表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
319/1520

305 地下迷宮(1)

 一方、地下の隧道トンネルで前方に多数の光る目がうごめくのに気づいたクジュケは、押し殺した声で「隠形おんぎょうしますので、わたくしの腕へ!」と、ギータにささやいた。

「うむ」

 ポーンとび上がって来たギータをクジュケが空中で受け止めると、やみの中でもかすかに見えていた二人の輪郭りんかくが、フッとけるように消えた。

 だが、光る目は、見えないはずの二人の方に真っ直ぐに向かって来ている。

においか」

 ギータがつぶやくのを「シッ」とせいし、クジュケは「うえへ」とだけ告げると気配を消した。


 ちょうど二人がいたあたりに集まって来た光る目の生き物たちは、グルグルと低い声でうなりながら歩き回り、二人をさがしているようだ。

 と、向こうの方でらめく明かりが見え、中原の言葉ではない声で言い争っているのが聞こえた。

 続いてガラガラという金属的な音がひびき、ドサッ、ドサッと何か重い荷物をほうり投げるような音が二回聞こえた。

 またののしり合うような声がし、ガラガラと金属的な音がして、一方の声が聞こえなくなった。

 同時に明かりも消える。

 残された方の声は、消えた声に向かって怒りをぶつけているようだったが、急に中原の言葉で違う方向に話しかけた。

「なあ、起きてくれよ! おら、こんなところで大蜥蜴おおとかげわれて死ぬのはだよ!」

 クジュケとギータの近くに集まっていた光る目の生き物たちは、新たな獲物えものの存在に気づき、わらわらとそちらに移動し始めた。

「わあっ! こっちに来てる! ゾイア将軍、起きてくれよ! おらを助けてくんろ!」

 その叫び声に聞きおぼえがあったのか、ゾイアの名を耳にしたからなのか、クジュケは「そこで待っていなさい!」と大きな声を出した。

 暗闇くらやみに青白いほのおがボッとともり、見る間に大きくなって辺りをらす。

 隧道の中には十頭を超える大蜥蜴の姿があった。

 まだ仔馬こうま程度の大きさであるから、成獣せいじゅうではないようだ。

 それでも、大きな口からのぞく歯は、一本一本が刀子とうす刃先はさきほどもある。

 急に明るくなったため、大蜥蜴たちは驚いて動きがまっていた。

 短い首を精一杯せいいっぱい曲げて、隠形をいたクジュケが天井に張り付いているのを見上みあげ、威嚇いかくするように唸っている。

 その先に、しばり上げられたシャンロウと、グッタリしたゾイアが倒れていた。

 シャンロウは、天井近くに浮き上がって指先から炎を出している相手が、一緒に飛んで来た仲間だとわかったようだ。

「ああ、コジュケーさん! おらを助けてくれろ!」

「クジュケです!」

 少し怒ったように訂正しながらも、クジュケはどうやって二人をたすけるべきか、なやんでいるようだ。

「困りましたね。大蜥蜴の数が多過ぎる上に、どうやらゾイアどのは気をうしなっておられるようです」

「あの二人も一緒に浮かせるのは無理かの?」

 炎を出していない方の腕一本でかかえているギータに聞かれ、クジュケは「それしかないでしょうね」とまよいながら、ゾイアたちの方に空中を移動した。

 大蜥蜴たちの目がそれを追う。


 ゾイアとシャンロウが倒れているのは、頑丈がんじょうそうな太い鉄格子てつごうしの前だった。

 その向こうに少し空間があり、外に通じているらしいとびらが見えている。

 クジュケが振り向くと、止まっていた大蜥蜴たちが動き出し、こちらに向かって来ていた。

「ギータどの、わたくしの背中にまわってください!」

心得こころえた」

 ギータが移動するのを待って、クジュケは、指先の炎をフーッと吹いた。

 すると、炎は指から離れ、独立して空中に浮かんだ。

 両手が自由になったクジュケは、うつぶせに降下こうかして左右の手で倒れているゾイアとシャンロウにれた。

「持ち上げます!」

 二人の身体からだはクジュケのてのひらに吸い付き、背中のギータとあわせて三人分の重量がかった状態で、クジュケは何とか浮上した。

「くうっ!」

 苦しげにうめくクジュケの下を、獲物に喰らいつこうと集まって来た大蜥蜴たちが、互いの身体を乗り越え乗り越え、大きな口を上に向けてガチガチと歯をらしている。

 その時、鉄格子の向こうの扉の方から、足音と話し声が聞こえてきた。

「消えよ、鬼火おにび!」

 クジュケが命じると、青白い炎が消え、周囲はまたやみに包まれた。

 浮かんでいる四人の輪郭もスーッと消える。


 クジュケが空中浮遊ホバリングしたまま隠形した直後、鉄格子の向こうの扉が開いて、明かりが差し込んだ。

 鍔広つばひろの帽子をかぶった東方魔道師が三名あらわれ、その内の一人が持っているロープの先に、両手首を前で縛られた赤い髪のゲルヌらしき姿が見えた。

 もう一人は、手に松明たいまつを持って、あたりを照らしている。

 何も持っていない先頭の魔道師が、鉄格子のこちら側をのぞき込み、ニヤッと笑った。

「おお、久しぶりのいとに大蜥蜴たちが、昂奮こうふんしておるようだな。ほれ、もう一匹追加してやるぞ」

 ゲルヌを振り向いて、「さあ、観念かんねんせよ」と笑いながら告げた。

 だが、言われたゲルヌの方も笑顔でこたえる。

「たとえ死が目前に迫っていようと、最期さいごまであきらめはせぬ」

 魔道師たちは嘲笑あざわらった。

「ふん。強がれるのも今の内さ。泣いてゆるしをうても、もう遅いわ!」

 ゲルヌは、わざとらしく首をかしげて見せた。

「はて、おぬしらに、余を赦す権限けんげんなどあるのか?」

 先頭の魔道師が「ええい、小賢こざかしいやつめ!」と苛立いらだちながら、両手でガラガラと鉄格子を上に引き上げた。

「さあ、入れ!」

 ゲルヌを中に押し込むと、すぐにガラガラと鉄格子をろし、ガチャリと鍵を掛ける。魔道師は再びあざけるようなみを浮かべ、ゲルヌに告げた。

小僧こぞう、おまえの最期とやらを見届けてやりたいが、晩飯ばんめし不味まずくなるからやめておく」

 そのまま立ち去ろうとする魔道師たちを、ゲルヌは平静な声で呼びめた。

「ちょっと待て」

命乞いのちごいなら、もう遅いわ!」

「いや、そうではない。これをほどいてくれぬか」

 ゲルヌは、縛られたままの両手首を上げて見せた。

 魔道師たちはゲラゲラと笑い出した。

阿呆あほう! そんなことをしても意味はないわ! ほれ、もうえさが待ち切れぬとよ!」

 ゲルヌが振り返ると、十頭以上の大蜥蜴がこちらを囲んでいる。

「小僧、さらばだ!」

 扉がまり、暗闇の中で光る目だけが、ゲルヌにせまって来ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ