表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
351/1520

337 君、君たらずとも

 母が違うとはいえ、実の弟をき者にして欲しいとの依頼いらいを、まるで甘えた子供が玩具おもちゃをねだるような気軽さで言われ、さすがにツァラト将軍は顔をくもらせた。

 が、すぐに表情を引きめ、「み意思こころのままに」と頭を下げた。

 あまりにもアッサリ承諾しょうだくされて、頼んだ皇帝ゲルカッツェのほう不審ふしんな顔になり、「いいの?」と念を押した。

 ツァラトは少し顔を上げ、「主命しゅめいとあらば」と答えて、すぐに顔をせた。

 単純なゲルカッツェは、それだけで自分のえらさを再確認したように満足したみを浮かべた。

「じゃあ、討伐軍とうばつぐんの人数は、おまえの好きなだけ連れて行っていいよ」

 再び顔を上げたツァラトは、覚悟が決まったのか、ぐにゲルカッツェを見据みすえてこたえた。

有難ありがたしあわせ。ならば、五千名ほどひきいて参ります」

「え? 少なくない?」


 如何いかに軍事にうといゲルカッツェでも、小国に匹敵ひってきする広さのエイサを攻めるのには、少なくとも万人単位の軍が必要だということぐらいはわかるのであろう。


 しかし、ツァラトは「充分です」と答えた。

「なぜなら、エイサそのものを攻める必要はないとぞんずるからでございます。エイサは攻めるはやすくとも、まもがたき都市。占領せんりょうしても意味はござらぬ。皇弟こうていゲルヌさまのもとにおる兵士は約千五百。これさえ蹴散けちらせば、目的はたっせられまする」

 軍事の専門家であるツァラトに自信たっぷりに言われれば、素人しろうとのゲルカッツェも納得せざるをない。

「へえ、そうなんだ。じゃあ、まかせるよ」

「はっ! それでは早速さっそく準備を始めまするので、これにて」

 そそくさと退出たいしゅつするツァラトを見送り、ゲルカッツェは少し不安な表情をしたが、すぐに笑顔になってパンパンと手をらした。

「美女軍団を呼んでよ。おやつの時間だから」


 一方、謁見えっけんを出たツァラトは、深くめ息をいた。

「たとえ暗愚あんぐでも主君しゅくんは主君。わがはいは、ただ臣下しんかつとめをたすのみ。ん? 何者だ!」

 ツァラトの前に、ゆらりと黒い人影があらわれた。

 その場でみずか隠形おんぎょういたのは、たけの長いマントを羽織はおり、鍔広つばひろの帽子をかぶった、目つきのするどい長身の男であった。

 東方魔道師のタンリンである。

 タンリンはツァラトの顔を見て、ニヤリと笑ってから慇懃いんぎん辞儀じぎをした。

「お務め、ご苦労さまでございまする」

 ツァラトは顔をしかめ、「下郎げろうせろ!」とてた。

 タンリンは顔を上げ、体格は違うが同じくらい背の高い相手と目を合わせ、とぼけたような顔をして見せた。

「はてさて、ガルマニアのような田舎いなかではいざ知らず、こう見えても本国のマオールでは貴族にれっする。下郎呼ばわりは、失敬しっけいでしょう」

「ほう。マオールでは、貴族も密偵みってい生業なりわいにしておるのか?」

 タンリンはそれ以上は取り合わず、用件をべた。

「皇帝陛下へいかのご下命かめいとは申せ、つらいお役目を引き受けられ、ご同情いたしまする。されど、ちと、気になることがございましてな」

 ツァラトは返事をせず、フンと鼻をらした。

 タンリンは構わずに話を続ける。

小耳こみみはさみましたが、エイサへ五千名で行かれるとか。皇帝もご心配されておりましたが、如何いかがなものでしょうか?」

 ツァラトはムッとした顔で反問した。

「おまえにいくさ差配さはいがわかるとでも言うのか?」

 タンリンは両方のまゆを上げて、笑顔で首を振った。

「とんでもないことでございます。わたしごときに何がわかりましょう。ただし」

「但し?」

「広いエイサを五千名では包囲できませぬ。よって、直線的に攻めるよりほかに戦術はございません。まあ、相手が千五百なら、間違いなく勝てはするでしょうが、そのかん獲物えものは逃げるでしょうな。いや、きっと逃がされるでしょう」

 ツァラトの表情がかたくなった。

「何が言いたいのだ。わがはいは、これから戦の準備でいそがしいのだ。そこをどけ!」

 タンリンはゆっくりと横に移動しながら、ツァラトにニヤリと笑い掛けた。

「おお、どうぞよろしくお願いいたしまする。獲物を結界の外に出してさえいただければ、あとのことはこちらで何とかいたしまするゆえ

 ツァラトは物凄ものすごい目でタンリンをにらんだが、それ以上の反論は相手の指摘したことを認めるのも同然であるから、憤然ふんぜんとしたまま出て行った。


 しかし、結局、ツァラトは討伐軍をひきいることはなかった。

 ほどもなく、肝心かんじんのゲルヌがエイサを出たとの情報が入って来たからである。



 ゲルヌとその配下の千五百の兵がエイサを出たとの情報は、すぐに中原中ちゅうげんじゅうに広まった。

 恐らく、意図的に拡散かくさんさせているのであろう。

 その行先については、情報が錯綜さくそうした。

 無論むろん計画的にであろうが、千五百名が一塊ひとかたまりではなく、いくつも少人数のたいかれ、方向もバラバラにエイサを出たのである。

 その中に子供の姿はなかったが、うわさでは同行している魔道師が巧妙こうみょうに隠形させているという。


馬鹿馬鹿ばかばかしい。たかとうか十一の子供に、大人たちがおどらされておるわいな」

 そうひょうしたのはドーラである。

 また、ひそかにバロードに戻って来ていた。

 話している相手は、当然、息子のカルス王であったが、その横にもう一人いた。

 妊婦にんぷである。

 カルスの子を身籠みごもっている蛮族の娘、レナであった。

「あ、動きました!」

 うれしそうに言うのを、カルスも目を細めて見ている。

 ドーラも笑いながら息子に告げた。

「生まれて来るこの子のためにも、早く邪魔者じゃまもの片付かたづけねばならんのう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ