表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
274/1520

262 終わりと始まり(2)

 ライナの屋敷の会議室でウルスラたちが戦後の処置を話し合っている間、ツイム、ロック、そしてティルスの三人が待たされているのは、包囲軍の総攻撃が始まるまでティルスが寝かされていた奥の客間きゃくまである。


 当然のことながら、ロックは不満たらたらであった。

「おいらたちは部外者あつかいかよ! そりゃ、バロードにも、サイカにも、直接的なえにしは薄いけどよ! だったら、あのサラサラ赤毛あかげの坊やは部外者そのものじゃねえか!」

 自分が会議からはずされたことより、ゲルヌ皇子おうじが入っていることの方が腹立たしいようである。

 これには、ロックの同郷どうきょうのツイムがとなえた。

「いやいや。おまえは早めに外に出たから知らんだろうが、サイカ防衛の策戦さくせんほとんどあの赤毛の皇子が立てたんだぜ。戦略眼せんりゃくがんがあるし、色んなことの知識もある。しかし、何よりも、人心収攬じんしんしゅうらんすべを知ってる。あの皇子がいなけりゃ、おれたちは敵より先に一般市民に殺されてたかもしれん。まったく、末恐すえおそろしい皇子だよ」

 ロックは両方のまゆげて見せた。

「ふん。随分ずいぶん肩入かたいれするじゃねえか。ツイムのあんちゃんは、ウルスラ王女こそ統治者とうちしゃ相応ふさわしい、って言ってたじゃねえか」

「ああ。今でもその気持ちは変わらん。主君しゅくんえらべと言われたら、一も二なくウルスラ王女さ。だが、それは平時へいじの話だ。王女にたたかいの指揮しきまかせられない。だから、理想を言えば、お二人が結婚してくれれば、バロードとガルマニア帝国が結びつくことになるし、万々歳ばんばんざいなんだけどな」

 ロックの返事は「けっ!」というものだった。


 二人がざっくばらんに話している横で、ティルスはだまって窓の外を見ていた。

 その横顔には、謹厳実直きんげんじっちょくなタロスの人格にはない哀愁あいしゅうのようなものがある。

 ティルスは、ふと、二人の方に向きを変え、「足音が近づいている。誰か来るようだぞ」と教えた。

 二人の会話の内容にはわからぬところもあったが、他人ひとに聞かせない方がいいと思ったようだ。

 すぐに扉の外から男衆おとこしらしき声がした。

おそれ入ります」

 一応、部屋のぬしであるティルスが、「いいぞ、入れ」と告げた。

「あ、いえ、伝言でんごんですので、よろしければここで申し上げます」

「おお、そうか。では、言ってくれ」

「はい。こちらの部屋にいらっしゃるはずのツイムさまとロックさまに、北方警備軍のみなさまより、です。ささやかながら祝杯しゅくはいげているので、お二人にも是非ぜひでいただきたい、とのことでございます」

 形の上では、二人とも北方警備軍にせきを置いているから、当然とえば当然であろう。

 不貞腐ふてくされていたロックの顔がパッとかがやいた。

「いいじゃねえか! 行こうぜ、ツイムの兄ちゃん!」

 言われたツイムは、ティルスをチラっと見た。

 ティルスは微笑ほほえんで、「わたしのことなら、気にせず行ってくれ」と告げた。

 ツイムは、ややホッとしたように、軽く頭をげた。

「すまねえ。おれも何人か知っている顔を見かけたが、とても話をする余裕がなかった。まあ、北方警備軍には祝杯などという慣習かんしゅうはないんだがね。そもそも、北長城きたちょうじょう常在戦場じょうざいせんじょうだったからな。しかし、せっかくだから、ちょっとだけ話をして来るよ」

「おお、そう言わず、ゆっくりして来てくれ」


 二人がいそいそと出て行ってからしばらくして、また、男衆らしき声がした。

「あの、今度はティルスさまに会いたいと、お客さまがお見えです」

「わたしに、客? はて、誰だろう?」

「それが、会えばわかるからと、名前をおっしゃいません」

 ティルスはピンときた。自分にそんなことを言う相手は、一人しか思いつかない。

 自然にみがこぼれた。

「そうか。ベゼルだな。ああ、どうぞ、通してやってくれ」

かしこまりました」

 男衆が廊下をがって行く足音が、不意ふいまった。

「困りま」

 男衆の言葉が途切とぎれ、ドタッと人が倒れるような音がひびく。

 異変をさっして、ティルスは反射的に腰に手をやったが、そもそも病人ということで入っていた部屋だから、武器は置いていない。

 戦闘中に借りていた長剣ロングソードは、すでに返していた。

「まずいな」

 考えるもなく、扉がバーンとひらき、抜身ぬきみの剣を手に持った三人の兵士が入って来た。

 皆、血相けっそうが変わっている。

 一人が前に進み出て、ティルスに剣を突き付けた。

「ついに見つけたぞ、君側くんそくかん! 天誅てんちゅうくわえに参上さんじょうした! 覚悟せよ、タロス!」

 ティルスはおどろくと同時に、頭痛がするのか、頭を押さえて顔をしかめた。

「タロス? あ、いや、わたしはティルスという者で」

「問答無用!」

 先頭の一人がり掛かって来るのと同時に、前に出ようとした残りの二人は、後ろから何者かに一本ずつ足を引っ張られ、ドスン、ドスンと倒れた。

 そのすきに、ティルスは斬りつけてきた剣をかわし、相手の手首をつかんで、背負せおうようにしてゆかに投げつけた。

「腕はなまっちゃいないようだな、ティルス」

 そうめた男は、引きり倒した二人から剣を取り上げた。

 そのまま二人に馬乗りになり、一纏ひとまとめにしたうねうねとくねる長い髪をすりながら、笑っている。

 ティルスも破顔はがんした。

「よう、ベゼル!」

「おお、久しぶりだな!」

 二人は曲者くせものしばり上げると、ガッチリ握手をわした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ