表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
226/1520

216 ガイの里(1)

 単純化してえば、魔道師のみやこエイサを中心に、中原ちゅうげんの内部は四つの領域エリアに分けられる。

 西北部は、最も早くからひらけた土地である。

 かつて、ここからおこったバロードが中原全体を支配したように、土地が肥沃ひよくで人口も多い。

 ただし、西の辺境へんきょうに近いため乾燥気候かんそうきこうで、あみの目のような細い川の流れが変わると、廃都はいととなったヤナンのように人が住めなくなってしまう。

 西南部は、土地がせている上に川が少ないため、き水のある場所を中心とした自由都市が多数点在てんざいしている。

 土地が農業に向かないため、商人あきんどの都サイカに代表されるように、商業がさかんである。

 東北部は、ゆたか田園でんえんが広がる大穀倉地帯だいこくそうちたいであったが、政治的には安定せず、目まぐるしいほどに小国が乱立して興亡こうぼうり返していた。

 そこへ、ガルム大森林の野人やじんとしてさげすまれていたガルマニアが、梟雄きょうゆうゲールにひきいられて突如とつじょ攻め込んで来て、大帝国を打ちてたのであった。

 そして、今ロックのいる東南部は、土地がせている上に未知の毒素をふくんでおり、しかも、ジトジトと湿気しっけが多い気候きこうのせいか様々な風土病ふうどびょうもあって、中原の中でも未開みかいの地域とされている。

 さとと呼ばれる集落しゅうらくはあっても、自由都市と呼べるほど人口が集中した場所はなかった。


 そこへ十年ほど前、暗黒帝国マオールの肝煎きもいりで、巨大な擂鉢状すりばちじょう円形闘技場えんけいとうぎじょうを中心にした歓楽かんらくまちとしてつくられたのが、マオロンである。

 建前上たてまえじょうは自由都市であるが、実質的にはマオールの植民都市であった。

 擬闘グラップル賭博とばく遊女屋ゆうじょやが主な収入源しゅうにゅうげんであるが、裏では奴隷貿易どれいぼうえきおこなっているとのうわさえない。


 しかし、そのマオロンまでは、まだまだ距離があった。

 ゾイアの行方ゆくえを追ってここまで来たロックは、いきなり次々と刀子とうすを投げつけられたため、馬からりて逃げながら、いかりの声をげた。

「やめろって言ってんだろうが! 話があるなら、口で言え!」

 相手に殺意さついがないことは、微妙びみょうに刀子のねらいがれていることで明らかだったから、何らかの警告であろうと思ったのである。

 すると、刀子が飛んで来なくなり、れた立ち木のかげから相手が姿を見せた。

 目以外は隙間すきまなく黒いぬのおおっている。

「おまえ、クルム城から逃げた、コソどろ、だな」

 奇妙な抑揚イントネーションだが、声は女のようである。

 ロックは少し安心したが、余計よけいに腹が立ってきた。

「いつの話してんだよ! おいらはカリオテのロックだ! 今じゃ、北方警備軍の情報隊長さまだぞ!」

 黒尽くろずくめの女は、ロックに見えるように刀子をかまえた。

「おまえ、ヤナンでも、けものになる男と、一緒、だったな。言え! あの男、今、どこにいる!」

 ロックの顔は、怒りの表情から、驚きに変わった。

「おい! おっさんのこと知ってんのか! だったら、教えてくれ!」

 女は苛立いらだったように、「聞いているの、こっち!」と、今にも刀子を投げるような素振そぶりをした。

「獣になる男、賞金しょうきんかってる。おまえ、かくすなら、容赦ようしゃ、しない!」

「何だって! 誰が賞金懸けてんだ?」

「マオロンの、チャナール太守たいしゅ、だ。獣になる男、太守お気に入りの擬闘士グラップラ、ウパンジャを、ボコボコになぐって、逃げた」

「やるじゃねえか! さすがにおっさんだ!」

 その時、ロックの背後から声がした。

「喜んでんじゃねえよ、阿呆あほう! こっちは大損害だ!」

 ロックが振り向くと、顔に大きな刀創かたなきずのある人相の悪い男が立っていた。

「リゲス!」

 それは、ロックの従兄いとこのリゲスであった。

 だが、リゲスは親しげな顔など見せず、忌々いまいましそうに「あいつのせいで、こっちまで追われてんだぞ!」とてた。

 リゲスのその様子を見て、ロックはうたがわしそうな顔になった。

「おい、ちょっと待て! ってことは、記憶がないのをいいことに、おっさんをグラップラにしてき使ってたのは、おまえかよ!」

 リゲスは鼻で笑った。

「まあな。おれも以前、あいつにはひどい目にわされたし、何より、身柄みがらを受け取る時に、バポロにはちゃんとかねを払ったんだぜ。文句を言われる筋合すじあいはねえよ」

「何だと、この野郎!」

 リゲスにつかみかかろうとしたロックの動きが急にまり、「いてっ!」と声をげた。

 振り返ると、太腿ふとももうしがわに刀子がさっている。

 それを抜こうと手を伸ばしたロックの動きが緩慢かんまんになったかと思うと、ドッと前のめりに倒れた。

 刀子を投げた黒尽くめの女が、「取りえず、しびれ薬、だ。どうする、いっそ、殺すか、リゲス?」と聞いた。

 リゲスはずるそうな笑顔になった。

「いや、駄目だめだ。こいつには使いみちがあるからよ。こいつをおとりにして、ゾイアをおびき寄せるんだ。バドリヌ、ガイ族を集めて噂をバラくように指示を出してくれ。カリオテのコソ泥、ロックをつかまえた、とな」

「おお、わかった」

 バドリヌと呼ばれた女は、サッと姿を消した。

 リゲスは、痺れ薬で動けないロックをしばり上げながら、嘲笑あざわらった。

「痺れてても聞こえるだろ。まったく、飛んで火にる何とやらだな。捜しあぐねてガイの里に来た甲斐かいがあったぜ。あの男さえし出せば、チャナール太守のご機嫌きげんなおり、褒美ほうびまでいただけるって寸法すんぽうだ。ありがとよ、わが従弟いとこどの」

 言い返すこともできぬロックの目から、一粒ひとつぶの涙がこぼれ落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ