表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
298/1520

286 和平会談(4)

 和平会談の当日、バロード聖王国の代表として出席しているドーラは、前触まえぶれもなく立会人たちあいにんが来ると告げた。

 その言葉どおり、会場にガルマニア帝国皇帝名代みょうだいしょうして、宰相さいしょうチャドスの遠縁とおえんに当たるチャダイ将軍があらわれたのである。


 チャダイは大声で名乗りをげると、案内も待たず、ドーラがわお付きの席の真ん中に、よろいも脱がないままドカリと座った。

 その体毛たいもうの薄いのっぺりした顔はまったくの無表情で、われかんせずとばかりに、細い目で天井を見上みあげている。

 明らかに、ここに来たのが不本意ふほんいであるようだ。

 調停役ちょうていやくのサンサルスは、この世のものとも思えぬような美しい顔をややくもらせ、けむるようなあわパープルの瞳でチャダイの無礼ぶれいきわまりないいを見ていたが、フッと表情をゆるめてドーラに向きなおった。

「今回は、あくまでもバロード聖王家の者同士としてウルスラ殿下でんかと話し合うとおっしゃったのは、確かドーラさまだったと記憶しておりますが?」

 ドーラは鼻で笑った。

「本来、中間に立つべきおまえの軸足じくあし随分ずいぶんとウルスラがわかたよっておるから、均衡バランスたもつため、ゲルカッツェ陛下へいかにおねだり、あ、いや、お願いして代理人だいりにんを出してもろうたのよ。もっとも、人選じんせんはチャドス宰相にお願いしたゆえ、多少なんがあるようじゃが」

 自分のことを言われても、チャダイは知らん顔をしていた。


 ドーラは、わずかの間に若き皇帝ゲルカッツェの心を完全につかみ、外交を動かすほどの影響力を持ったようである。

 もっとも、自分たちにはガルマニア帝国の後ろだてがあるとにおわせたかったのであろうが、かえってチャドスとの不協和音ふきょうわおんあらわになってしまっている。

 それを見て取ったのか、サンサルスはチャダイのことにはもうれず、「それでは始めることにいたしましょう」と宣言した。

「最初に、今回の会談を呼び掛けたウルスラ殿下より、趣旨しゅしのご説明をお願い申し上げます」

 ウルスラは、ゴクリとつばを飲んで話し始めた。



 お祖母ばあさま、いえ、ドーラさま。

 このたびは、話し合いにおうじてくださり、ありがとうございます。


 さて、最初にわたしの立場を明確にしておきたいと思います。

 ドーラさまは聖王家内部の問題とお考えのようですが、わたしはそうは考えておりません。

 確かにわたしはバロードの王女ですが、商人あきんどみやこサイカを中心とする『自由都市同盟』の設立にかかわった一人でもあります。

 今回は、その仲間たちの代表として来ているつもりです。

 サイカの包囲戦の名目は、わたしとタロスの引き渡しでした。

 でも、実態じったいは違うと思います。

 あからさまにえば、『自由都市同盟』つぶしです。

 そのこと自体は、バロードの中原ちゅうげん統一戦略の一環いっかんとしてなされたものとして、賛成はできませんが理解はしているつもりです。

 しかし、力によって潰そうとされれば、どんなに小さな自由都市でも必死で抵抗するでしょう。

 それでは、お互いの損失です。

 むしろ今回のことを教訓として、バロードと『自由都市同盟』が互いに尊重しあう、良好な関係をきずきたいのです。

 共存共栄きょうぞんきょうえいこそが、わたしののぞみでございます。

 ドーラさま、お願いです。これ以上あらそうことはめ、和平の約束をむすびませんか?



 ドーラは顔をしかめ、「笑止千万しょうしせんばん!」と断じると、まくし立てるように反論した。



 誰に入れ智慧ぢえされたか知らんが、何を勘違かんちがいしておるのか。

 聖王陛下も、さぞやおなげきであろう。


 抑々そもそも、かの裏切り者カルボンきょうに国をうばわれて、カルス陛下の偉業いぎょう志半こころざしなかばで頓挫とんざしてしまったものの、本来なら今頃とっくに中原の西半分はバロードの傘下さんかにあったはず。

 そして、そこにひかえておるチャダイ将軍のぞくするガルマニア帝国と共に手をたずさえ、相互に不可侵ふかしんの条約を締結ていけつして中原を二等分して支配する予定であったのだ。


 それがカルス陛下の不在を良いことに、庶子しょしのニノフは機動軍五千をみずからの私兵しへいとして連れ去り、今またおまえにそそのかされて、一万の兵が反政府勢力『自由の風』に寝返った。

 これ以上の親不孝があろうか!

 おまえはこれを和平交渉と思っておるかもしれんが、バロード聖王家の考えは違う。

 わたしはおまえに陛下のご裁断さいだんを伝えに来ただけじゃ。

 すなわち、ニノフ、ウルス両王子の王位継承権おういけいしょうけん剥奪はくだつし、永久国外追放えいきゅうこくがいついほうとする。

 勿論もちろん、その女性形であるニーナ、ウルスラも同様じゃ。

 また、両王子が不当にうばった一万五千の兵には、即刻そっこく帰国することを命じ、帰国後ただちに軍法ぐんぽう会議にかける。

 以上、異存いぞんはあるまいな?



 蒼褪あおざめて言葉もないウルスラのわりに、傍聴ぼうちょうしているツイムが声をげた。

「それじゃあ、お世継よつぎがいなくなりますぜ!」

 だが、ドーラはそちらを見向みむきもせずに、「だまれ、下郎げろう!」とてた。

「お世継ぎなら、おまえごときに心配されずとも、ちゃんとおられるわい。まあ、まだお生まれではないがのう」

 青い顔のまま、ウルスラが「どういう意味ですの?」とたずねる。

 ドーラは勝ちほこったように答えた。

「正式な発表はまだじゃが、おまえにはもう言ってもよかろう。カルス陛下は新しいきさきをおむかえになる。シトラ族の族長の娘、レナという者よ。すでに陛下の子をさずかっておるぞ。もなく生まれて来るそのお子が、新しき世継ぎよ」


 誰一人声も出せず静まり返った会場で、フフッとかすかな笑い声がれた。

 サンサルスである。

「それはまことにおめでとうございまする。ところで、わたしからドーラさまに、一つお尋ねしたきことがございますが、よろしいでしょうか?」

 ドーラの顔にあざけるようなみが浮かんだ。

「ほう。かまわぬぞえ。何じゃ?」

 サンサルスは、きわめて平静へいせいな顔で質問した。

かねてより不思議に思っていたのですが、バロードにはドーラさまのように大きな力を持ったおかたがいらっしゃるのに、何故なにゆえ普通の人間に過ぎないカルボン卿の謀叛むほんが、まんまと成功したのでしょうか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ