あらすじ(251 サイカ包囲戦(19) ~ 300 誘拐(11))
商人の都サイカが包囲戦の初日を凌いだ日の夜。
アーロン辺境伯のクルム城にいるニノフは、自分たちの情報があまりにも早くバロード側に伝わることを怪しみ、老師ケロニウスが本人も知らぬ間にスパイにされているのではないかと疑う。
しかし、不審な行動をしているのは、蛮族の娘レナの方であった。
包囲戦二日目。
再び裏門への破城槌の攻撃が始まった。
ティルスに巨人の弓で狙わせるため、ゲルヌ皇子はクジュケに抱えられて空を飛ぶ。
手傷を負いながらもゲルヌは軌道を計算し、ティルスに矢を射る角度を指示した。
それで破城槌を沈黙させたのも束の間、今度は正門の望楼が弩の攻撃を受ける。
左右両翼も城壁から敵の侵入を許し、白兵戦となった。
中心部に避難した市民のところへもバリスタの矢が飛んで来たが、ちょうど帰って来たゾイアによって掴み取られた。
更にゾイアは、破城槌から中心の槌を抜き取り、それを垂直に落としてバリスタを破壊した。
城壁内の白兵戦も激しさを増したが、右翼の投石器にギータとロックの連れて来た援軍千名が攻撃を仕掛けた。
それを防ごうと出て来た包囲軍と戦う内、駆け付けた北方警備軍も加わり、三千名同士の野戦となった。
その間にも裏門は破られそうになっており、包囲軍の残り七千名が侵入するのも時間の問題であった。
が、一旦破られた裏門は、すぐにゾイアによって塞がれた。
同じ頃、包囲軍に単身侵入したロムがガネス将軍を討ち取り、そこへ四万の大軍となったプシュケー教団の援軍が到着した。
これにより、サイカ側の勝利は決定的となったが、これ以上の流血を避けるため、ウルスラ王女はゾイアに抱えられて空を飛びながら必死で母国バロードの兵士たちを説得した。
説得は成功し、双方戦闘を止め、事後どうするかを話し合うこととなった。
話し合いが行われている間、別室で待機していたツイムとロックは呼び出され、室内に一人残ったティルスは暴漢に襲われる。
しかし、偶々訪れたベゼルと共に、暴漢を倒して縛り上げた。
話し合いでは、包囲軍の代表フォルスが、一万の軍勢の殆どが母国に家族を残していることを心配するが、ゾイアはこれだけの人数だから、逆にカルス王も手が出せないだろうと助言する。
その上で、『自由の風』代表のロムが、包囲軍一万を引き受けることを約束する。
すると、ゲルヌ皇子が、先にバロード側と停戦の話し合いをするべきだと提案し、仲介役としてプシュケー教団のヨルム青年が名乗り出た。
翌日、包囲軍とプシュケー教団がサイカから去るのと入れ違いに、ルキッフが『荒野の兄弟』五百名と共にやって来た。
その姿を見たツイムは、片眼の眼帯を外して見せて欲しいと頼む。
自分の行方不明の長兄ルイームかもしれないと言うのである。
しかし、ルキッフは人違いだと断る。
一方、ゲルヌの長兄ゲーリッヒは、密かに沿海諸国を目指していた。
その沿海諸国の盟主であるカリオテに、海賊から同盟の申し出があった。
奴隷貿易を断ったことにより、マオール帝国から圧力をかけられおり、カリオテと手を組んで追い返したいというのだ。
カリオテのスーラ大公は、ツイムの次兄ファイムと相談し、申し出を受け入れる。
バロードの聖王宮を訪れたヨルム青年は、教主サンサルスの名代として、サイカ包囲戦を終結させるための会談を提案する。
激昂するカルス王を芝居がかって母ドーラが宥め、結局は会談を諒承した。
その頃サイカでは、タロスとしての記憶が戻らないまま、ティルスも『荒野の兄弟』と同行することになった。
ゾイアはルキッフに、ツイムも連れて行かなくていいのかと問うたが、本当の兄であることをゾイアに告白しながらも、ツイム本人には言わずにルキッフは去った。
その後、ゾイアたち北方警備軍も、ニノフ王子らの居る暁の女神に帰って行った。
和平会談に先駆けて、一方の当事者であるドーラは、旅の舞姫ドランとなってガルマニア帝国に潜入した。
そのガルマニアでは、次第に我儘になって来たゲルカッツェを言いなりにするため、宰相チャドスが麻薬を勧めようとしていた。
それは、先帝ゲールの忠臣であった赤髭将軍ツァラトによって未然に防がれたが、ゲルカッツェは偶々目にしたドランに夢中になってしまう。
更にドランは密かに魔女ドーラの姿に戻り、チャドスに和平会談の間にゲルヌをどうにかしろと唆す。
遥かに離れた辺境のクルム城では、蛮族の娘レナの妊娠が発覚し、アーロン辺境伯がマーサ姫に問い詰められる。
しかし、老師ケロニウスによって、レナのお腹の子の父親はカルス王であり、レナ自身もバロードのスパイであったことが暴かれた。
和平会談が行われる自由都市ダナムへ向かうウルスラ王女とツイムは、途中、頬に刀創のあるリゲスに狙われる。
実は、リゲスの創は、ツイムによって付けられたものだった。
が、ウルスラを見かけたプシュケー教団の信者が大勢集まり、事なきを得た。
そのダナムに先に到着したサンサルスは、ヨルム青年に教団設立の経緯を話して聞かせた。
凡そ五百年前、旅先で長命族のサンジェルマヌス伯爵と出会ったサンサルスは、自分でも知らなかった失われた種族の歴史を聞かされた。
その時代より更に千六百年前、中原があるバルバラ大陸の南にあったダフィニア島は、一夜にして海沈した。
ダフィニア島にいた十種族はバルバラ大陸へ渡り、種族ごとに生き残る戦略を選んだ。
サンサルスの先祖の妖精族は普通の人間たちとの融和を図り、メトス族は孤立を選択した。
しかし、両性族のアルゴドラスは、中原を征服し、自分の王朝を建てたのである。
それを可能にしたのが、所謂『アルゴドラスの聖剣』であった。
聖剣は万能であるが故に、奪われることを懼れたアルゴドラスは、自分とその子孫だけが使えるように制限を設定した。
ところが、アルゴドラスから代を重ねるごとに血が薄まるために、やがて子孫は聖剣を使う力を失い、政権を支える官僚機構もなかったために、聖王国は千年後に滅んでしまった。
その後、いつ果てるともしれない戦乱の時代が続いている。
サンジェルマヌスは、戦乱を終わらせ、平和を築くため、サンサルスに宗教を興すように勧めたのだという。
教団設立の秘話にヨルム青年は感激したが、そこへ、魔女ドーラが現れた。
様子を探りに来たらしいドーラと、教主サンサルスは互いに一歩も退かない態度で別れた。
その翌日、ウルスラとツイムがダナムに到着した。
サンサルスは、昨日のドーラの様子をウルスラに話し、サンジェルマヌスの潜時術を警戒しているようだと告げる。
そこで、二人だけ別室に移り、サンジェルマヌスの話をしようとしたところ、潜時術を使って本人が現れた。
ウルスラから聖剣を預かって以来、ドーラから逃げ続けているという。
サンジェルマヌスは、会談の成功をサンサルスに託し、去って行った。
会談の当日、ドーラ側の立会人として、宰相チャドスの遠縁だというチャダイ将軍がやって来る。
われ関せずという態度のチャダイを無視し、会談はウルスラの、バロードとサイカの和平を望むという声明から始まった。
それに対しドーラは、ニノフとウルスの王位継承権剥奪と、機動軍五千と包囲軍一万の即時帰国という、強硬な態度を示す。
更に、ニノフ・ウルス両王子がいなくとも、レナが新しい世継ぎを身籠っていると告げた。
一座に沈黙が落ちる中、サンサルスが根本的な疑問を提示した。
抑々ドーラほどの能力がある者が付いていながら、何故カルボン卿の謀叛が成功したのか、というのである。
本来、公位継承権のないカルスが父と兄たちの死によってバローニャ公になるや、瞬く間に王国を再建して王となったのは、ドーラの後押しがあったと考えられる。
ところが、新バロード王国建国後は、美しい妃を娶り、跡継ぎの王子にも恵まれ、カルス王の中原制覇は止まってしまった。
そこで、カルボンを唆し、平和主義者の王妃を殺させたのではないか、と指摘した。
すると、傍聴していたチャダイ将軍が、宰相チャドスへ面白い報告ができると喜んだ。
が、ドーラの一撃によってチャダイは抹殺され、会場は騒然となる。
ウルスラすら手に掛けようとするドーラを、サンサルスが止めた。
サンサルスが本当の姿を露わにすると、ドーラはアルゴドラスとなって、一万五千の兵を返せと迫った。
主の危機を察したヨルムが、妖蛇の姿となって立ち塞がった。
一触即発かと思われたが、サンサルスはヨルムを窘めて人間の姿に戻すと、冷静にアルゴドラスと交渉を続けた。
強硬策をとることの愚を悟ったのか、アルゴドラスは大幅に譲歩して、和平は成立した。
ところが、安心するウルスラの許に、ゲルヌ皇子が誘拐されたとの報せが入る。
その少し前。
サイカの戦後復興を指導しているゲルヌは、隠形している東方魔道師たちを発見する。
かれらの目的が自分の誘拐と知って、ゲルヌは果敢に立ち向かった。
が、主導者らしい目つきの鋭い長身のマオール人の帽子を細剣で斬ったものの、多勢に無勢で捕まってしまい、後には帽子の脱げた小太りの男だけが残された。
ライナと共に小太りの男を尋問したギータは、男がマオール帝国で虐げられている南人と見抜く。
その男、シャンロウから、ゲルヌがエイサに居ると聞き出したギータは、ゾイアに救出を依頼するため、共に暁の女神に行くことにした。
エオスに着いたギータは、早速ゾイアに頼んだが、また初期化するのではないかとクジュケが反対する。
しかし、ゾイア自身が行くことを強く望んだため、クジュケも同行することになった。
エイサに向かうゾイアたちは、帽子がないと魔道が使えないシャンロウにクジュケが暗示をかけて使えるようにし、互いを繋いで編隊飛行で行くことにした。
一方、エイサに囚われているゲルヌは、東方魔道師の自警団長チャロアから、兄のゲルカッツェ同様麻薬を勧められたが、塔の上から態と飛び降りて見せ、難を逃れた。
妖精族の血を引くゲルヌには、自殺防止用の魔道糸が見えたのである。
その頃ドーラは、自分が殺してしまったチャダイ将軍を、死後も動く操り人形にし、ゲオグストの皇帝宮に送り込んだ。
チャダイは広場に立つと、大声で皇帝ゲルカッツェを非難し、ゲルヌに替えるべきだと繰り返した。
宰相チャドスは皇帝の耳に入ることを懼れ、衛兵を動かしてチャダイを始末する。
だが、ゲルカッツェに呼び出されたチャドスは、ゲルヌを匿っているだろうとカマを掛けられた。
その場は誤魔化したものの、誘拐の主導者であった東方魔道師タンリンに、ゲルヌの殺害を命じる。
エイサに接近したゾイアたちは、警戒中の東方魔道師たちと遭遇した。
かれらから帽子がないことを指摘されたシャンロウは暗示が解け、失速して、ゾイアを引き摺って墜落してしまう。
ゾイアの背中に乗っていたギータは振り落とされたが、横を飛んでいたクジュケが受け止め、一旦その場を離れた。
ゾイアは身体を変形し、シャンロウが地面に激突することは回避したが、追って来た東方魔道師たちに自ら捕まり、その代わりチャロア団長に合わせて欲しいと頼む。




