表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
236/1520

226 駆け引き(1)

 自分に憑依ひょういした赤目族の人格を吸収し、バロード奪還だっかん野望やぼうに燃えるカルボンきょうは、流浪るろうの王子ウルスが潜伏せんぷくしているという商人あきんどみやこサイカを目指めざしていた。

 せっかく手に入れた『アルゴドラスの聖剣』も、聖王家の血筋としては傍流ぼうりゅうのそのまた傍流であるカルボンには、そのちからを充分に引き出せないからである。

 武将としての経験も豊富な庶兄しょけいのニノフの説得には失敗したが、まだ子供のウルスならだませるのではないかと、カルボンは思っている。

 だが、一つ大きな問題があった。

 ウルスにしてみれば、カルボンは、ウルスの父カルス王に謀叛むほんを起こして国をうばい、母である王妃おうひを殺し、自分自身も命をねらわれた、不倶戴天ふぐたいてんかたきなのである。


 そこで、ヤナンでは、赤目族の地下神殿にさそい込んで洗脳せんのうしようとしたものの、事前に逃げられた。

 あの時は、赤目族のおさズールとしての人格が主体となってわな仕掛しかけたが、今回はあくまでもカルボンとして対面するため、そこをけては通れない。

「まあ、何とか誤魔化ごまかせるだろう」

 ズールの意識と融合ゆうごうして以来、カルボンはやや自信過剰じしんかじょうとなっており、馬にられながら、そうひとちた。


 やがて前方にサイカが見えて来た。

 市街をぐるりと城壁がかこんでいる。

 城壁に唯一ある小さな門の前には、長槍ながやりたてを持った門番が両側に立っていた。

 国を追われた身であるカルボンは、当然通行証つうこうしょうなど持っていない。

 しかし、下馬げばすることさえせず、平気な顔で通り抜けようとした。

 たちまち、門番から長槍を突き付けられた。

「おい、こら! 馬からりて、通行証を見せんか!」

 カルボンは、ほほけた陰気な顔を真っ赤にして怒鳴どなった。

無礼者ぶれいもの! わしの顔を知らんのか! おまえは斬首ざんしゅだ! 責任者のライナとやらをここに呼べ!」

 すると、上の方から「わたしなら、ここにいるよ!」と声がした。

 アーチ状の門の上は矢狭間やはざまがあり、さらにその上に門楼もんろうがある。

 その門楼から突き出した露台バルコニーから身を乗り出すようにしている女が見えた。

 年齢としの頃は三十代なかばほどであるが、まとっている真っ白な長衣トーガは、身分の高さを思わせた。

 遠目とおめでも、キリリとした美貌びぼうの持ち主であることが見て取れる。

 サイカの実質的な支配者ライナであった。

「わたしはあんたの顔を知らないが、どこの何様なにさまなんだい?」

 バルコニーから質問されたことに、カルボンはさら激昂げっこうした。

「無礼にもほどがある! 聞きたいなら、ここへりて参れ!」

面倒めんどくさい男だねえ。わかったよ。待ってな!」


 ライナが下りて来るあいだも、門番はカルボンに向けた槍を少しもらさない。

 それが一層いっそうカルボンの苛立いらだちをつのらせているようだ。

 用心棒ようじんぼうらしき男たちを数名引き連れて、ライナが門からあらわれた。

「さあ、下りて来てやったよ。わたしがライナさ。あんたも名乗なのりな」

 カルボンはムッとしたが、これ以上めるのは得策とくさくではないと思ったのか、「よかろう」と答えた。

 ただし、用心のためか、馬からはりない。

「わしはカルボン卿だ。つい先日まで、バロード共和国の総裁そうさいであった」

「何だって!」

 ライナは驚くというより、あきれた顔になった。

うそくにしても、もう少しマシなことを言いな!」

「嘘など吐かん。正真正銘しょうしんしょうめい、わしはカルボンだ」

「あんた、頭は大丈夫かい? もし、本当にカルボン卿なら、この中原ちゅうげんに、あんたの居場所なんか、どこにもないよ!」

 カルボンが何か言い返そうとした時、ライナの後ろから「そのとおりだ!」という声がして、大柄おおがらな男が出て来た。

 怒りで顔色が変わったタロスであった。

 手には長剣を握り、カルボンをにらみつけている。

「よくも平気な顔で外が歩けるな、この裏切り者め!」

 対応を一歩でもあやまれば、即座そくざに殺されかねない状況だが、カルボンは鼻で笑った。

「タロスか。おまえごと雑魚ざこに用はない。ここにウルス殿下でんかがおられるだろう? わしは、殿下と話しをするために来たのだ。取りげ!」

駄目だめだ! この場で成敗せいばいしてやる! 馬からりて、首を差し出せ!」

 今にもかりそうないきおいのタロスを、門の奥の方から「待って!」と制止せいしして、ウルスが姿を見せた。

 さわぎを聞きつけたのであろう。


 その直後のカルボンの行動こそ、驚くべきものであった。

 バッと馬から飛びり、ウルスの足元にけ寄ると、を投げ出すように平伏ひれふしたのである。

「おなつかしうございます、ウルス殿下! よくぞご無事ぶじで!」

 横のタロスが「よくも白々しらじらと!」と剣を振りげるのを、また、ウルスがめた。

「待ってよ、タロス。ぼくだって、母上を殺されたうらみを我慢がまんしてるんだ。かれだって、それはわかった上で、ここに来てる。とすれば、それなりの理由があるはずだよ。その理由を聞いてから、かれをどうするか、考えてもいいんじゃないかな」

 頭をげたままカルボンはニヤリと笑ったが、すぐに笑顔を消し、必死の形相ぎょうそうで顔をげた。

「有りがたき幸せ! わが生命いのちはもういものと覚悟かくごいたしておりまする。しかし、何卒なにとぞ弁明べんめい機会きかいをおあたえください。しかのちに、ご提案いたしたきこともござりますれば!」

 演技えんぎ命懸いのちがけならここまでできるものなのか、カルボンは、ハラハラと落涙らくるいさえして見せたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ