350 三種の利器
バロードの聖王カルスは、自身の庶子であるニノフを攻める口実を求め、ニノフと同盟している『荒野の兄弟』を挑発した。
それを見抜いた『荒野の兄弟』の首領ルキッフは、自分の部下を殺した使者のバポロを敢えて処刑せず、軟禁して交渉を引き延ばそうとした。
しかし、カルスは自ら白いコウモリとなって忍び込み、牢に入れられていたバポロを密かに殺害すると、ルキッフの仕業に見せかけ、それを非難することによって宣戦布告しようと準備を進めていた。
その最中、カルスの執務室に跳躍して来た母のドーラは、北方の白魔に動きがあったことを伝える。
だが、対処方法を話し合う間もなく、ドゥルブの活動は一時停止し、二人は自分たちの探し求める『アルゴドラスの聖剣』が使用されたことを知った。
その際、ドーラは、抑々ドゥルブが二千年前に最初に起動する切っ掛けとなったのは、自分の所為だとカルスに告げ、アルゴドラスの姿に変身して話し始めたのである。
ダフィニア島が海中に没した後、余は初めて中原に渡り、そこに広がる未開の世界に魅せらえた。
ここに、自分の理想の国を創ろうと思ったのだ。
当時の中原は、地味は豊かでもそれを耕す技術もなく、狩猟採集で糊口を凌ぐだけの、謂わば蛮族の世界であった。
征服は容易と思ったが、ダフィニア島から渡った他の種族の動向が気になった。
特に主知族は、ダフィニア島が水没する前から少しずつ中原に渡っており、多数の犠牲者を出した他の種族と異なり、殆ど無傷であったのだ。
そのため、他の種族からは、ノシス族こそがダフィニア滅亡の原因を作ったではないかと疑われているくらいだ。
まあ、ノシス族自身は、未来予測のお陰だと主張しておるがな。
余は、中原布武を邪魔する者がいるとしたら、それはノシス族であろうと考え、ずっと動きを探っていた。
ところが、奇妙なことに、かれらは中原の中央に固まって動かなくなったのだ。
余はドーラの姿となってノシス族の神官を誘惑し、驚くべき秘密を訊き出した。
中原には元々高度な文明があったが、かれらの言う『天からの災厄』によって一旦全て滅びたという。
生き残った者がダフィニア島に渡ったのが、『失われた種族』の始まりなのだそうだ。
その超古代文明の遺跡が中原の中央にあるため、かれらの信ずる魔道神の神殿を造ろうとして集まっていたのだ。
そこが今のエイサ、当時はイサニアと呼ばれていた場所だ。
正直に言って、余はかれらの信仰に興味などなく、また、かれらが褒め称える超古代文明など大したものではないと高を括っていた。
余は誑かした神官に案内させ、地下の古代神殿を実際に見て驚いた。
それは、この世界のものではなかった。
いや、比喩ではなく、実際に外の世界から来たものであったのだ。
オリカルクムという超合金を初めて目にしたのも、その時だ。
先程申した『天からの災厄』とは、外の世界の巨大な乗り物が墜落して来たことが原因らしく、その一部が古代神殿として使われていたのだ。
そこに、かれらのいう『バルルの三種の利器』と称されるものがあった。
機械魔神、後に余の名を冠した聖剣として知られることになる干渉機、そして有翼獣神の三つだ。
かれらは、この内余が奪った二つは、かれらの先祖である超古代文明人が造ったものと主張していたが、それは嘘だな。
あれ程のものが、この世界で造れるはずもない。
三つとも外の世界から齎されたものに違いないと、余は信じておる。
さて、ノシス族は、利器を失ったのが余程悔しかったのか、この出来事を『イサニアの屈辱』などと呼んでおる。
だが、どんな道具であれ、使わずに祭り上げるだけなら宝の持ち腐れよ。
尤も、報復される可能性はあった。
やつらには、まだケルビムが残っておったからな。
よって、余は常にそうして来たように先制攻撃を加え、完膚なきまでに叩きのめしてやったのだ。
住民は全員捕虜にし、当時の帝都ヤナンに連れ帰った。
跡地は埋めてしまったが、後世そこにイサニアと似たエイサができるとは、土地も亦、前世の記憶を持つのであろうか。
ともかく、余がイサニアを滅ぼした時には、既にケルビムはおらなんだ。
捕虜たちを少々痛めつけて聞いたところ、空の上に逃げて行ったのだという。
本当かどうかは知らぬ。
まあ、二千年後に地上に落ちて来たところをみると、本当に空の上に居たのかもしれん。
ケルビムの行方を調べる過程で、捕虜たちの口から別の秘密を知ることになった。
『天からの災厄』の原因となった外の世界の乗り物の本体が、北の大海のどこかにあるはずだというのだ。
余は、欲を出してしまった。
乗り物のホンの一部だけが残った古代神殿でさえ三種もの利器があるのなら、本体にはどれほどのお宝が眠っているのだろうとな。
余はその足で北方に飛び、そのまま北上して、迂闊にも禁区に入ってしまったのだ。
北の最果ての凍った海で、余は金属製の超巨大な円盤状の構造物を発見した。
表面の大部分を雪や氷が覆っていたが、露出している金属の部分は燻んだ紅色で、錆や曇りもなく、磨き立てのような鮮やかな光沢を保っておった。
それは正に、古代神殿で見たオリカルクムと呼ばれる金属と同じ材質であった。
これが完全に円盤状であるとすれば、余から見て右上から突っ込んで来て、左側半分が海中に没していることになる。
余は、高度を上げながら左側に回り込み、斜めに見えている円盤の上の面を観察した。
表面に構造物らしいものはなく、全体的にツルリとしているが、中央の部分にポッカリ開いた丸い穴が見えた。
余が更に接近すると、巨大円盤の中央に開いた穴から、幾重にもズレた白い影のようなものが出て来た。
同時に、懐に入れていた聖剣が異常な反応を示した。
この時、ドゥルブが初めてこの世界に現れたのだ。




