表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
346/1520

332 願い

 タロスは、ルキッフから餞別せんべつもらった馬に乗り、暁の女神エオスとりでに着いた。

 タロス自身の記憶の中には、『あかつきの軍団』当時のこの砦の記憶はないのだが、強烈きょうれつ既視感デジャヴおぼえた。

「しかし、随分ずいぶん変わったな」

 思わずそうつぶやいたが、その変わる前の景色は浮かんでこない。

 それは、すべてティルスの経験したことだからであった。

 廃城はいじょうをほぼそのまま利用していた『暁の軍団』当時に比べ、現役の城としての体裁ていさいが整ってきている。

 もっとも、普通の城に比べれば往来おうらいはかなり自由で、タロスは間もなく城門に近づくというのに、特に誰何すいかもされなかった。

 それ以外に、記憶がなくともわかる変化があった。

 砦の外にいる人々の騒然そうぜんとした雰囲気ふんいきだ。

「そうか。ルキッフどのが、バロードの西側国境に大軍が集結しているようだと言っていたが、早くも伝わったのだな。で、あれば、簡単にニノフどのに挨拶あいさつだけして、サイカに急ぐか」


 勿論もちろん、『荒野あれのの兄弟』の砦にかつての『暁の軍団』団長のバポロがあらわれて、ニノフたちを裏切ってバロードがわに付くよう説得しに来たことは、第一報だいいっぽうとして伝えてある。

 これが遅れれば、裏切りの意思ありと疑われても仕方がないからだ。

 その後、バロード軍の動きなどの新情報が入ってきたため、サイカへ行く途中にあるエオスへ寄って、一言ひとことだけでも伝えて行こうと、タロス自身が提案したのである。


 ところが、タロスの馬が近づくにつれ、騒がしかった砦の兵士たちの声が、ピタリとまった。

 少しを置いて、ヒソヒソとささやく声が聞こえてくる。

 タロスの耳にも「ゾイア将軍?」という単語が聞き取れた。

「これは、早めに誤解をいた方がよいな」

 タロスはそうひとちると、大きな声で呼ばわった。

「わたしはウルス殿下でんか従者じゅうしゃで、タロスという者だ! ニノフ殿下に御目文字おめもじを願いたい!」

 囁く声がみ、一人が代表して、「しばし待たれよ!」と告げた。


 待つほどもなく、城門の横のくぐり戸から男が一人出て来た。

 色が浅黒く、黒い口髭くちひげ綺麗きれいととのえた男である。

 こしの剣に手を置いて警戒心をあらわにしていたが、タロスの顔を見るなり、ポカンと口をけた。

「なんとまあ、うちの大将たいしょうに生きうつしじゃねえか! こりゃ、疑う余地よちもねえや。まさに本物だ。ちょっと目の色と髪の色が薄いだけだな。あ、すまん。失礼があったら、勘弁かんべんしてくれよ。おれはペテオだ。ゾイア将軍の副将をまかせられてる。あんたのことは、ゾイアの大将から生命いのち恩人おんじんみたいなもんだって聞いてるよ。さあ、遠慮えんりょしねえでに入ってくれ」

「では、お邪魔じゃまする」

 馬をりてさくつなぎ、タロスが城門をくぐると、なつかしい顔が見え、タロスは思わず声をげた。

「老師! お久しゅうございます!」

 魔道師のマントを羽織はおった老人だが、その灰色のひとみはかり知れない叡智えいちたたえている。

 ケロニウスであった。

 少し含羞はにかんだように笑っている。

一別いちべつ以来じゃのう、タロス。壮健そうけんそうで何よりじゃ」

「そういう老師こそ。お世辞せじではなく、若返られたようにさえ思えまする」

 言われたケロニウスは苦笑した。

「ちょっと、色々あってのう。それより、ニノフどのがお待ちかねだ。ささ、奥へ」


 ニノフは、いつもの執務室ではなく、最近増設した張り出し露台オープンテラスの方にいた。

 大きなテーブルに地図を広げ、時々かたわらに置いたカップの薬草茶ハーブティーを飲んでいる。

 ペテオとケロニウスに付きわれたタロスが来たことに気づくと、パッと立ち上がり、笑顔で手招てまねきした。

「どうぞこちらへ! 老師とペテオどのもご一緒に、どうぞ!」

 三人が席に着くとすぐに、秘書官がカップにいれたハーブティーを三つ持ってきた。

 ペテオが恐縮きょうしゅくして「おれなんかにお気遣きづかいなく」と言うと、ニノフは笑顔で首を振った。

「いいじゃありませんか。あなたは最早もはやいつ将軍に昇格してもおかしくないほど武勲ぶくんげられている。ちょうど今、軍略をっていたところです。是非ぜひ智慧ちえを貸してください」

 さら恐懼きょうくするペテオに負けず、タロスも「それなら、わたしはご挨拶だけで」と腰を浮かせた。

 すると、ニノフはやや大きい声で「お待ちください!」とタロスをめた。

「タロスどの。お願いがございます。このままエオスにとどまり、おれたちと共に戦ってもらえませぬか?」

「な、なんですって!」

 ペテオも横で驚いているが、ケロニウスはタロスの反応を静かに見守っている。

 あるいは、ケロニウス自身が発案者なのかもしれない。

 ニノフは表情を引き締め、タロスの目を真っ直ぐに見た。

「危機は目前に迫っています。ことここにいたっては、ゾイア将軍のお帰りを待ってはおられません。ウルス殿下には、おれからお願いの書状しょじょうを出します。タロスどの、ペテオ副将と共に、一軍をひきいていただけませんか。お頼み申す!」



 同じ頃、そのゾイアはかろうじて意識を取り戻したものの、まるで傀儡あやつりにんぎょうのように起き上がり、クジュケに聞き返していた。

「ご命令は、何でしょう?」

 ゾイアの初期化をめて欲しいというクジュケの頼みに、ゲルヌ皇子おうじ人間形ヒューマノイドたもつようにという曖昧あいまいな指示しかしなかったからであろう。

 クジュケは泣きそうな声で叫んだ。

「お願いです! 元のゾイア将軍に戻ってください!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ