表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
291/1520

279 失われた種族(3)

(作者註)

 一旦、現在に戻り、また過去へ。

 面倒で、すみません。

 思ったよりサンサルスの話が長くなったため広間ホールの椅子をすすめ、自分も向かい合わせに座っていたヨルムが、驚いて立ち上がった。

「サンジェルマヌスはくに決して口外こうがいしないと約束されたことを、わたくしにお話しになってよろしかったのですか?」

 サンサルスは、またホホホと声をげて笑った。

「これはうっかりしました。でも、いいでしょう。もう五百年もちましたし、おまえならサンジェルマヌスさまも許してくださいますよ」

「そうでしょうか?」

 不安そうに聞くヨルムに、サンサルスはやさしく微笑ほほえみかけた。

「ええ。おまえも確かに失われた種族なのですから」

 ヨルムは何とこたえていいのかまようような顔をしていたが、「のどかわかれたでしょう。薬草茶ハーブティーをご用意いたします」と、その場を離れた。


 やがて、サンサルス用にティーカップを一つだけ持って来た。

 カップにそそがれるハーブティーをうれしそうに見つめるサンサルスは、ヨルムにも飲むようには勧めなかった。

 それが意地悪いじわるや無関心ではない証拠しょうこに、ハーブティーのにおいが苦手にがてらしいヨルムは顔をしかめている。

 一口飲んだサンサルスが「ふーっ、生き返りますね」と満足した様子を見て、ようやくヨルムも少し笑顔になって、体調をたずねた。

「お疲れではございませんか?」

「大丈夫ですよ。むしろ、いつもより気分がいいくらいです。さてさて、どこまでお話ししたでしょうかねえ。おお、そうでした……」



 五百年前の古びた書店で、サンジェルマヌスに潜時術せんじじゅつを見せられたサンサルスは、同時にその弱点も教えられた。

「このわざは、上下左右を囲まれた場所でしか使えないんじゃ。まあ、それはそうじゃろ。もし、ひらけた場所でもできるなら、原理的にはわし一人でどんな大軍でも倒せることになってしまう。まあ、とんでもなく時間はかかるだろうが、幸いわしは三千年の寿命じゅみょうがあるからの。そうなったら本当に無敵むてきじゃが、世の中そうはいかんわい」

 サンサルスは、あきれたように首を振った。

「今でも充分無敵だと思いますよ」

 サンジェルマヌスは苦笑した。

「そんなことはない。今、世の中と言ったが、言いえれば『人の世』ということじゃ。わしらが如何いかに長生きしようが、どれほど強い理気力ロゴスを持っていようが、ここは普通の人間の世界なのじゃ。わしらは圧倒的に少数派マイノリティなんじゃよ」

 サンサルスは、やや不満げに問い返した。

何故なぜなのでしょう? 人間がそれ程すぐれているとも思えませぬが」

 サンジェルマヌスは、少しさみしそうに笑った。

「わかっておるさ。人間全体はともかく、良い人間も悪い人間もそれぞれおる。じゃが、それはわしらとて同じこと。おのれ野望やぼうのため中原ちゅうげん征服せいふくした者もおるしな」

「それは……」

 サンサルスの驚いた顔を見て、サンジェルマヌスはれたようにあやまった。

「ああ、すまん。それは、ちと言い過ぎじゃな。今の中原の状況は、あやつ一人のせいではないさ。わしが言いたかったのは、人間にしろ、長命メトス族にしろ、おまえさんのような妖精アールヴ族にしろ、あやつのような両性アンドロギノス族にしろ、生命いのちの大切さに変わりはない、ということさ。わしとて寿命がきれば、人間同様に死ぬ。その意味では、平等なのじゃ」

「そうでしょうか?」

 なおも納得できない様子のサンサルスに、サンジェルマヌスはいつくしむようなやさしい目を向けた。

「おまえさんも、随分ずいぶんひどい目にったようじゃな」

「わたしも、とは?」

「ああ、そうじゃ。わしも何度も殺されかけた。メトス族の生き血を飲めば、同じように長生きできるという迷信があってな。無論むろん、全くの虚偽きょぎじゃ。まあ、それでこのように人間のフリをして生活することにしたんじゃよ」

 サンサルスは、自分の経験を重ね合わせたらしく、怒ったように問い掛けた。

「それで良いのですか?」

 サンジェルマヌスはやわらかな表情で、答えた。

「さっきも言ったであろう。悪い人間ばかりではない。いや、大多数は良い人間さ。それに、悪い人間と言ったところで、生まれてから死ぬまでずっと悪いわけではない。何かの切っ掛けで悪くなったのであろうし、いつか改心かいしんして良い人間になるかもしれん。それは、わしらとて同じことよ。おまえさんは今、良くも悪くもなく、世捨よすびとのように暮らしておるのじゃろうが、これからどうなっていくのか、わしにも、おまえさん自身にもわからんじゃろう?」

 サンサルスは、困ったような顔になった。

「それは、そうですが」

 サンジェルマヌスは、フッと笑った。

「おまえさんをめるつもりではない。さっき生命の重さに違いはないと言ったが、それはそれとして、わしらには長寿ちょうじゅ神通力じんつうりきなど、普通の人間にはないものがあることも事実じゃ。わしもそれをかすことを考えたが、如何いかんせん、人に好かれぬ。その点、おまえさんは違う。どうじゃ、中原を救ってくれぬか?」

 サンサルスの返事は明快めいかいであった。

「お断りします」

 それを予期よきしていたように、サンジェルマヌスは悪戯小僧いたずらこぞうめいたみを浮かべた。

「じゃろうな。で、あればなおのこと、わしらが何故なにゆえ失われた種族となったのか、話さねばならんのう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ