表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
300/1520

288 和平会談(6)

 サンサルスに、カルボンきょう謀叛むほんの真相を指摘してきされたドーラは、口封くちふうじのためにガルマニア帝国のチャダイ将軍を抹殺まっさつした。

 さらみずからの孫であるウルスラさえ手に掛けようとしたところで、サンサルスがめに入った。

 その際、サンサルスはドーラに対して、アルゴドラス聖王と呼びかけたのである。


 理気力ロゴス消耗しょうもうし、急にけた顔になっていたドーラは、天井を見上げると深い息をいた。

 サンサルスをねらってかまえていたてのひらげ、椅子に座りなおす。

 ティアラを外して目を半眼はんがんに閉じ、ゆっくりした呼吸をするうちに、老婆ろうばのようであった顔が徐々じょじょに男性のものに変わっていった。

 それは、蛮族の帝王の父ドーンやサイカの警備隊長ドラドであった時の筋骨隆々きんこつりゅうりゅうとした姿ではなく、ごく普通の老人の顔であった。

 これが、本来のアルゴドラスの姿なのであろう。

 フッと目を開くと、改めてサンサルスのほうを見た。

 女性用のドレスを着ているため、やや違和感いわかんがあるものの、表情は毅然きぜんとしている。

「ふん。すべてはサンジェルマヌスのがねであろう」

 サンサルスも骸骨がいこつのようにせ細った老人の顔のまま、静かにかぶりを振った。

「いえ。色々ご教示きょうじいただきましたが、先程さきほどの推理はわたしの考えたことです。また、これからご提案することもそうです」

「ほう。妖精アールヴ族の宗教家が、に説教するつもりか?」

「いえ、決してそのようなつもりではございません。やりかたに賛成はできませぬが、アルゴドラスさまもわたしも、目指めざすところは同じです」

「目指すところ?」

「はい。千年の長きにわたった戦乱の終息しゅうそくです」

 アルゴドラスは嘲笑あざわらった。



 おまえごときに、余の何がわかるか!

 ダフィニア島が海中にぼっしたあと、どれほどの思いで中原ちゅうげんを統一したのか、その苦労がわかるはずもないわ。

 無論むろん、聖剣の力があればこそだがな。


 ともかく、余は理想の世界をつくったつもりであった。

 そのままあの時代で一生を終えていれば、良かったのだ。


 しかし、余は未来を見てしまった。

 自分がつくげた宝石のようなバロードがくだり、泥沼どろぬまのような戦乱の世に変わるのを。

 余は、自分の手で救いたかったのだ。

 たとえ自分の手がよごれてもよいと、かなり非道ひどうなことも平気でやったさ。

 もっとも、それが魔剣の影響だと気づいたのは、ずっとあとのことだ。

 当初は、聖剣の完璧かんぺき複製ふくせいと信じていたからな。

 だが、もう後戻あともどりはできぬ。

 余はこのやり方で中原を統一し、戦乱を終わらせるつもりだ。

 誰にもめさせはせぬ。

 それが自分の孫であろうが、あるいは、息子であろうがな!



 今や、アルゴドラスの目は狂気きょうきにも似た妄執もうしゅうに燃えていた。

 目の前でそれを見ているウルスラは恐怖でこおりついている。

 勿論もちろんツイムや、ヨルムでさえも。

 ただサンサルスだけが、平静な声で話を続けた。

「お気持ちはわかりました。それはそれとして、今回の和平のほう如何いかがされますか?」

 アルゴドラスはギロリとサンサルスをにらんだ。

「余の弱みをにぎったと思っておるなら、大間違いだぞ」

 サンサルスはフッとみを浮かべた。

「とんでもないことでございます。わたしの推理に何の根拠もありはしません。それよりも、目前もくぜんのことを考えましょう。そちらも色々とご都合つごうがおありでしょうから」

 サンサルスは視線だけで、壁に激突死したチャダイ将軍を示した。

 アルゴドラスは苦笑している。

「ふん。余としたことが激情げきじょうられて早まったことをしたわい。せっかくガルマニア帝国を手懐てなずけたものを、振り出しに戻してしまった。しかし、まあ、かえって良かったかもしれぬ。中原ちゅうげん二分割案にぶんかつあんは、あくまでも息子カルスの考え。ガルマニアなど、つぶしたほうが良いのだ」


 冷酷無比れいこくむひなアルゴドラスの言い方に、目の前に座っているウルスラはすっかり萎縮いしゅくしてしまっている。

 サンサルスは演台ステージに上がり、「大丈夫ですか?」と言いながら、そっとウルスラの肩に手を置いた。

 こまかくふるえていたウルスラの肩がゆっくりとまり、フーッと息をくと、「大丈夫です」と答えて、真っ直ぐにアルゴドラスを見た。

「ドーラさま、いえ、アルゴドラスさま。先程さきほどの父上のご裁断さいだんですが、わたし自身の王位継承権おういけいしょうけん剥奪はくだつ国外追放こくがいついほうかまいません。庶兄あにのニノフも同じ気持ちだと思います。ただ、兵士たちに罪はありません。お願いですから、解放してあげてください」

 必死の思いでそれだけ言うと、ウルスラは再びポロポロと涙をこぼした。

 アルゴドラスは鼻で笑った。

「そうはいかぬ。本音ほんねを言えば、おまえたち孫のことは、どちらでもいいと思っておる。だが、一万五千の兵は、これからの中原制覇せいはには不可欠ふかけつなのだ。どうしてもいやだと言うなら」

 アルゴドラスの身体からだから、メラッと殺気さっきき上がった。


「いけねえ!」

 また飛び出そうと席を立ったツイムよりもはやく、ヨルムの姿がフッと消えた。

 ヌタリというような、奇妙な音がひびく。

 と、アルゴドラスとサンサルスの間に、人間の何倍もある大蛇だいじゃあらわれたのである。

 大蛇は大きく口を開け、アルゴドラスを威嚇いかくした。

 だが、アルゴドラスは薄くみすら浮かべている。

「やはり妖蛇ガンド族か。面白い。やれるものなら、やってみるがいい!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ