27 すれ違う旅路
スカンポ河を下る早船に乗り込んでみると、マリシ将軍の計らいで、ウルスたちには個室が用意されていた。
「わあ、まるで宿屋みたいだね」
燥ぐウルスを、ツイムが窘めた。
「妄りに騒いではなりませぬ。御身がお尋ね者とされていることを、お忘れなきよう」
「あ、ごめんなさい」
恥ずかしそうに謝るウルスを、ツイムは厳しい目で見ている。
「きついことを申すと思われるでしょうが、あなたさまを無事に沿海諸国へ送り届けるまでは、何卒ご容赦ください」
ウルスは微笑んで首を振った。
「ううん、ツイムさんには本当に感謝してます。ぼくのために、こんな危険な長旅に付き合ってもらって」
「いえ、それが将軍のご命令ですから」
「将軍を尊敬しているんだね」
「尊敬というより、崇拝しております。わたしの命の恩人なのです」
「へえ、そうなんだ。そういえば、ツイムさんって、髪も目も黒っぽいけど、南方の出身なの?」
ウルスの不躾な質問にツイムは絶句したが、却ってサバサバした顔になり、笑って答えた。
「はい。これから向かう沿海諸国の出です。それも、わたしがこの旅に選ばれた理由だと思いますよ」
「ぼくは良く知らないけど、沿海諸国ってどんなところ?」
ツイムは遠くを見つめ、「様々な国があり、とても一言では」と言い淀んだ。
だが、ウルスは旅に同行する相手のことを知りたい気持ちを抑えきれず、畳み掛けるように尋ねた。
「ツイムさんの母国は、沿海諸国の何という国なの?」
ツイムは苦笑しつつも、質問には素直に答えた。
「カリオテ、という小さな国でございますよ」
その同じカリオテの出身であるロックは、どの国にも属さない緩衝地帯を北上しながら、サイカで購入した栗毛の馬に手を焼いていた。
「こいつ、ちっともおいらの言うことを聞かねえ。やっぱ、安物買いは駄目だな」
「そんなこともあるまいが、なんなら、われの葦毛と交換しようか?」
ゾイアの申し出を、しかし、ロックは即座に断った。
「無理だよ。おっさんみたいにごっついのが乗ったら、この馬は一遍で潰されちまう。それにしても、おっさん、乗馬も上手だな」
ロックの言葉どおり、ゾイアは葦毛の馬を見事に乗りこなし、まさに人馬一体に見える。
「うむ。われも自分で驚いている。勿論、この馬も優れているのだが、こうして欲しい時にはこうすれば良い、という手綱捌きの技が、われの身に備わっているようだ」
ロックは、ゾイアの横に何とか栗毛の馬を寄せ、並んで進んだ。
「ふーん。そうすると、おっさんは、確実に沿海諸国の者じゃないな」
「ほう、そういうものか」
「ああ。中原の北にあるベルギス大山脈の雪解け水は、スカンポ河以外は小さな川が網目状に流れて中原を潤しているんだが、結局、南部のアルアリ大湿原に流れ込む。ここは馬は勿論、舟だって通れねえ難所だ。歩こうもんなら、ズボズボと嵌って動けなくなる。その南の縁にある細長いスーサス山脈と南の大海に挟まれた狭い平地に、数珠つなぎのように小さな国が並んでる。それが沿海諸国さ。とてもじゃねえが、馬なんかじゃ走れねえ。乗馬ってのは、今おいらたちがいるような、だだっ広い平原があるとこじゃねえと発達しねえよ」
「そういうものか。だが、その大海を一度見てみたいものだな。海を見たという確実な記憶はないが、何故か心惹かれる」
「へえ。そうだとすると、南以外の大海だろうな。おいらは見たことがねえが、東西南北の果ては全て大海らしいから」
「待て!」
急にゾイアが叫んだため、また何か記憶に引っかかったのかと、ロックはゾイアの顔を見たが、そうではないようだった。ゾイアは鋭い目で前方を睨んでいる。
ロックもそちらを見たが、遠すぎてよくわからない。
「何だよ、おっさん」
「わからんが、味方ではないようだ」
「えっ」
その時になって、漸くロックにも土煙を上げてこちらに走って来る、騎馬の一団が見えて来た。凡そ十騎程である。
ゾイアには良く見えているらしく、「正規軍ではないな。おそらく、賞金稼ぎだろう」と評した。
ロックは顔色を変えた。
「落ち着いてる場合じゃねえよ、おっさん!」
「襲い来る敵は、ただ斃すのみ!」
ゾイアは騎乗のまま、腰の長剣を抜いた。




