人は、案内してきた赤目族の神官に、星空が拡がる本堂に閉じ込められてしまう。
そこでゲルヌとクジュケは、この世界を外側から見たと思われる幻影を見せられる。
……太陽と思われる光球の周りを回る球体の上に、中原と思われる場所があり、そこへ敵に攻撃されたらしい巨大な円盤状の乗り物が落下して来た。
古代神殿そっくりの中央部分だけが外れて中原のど真ん中に落ち、本体は遥か北の大海の方に飛んで行った……。
見終わったゲルヌの額には、赤い第三の目が現れていた。
それを見た赤目族たちは、ゲルヌを『魔道神のみ使い』と呼び、一転して丁重に持て成す。
一方、ウルス・ツイム・ヨルムの三人を捕らえようとするタンリンらの背後から、鳥人形態に変身したゾイアが飛んで来て、タンリンの鍔広の帽子を奪い取った。
魔道の力を失ったタンリンは、中央の塔に潜ませていたガルマニア兵千名を呼び出し、自分は部下の帽子を奪って逃げてしまう。
千人に囲まれたゾイアたちは、僅かに六名しかいない。
戦って血路を斬り開こうとするゾイアを、ウルスが止めた。
聖地であるエイサを血で汚すことになる、というのである。
その時、中央の塔の鐘が鳴り響いた。
遂に地下を通り抜けたゲルヌの仕業であった。
クジュケの魔道具を借りて、ゲルヌはガルマニア兵に呼び掛けた。
現在のガルマニア帝国は、チャドス宰相らマオール人に牛耳られており、兄のゲルカッツェはその傀儡になっていると糾弾し、ゲルヌは『神聖ガルマニア帝国』の設立を宣言した。
兵士たちから喝采が起き、流血の事態は回避された。
このゲルヌの宣言に怒ったゲルカッツェは、ゲルヌの暗殺をチャドスに命じた。
ところが、タンリンが戻り、現在エイサ全体が強力な結界で護られていて魔道師は近づけないとチャドスに伝えた。
チャドスは、代わりに討伐軍を送ることを考え、皇帝ゲルカッツェに赤髭将軍ツァラトを推奨する。
率いるのは五千名でいいと言うツァラトを、タンリンが怪しむが、その後、ゲルヌがエイサを出たとの情報が入り、討伐軍自体が沙汰止みとなった。
ゲルヌの宣言はバロードにも伝わり、ドーラは、中原の耳目がガルマニアに向いている今こそニノフを攻めるべきと、息子のカルス王を唆す。
そこへ、食い詰めたバポロがやって来た。
すぐに首を刎ねよと主張するドーラに、カルスは、王は自分であると苛立ち、バポロには使い途があると言う。
機嫌を損ねたドーラは早々にガルマニアへ戻り、カルスは一人でバポロに会う。
ニノフのいる暁の女神に行かされると思っていたバポロに、カルスは『荒野の兄弟』の説得を命じる。
その『荒野の兄弟』の砦では、記憶を失ったタロスであるティルスに、再びウルスラの人格が重なっていた。
そこへ、ティルスの親友ベゼルが、首領のルキッフが集会場に来るよう呼んでいると誘いに来た。
集会場では、正式なバロードの使者として来たバポロが、同盟を勧誘する演説をしていたが、ウルスラは我慢できずに口出ししてしまう。
激昂したバポロは、いきなりティルスを刺そうとするが、ベゼルが身を挺して庇い、致命傷を負ってしまう。
ルキッフは、使者であるバポロを殺さずに捕らえるよう部下たちに厳命すると共に、ティルスとベゼルを二人きりにするため、全員外に出す。
瀕死のベゼルは、生涯唯一人の親友となってくれたティルスに感謝しつつ、微笑んで息を引き取った。
ティルスは慟哭する。
が、外で待っているルキッフのところへ呆然と現れた時にはティルスとしての記憶のない、タロスに戻っていた。
一方、ティルスの身体から離れたウルスラは、エイサのウルスの身体に戻った。
ベゼルの死に責任を感じているウルスラを、ツイムが慰めた。
その二人を含め、ゾイア、ゲルヌ皇子、クジュケ、ギータの六人で、今後の対応を話し合うこととなった。
ゲルヌは、自分の父の死は、宰相であるチャドスの陰謀であると断言し、味方になった東方魔道師シャンロウが証人だと述べる。
それを各方面の将軍たちに知らせ、行方がわからない長兄ゲーリッヒと協力し、反転攻勢をかけると宣言した。
ところが、その高揚感でゲルヌの額に赤い第三の目が現れ、その影響からか、ゾイアに制御不能の獣人化が起きてしまう。
理性を失い、ギータに襲い掛かるゾイアを止めるため、咄嗟にゲルヌはゾイアを有翼獣神と呼んで、変身を解除するよう命じた。
そのままではゾイアが再び初期化しかねないとみたクジュケは、ゲルヌに頼んで人間の形を保つように言ってもらう。
初期化は回避したものの、ゾイアは気を失っているため、クジュケとツイムで別室に運び出した。
その間に、ゲルヌは赤目族から聞かされた古代の歴史をウルスラとギータに語った。
……超太古、主知族の先祖は中原に高度な文明を築いていた。
そこに、外の世界から巨大な乗り物が落下し、中原に住めなくなった彼らはダフィニア島に逃れ、そこで失われた十種族となった。
ノシス族は、中原が再び住める状態になると、一部が中原の中央に戻り、自由都市イサニアを創り、その地下に神殿を造った。
ところが、ダフィニア島が海没し、他の種族も中原に渡って来ることになり、両性族のアルゴドラス聖王によってイサニアは滅ぼされてしまう。
その際に、アルゴドラスが奪ったのが、干渉機即ち聖剣と、機械魔神であった……。
一方、別室のゾイアは、人形のように無個性な状態になっていたが、クジュケにケルビムの名で呼ばれ、再び元のゾイアに戻った。
ツイムも含めた三人で会議の席に戻ると、ゲルヌが今後の方針を話した。
チャドスの陰謀の生き証人であるシャンロウと、クジュケを連れて身を隠したいという。
クジュケは一度断ったが、ウルスに説得されて、不承不承引き受ける。
その時、ゾイアが自分自身の異変に気づき、全く変身できなくなったようだと告げた。
ゲルヌ救出のためにエイサに集まった面々のうち、ウルス、ツイム、ギータの三人は取り敢えずサイカに戻ることになり、変身ができなくなったゾイアもそれに同行することになった。
出発間際、ゲルヌがウルスの誕生日を祝うと、ゾイアは自分には誕生日があるのか考え込む。
ゾイアは、自分自身が何者なのかに悩み、苦しんでいたのである。
悩みを聞いたギータ、そして、ウルスやツイムにも励まされ、ゾイアは涙を流す。
一方、記憶を取り戻したタロスは、暁の女神の砦に立ち寄った。
そこで、ニノフから、不在のゾイアの代わりに、一軍を率いて戦って欲しいと頼まれる。
躊躇うタロスを、ゾイアの副将であるペテオが説得した。
そのタロスが去った『荒野の兄弟』の砦では、牢に閉じ込めていたバポロが殺されて騒ぎになっていた。
ニノフへの開戦の口実を求めたカルス王の仕業であった。
その報せを受けたニノフは、早すぎる開戦に困惑するが、いずれゾイアが戻ることを願った。
ゾイアたちがサイカに着くと、そこにはロックが待っていた。
ゲルヌ救出に出遅れ、仕方なくここで情報を集めていたのだと怒る。
そこへニノフから手紙が届き、開戦が避けられないため、ゾイアの代わりにタロスに一軍を率いてもらうというのである。
ゾイアも賛成し、自分はここで義勇軍を募って、バロードに横槍を入れるつもりだという。
その頃、皇帝ゲルカッツェは、自分が首を刎ねたブロシウスの亡霊に悩まされていた。
舞姫ドランの姿でゲルカッツェの許に戻ったドーラは、自分が不在の間残していた幻影のことを亡霊が指摘したと聞き、ギクリとした。
そこで、亡霊のことを調べようとしたドーラの前に、タンリンが姿を現す。
舞姫ドランの正体が怪しいとみて、罠を仕掛けていたのである。
しかし、ドーラは『魔の球』によって、タンリンを強制的にどこともわからぬ場所に転送してしまった。
強制ポートされたタンリンは北方にいた。
群がって来る腐死者たちから逃れ、上空から更に北を眺めたタンリンは、極光を見つけ、そこまで飛んで行こうとする。
遠くエイサの地下でそれを察知した赤目族たちは、北方の危険が増すことに、騒然となった。
しかし、タンリンは留まらず、遂に永久に凍りついた北の大海に到達し、その氷に突き刺さる巨大な円盤状のものを発見した。
円盤の中央には大きな穴があり、そこから幾重にもズレた白い影のようなものが出て来ようとしていた。
その後、辺境では、夜空に浮かぶ巨大な東方魔道師の顔に人々が怯えることになった。
辺境伯アーロンは、カルス王かドーラの陰謀ではないかと疑った。
同時に、赤目族の古代神殿に同じ巨大な顔の虚像が現れ、ドーラが強制ポートしたタンリンのものであると判明する。
タンリンは、マオール語で喋り始めたが、その内容は惑星を浄化するというものであった。
この危険を一時停止させるために、サンジェルマヌスがウルスラの許を訪れ、ドーラに奪われぬよう一瞬だけ聖剣を使用させる。
そのドーラは、抑々白魔が二千年前に最初に起動する切っ掛けとなったのは、自分の所為だと息子カルスに告白し、アルゴドラスの姿で経緯を話した。
……ダフィニア島の海没により中原に渡ったアルゴドラスは、ノシス族から、『三種の利器』のうち、聖剣とデウスエクスマキナを奪ったものの、ケルビムは既になかったという。
もっと別の利器が眠っているのではないかと北の大海へ行ったアルゴドラスは、そこで巨大な円盤を発見し、ドゥルブを目醒めさせてしまった……というのである。




