256 サイカ包囲戦(24)
ギータとロックが率いる『自由の風』と自由都市の義勇軍との連合軍は、統一感を持たせるため『自由の風』に倣って全員腕に白い布を巻いていた。
騎兵と歩兵の割合は半々ぐらいで、機動性は高い。
その白い布の千名が、サイカの右側城壁の外から攻める包囲軍の、手薄になった投石機を占拠したのである。
ロックは馬を下り、手近の一台に取り付くと、早速受け皿の部分に岩石を載せた。
「よし! 移動櫓で侵入してる包囲軍に向けて一斉に投擲してやろうぜ!」
ギータが、「飛ばし過ぎて、味方に当てるなよ」と忠告したが、ロックは鼻で笑った。
「おいらに任せな! それっ!」
ロックが張り切って力一杯操作棒を引いたため、逆に岩石が高く上がり過ぎ、距離が出ずに城壁を越えそうにない。
「ああーっ!」
ロックは失敗を悟って声を上げたが、全くの偶然ながら、移動櫓の天辺に中り、開口部を破壊した。
忽ち勝ち誇ったように叫ぶ。
「見たか、ギータ! どんなもんだい!」
ギータは苦笑して「まあ、怪我の功名も、偶にはいいじゃろ」と頷いた。
「さあ、後、二、三発が限度じゃ! 他のみんなも急げ!」
投石機は十数台程であったため、大部分の兵は周辺の警戒に当たった。
三回目の投擲が終わった頃、警戒している兵たちから声が上がった。
「敵襲!」
投石機の周辺から逃げていた包囲軍側の兵士が、仲間を連れて戻って来たのだ。
しかも、数が多い。左右から数百名ずつくらい来ている。
但し、歩兵が中心であった。
ギータが警告を発した。
「いかん! 囲まれるぞ!」
ロックは馬に跳び乗り、「よしっ、おいらが先導する! みんな、逃げるぞ!」と駆け出した。
ギータも自分用の小さめの馬に乗って後を追う。
機動力に勝る騎兵が突出し、全体を引っ張る形で、隊列は縦に長くなった。
そこへ、包囲軍側の騎兵が左右から接近し、騎射を掛けてきた。
あちこちから絶叫が上がる。
ロックは駆け続けながら、振り向いて叫んだ。
「みんな全力で走れ! 追いつかれるな!」
前を向くと、ロックは小声で「やべえな」と呟いた。
高い城壁を攻め倦んでいた包囲軍は、漸く作った糸口を潰され、その分の怒りが籠っているようだ。
忽ち、こちらの倍以上の人数に膨れ上がって追撃してくる。
ロックは再び後方に「走れ! 走れ!」と声を掛けた。
乗馬術も上手いギータは、小さな馬でもロックに追いつき、隣を並走した。
「包囲軍を振り切るんじゃ! 追いつかれたら終いじゃぞ!」
「んなこと、わかってるよ!」
「お。あれは何じゃ?」
ギータの視線の先に、こちらに迫って来る別の軍勢が見えた。
自分も目を細めて見ていたロックの顔が、パッと輝く。
「やったぜ! 援軍だ! 北方警備軍の連中だ!」
ゾイアに率いられて来た援軍、暁の女神の砦の留守部隊二千名であった。
ロックは、馬に鞭を当て、更に速度を上げながら前方に叫んだ。
「おおい! おいらだ! 情報部隊長のロックだ! 腕に白い布を巻いてるのは味方だ!」
北方警備軍の側もロックに気づいたようだ。
「ロック隊長! こちらで追撃して来る敵に当たります! 後詰をお願いいたします!」
「わかった、頼む!」
ロックは、並走するギータに指示を出した。
「ギータ、半分ずつ引き連れて左右に分かれて、北方警備軍の後ろに回り込もう!」
「おお、そうじゃな!」
二人は一旦馬の速度を落とすと、自軍を二つに分け、北方警備軍の後方に回った。
追って来た包囲軍は、新手の出現に一瞬戸惑っていたが、人数が然程変わらないとわかると、猛然と攻めて来た。
期せずして、その場でそれぞれ三千名規模の会戦となったのである。
サイカ周辺に残っている包囲軍約七千名の内、既に千名以上が何らかの形で城壁内に侵入し、各方面で白兵戦となっていた。
そのような中、唯一包囲軍の侵入を許していなかった裏門方面に動きがあった。
ティルスが巨人の弓で高角度に放つ重しを付けた矢によって、鉄の扉の前の破城槌から遠ざけられていた敵兵が、再度接近して来ていたのである。
全員が身体を覆う程大きな鉄の盾を持ち、上を警戒しながら歩いて来る。
更に、別の者たちがたくさんの梯子を持って来た。
見張り役が上からの矢を警戒しつつ、梯子を破城槌の両側にズラリと並べて立てる。
その上に、横向きにした梯子を架けた。
その時、見張り役が押し殺した声で「上!」と告げた。
鉄の盾を持っている兵士たちが動き、上から落ちて来るティルスの矢を、盾を差し出して弾いた。
金属同士がぶつかる、バイイーンという音が響く。
見張り役が舌打ちし、「急げ!」と叱咤した。
音で異変を察知したらしいティルスが次々に矢を放ってきたが、その度に鉄の盾で防いだ。
そうなれば隠しようもなく、ガンガン音が響く。
梯子が組み上がると、兵士たちはその上に鉄の盾を並べて固定した。
これで、完全に破城槌とそれを操作する人間を防護できる状態になったのである。
見張り役がニヤリと笑った。
「よし、始めるぞ!」
再び破城槌が稼働を始め、裏門の鉄の扉を叩き出した。
ギシギシと蝶番が軋み、破られるのは最早時間の問題となった。




