表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
290/1520

278 失われた種族(2)

(作者註)

 前回からの続きですが、舞台を過去に移しています。

 およそ五百年前、中原ちゅうげんの争乱に巻き込まれることをおそれたサンサルスは、沿海えんかい諸国の小国ダフィネにのがれた。

 そこで見つけた古びた書店で、えだのようにほそった老店主ろうてんしゅしょうじ入れられたのである。


「失われた種族?」

 サンサルスに聞き返されて、老店主は「ほう、知らんのか」と驚いた。

「じゃが、おまえさんはどう見ても妖精アールヴ族のようだが」

 老店主の視線は、サンサルスの長くサラサラした銀髪から出ている先が少しとがった耳を見ている。

 サンサルスは自嘲気味じちょうぎみに笑った。

「ええ。そういう種族であることは、両親から教わりました。だだし、両親はわたしがおさなころ相次あいついでくなり、その後、同じ種族に出会うこともなく、肝心かんじんなことは何も知らぬままでございます」

「おお、そうか。ならばなおのことじゃ。時間があるなら、少し話をしようではないか」

「時間はございます。五百年ほどですが」

 無論むろん、サンサルスは冗談じょうだんを言ったのだが、老店主は当たり前の言葉を聞いたように、「そうか。では、一緒に薬草茶ハーブティーでも飲もう」と店内にみちびいた。


 サンサルスがすすめられるまま薄暗い店内に入ると、老店主はランプをともしてくれた。

 見窄みすぼらしい店構みせがまえのわりには、書架しょかに並べられた本は充実していた。

 魔道書の基本である『理気学入門ロゴスがくにゅうもん』『識不識論しきふしきろん』『波動形而上学はどうけいじじょうがく』などを始め、あまり一般的とは言えない『呪詛力学じゅそりきがく』『大魔道師列伝だいまどうしれつでん』などまで置いてある。

 興味深そうに本をながめるサンサルスに、老店主は「好きな本があれば、持って帰るがいい。記念に一冊進呈しんていしよう」と笑った。

 サンサルスも笑顔で「では、遠慮えんりょなく」と断り、『大魔道師列伝』を手に取った。

 老店主は「ほう」と言ったきり、それ以上本のことにはれず、「そこに座っていてくれ」と、小さな円卓にえられた木の椅子をした。

 サンサルスが座って本をパラパラとめくっているところへ、ティーカップを二つ持った老店主が戻って来た。

 その足取りは意外にしっかりしている。

 サンサルスは笑って「つえはいらないのですか?」とたずねた。

 老店主も苦笑した。

「忘れておったわい。まあ、なかばは演技えんぎじゃからな」

「演技?」

「うむ。百歳をえているはずの老人が、あまり矍鑠かくしゃくと歩き回ってはあやしまれるじゃろう?」

「ああ、百歳を超えていらっしゃるのですね」

 老店主は、悪戯いたずらっぽく片目をつぶって見せた。

「実は、もう二千五百歳じゃよ」

 さすがにサンサルスは驚いて「そんな馬鹿ばかな!」と声を上げ、すぐにびた。

「すみません。つい、失礼なことを申し上げました」

 老店主は笑って手を振った。

「いいんじゃよ。そう言うおまえさんも、百は超えておるんじゃろう?」

「はい。五百年程生きております」

「それで、あと五百年ということじゃな。さっき、おまえさんがそう言った時、ああ、余命よめいは同じくらいじゃな、と思うたよ」

「そうなのですね。わたしは両親から、わたしたちの種族はおよそ千年の寿命じゅみょうだから大切に生きよ、と教えられたのみで、それ以上の種族がいることすら知りませんでした」

成程なるほどのう。おまえさんたちアールヴ族は見た目も人間と違うゆえかくしようもない。また、隠す必要もない程美しく、人間に好かれる性質も持ち合わせておる。様々な神通力じんつうりきを持つとされるアールヴ族じゃが、人間と上手うまくやっていける、というのが最大の能力かもしれん。ところが、わしら長命メトス族は、全く人間と変わらぬ姿をしておるのに、性格がひねくれておる。余計よけい摩擦まさつを起こさぬためには、人間のフリをするしかないのじゃ。ところが、あまり一つところに長くいると怪しまれるから、転々てんてんと居場所を変えねばならん。この場所に店を構えるのは、実はもう三回目なんじゃが、またそろそろ潮時しおどきじゃな」


 老店主の話が途切れたところで、サンサルスは改めて挨拶あいさつわした。

「申し遅れました。わたしはサンサルスという者です」

「おお、良い名じゃな。わしはサンジェルマヌスという」

 サンサルスは驚いて、自分が手にしている本に目を落とし、内容を確認すると、もう一度相手を見た。

大魔道師だいまどうしサンジェルマヌス伯爵はくしゃく閣下かっかであられましたか!」

 サンジェルマヌスは鼻にしわを寄せた。

「わしは、みずからそう名乗ったことなど一度もない。人間どもが勝手にそう呼んでおるだけじゃ。魔道とっても、大技おおわざ潜時術せんじじゅつくらいさ」

「潜時術?」

「うむ。そうじゃな。口で説明するより、自分の目で確かめる方がいいじゃろ」

 サンジェルマヌスは、指をパチンとらした。

「さあ、サンサルスよ。その書架しょかの先に鳥籠かごがある。のぞいて見るがよい」

 サンサルスは首をかしげながら席を立ち、丸い鳥籠のあるところへ行ってみた。

 鳥籠の大きさは両腕で円を作ったくらいで然程さほど大きなものではないが、細い金色の針金を綺麗きれいんだもので、勿論もちろん純金ではないだろうが、かなり高価なもののようである。

 サンサルスは思わず、「ほう、大したものですね」と感嘆かんたんの声をげた。

 サンジェルマヌスは苦笑して、「そんなことより中をよく見るんじゃ」と催促さいそくした。

「ああ、そうでした」

 改めて、サンサルスは籠の中を見た。

 そこには、極彩色ごくさいしきの美しい小鳥が羽根を広げていた。

 最初、サンサルスは剥製はくせいなのかと思ったが、ぐるりと回って見てもどこにも接していない。

 あたかも飛んでいるかのような状態で、空中に浮いているのだ。

「こ、これは、まるで時が止まっているようですね」

 サンジェルマヌスはゆっくり首を振った。

「そうではない。わしらの方が時の狭間はざまもぐっているのじゃ。さて、今から元に戻ると、因果いんがを乱さぬためにおまえさんの記憶が消えてしまう。それではまた説明に困るから、外法げほうではあるが、今回だけ記憶を残す。ただし、口外無用こうがいむようじゃぞ」

「ああ、それは無論です」

 サンサルスがうなずいた瞬間、パタパタと羽ばたきが聞こえ、鳥籠の中の小鳥が飛んでいるのが見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ