201 弱者の同盟
ウルスたちにガルマニア帝国の第三皇子ゲルヌを預かって欲しいという魔道師カノンの申し出に、ロックは猛反発したが、ウルスラは同じ国を追われた者同士であると理解を示した。
その際、死んだはずの父が生きていたことを語ったウルスラは、堪え切れずに涙を流したのである。
「ごめんなさいね。父のことを考えると本当に残念で、悲しくなってしまうの。でも、バロードの現状を知れば知るほど、わたしは父を許せなくなる。だから、今のバロードに戻る気はないわ。ライナさんたちにご迷惑を掛けて申し訳ないとは思うけれど」
すると、部屋の外から「そんなこと気にしなくていいんだよ」と声がし、ライナ本人が入って来た。
カノンが誰にも聞こえないような小さな声で「結界も、もう保たぬのか」と嘆いた。
ライナは一人ではなく、その後ろからギータ、ツイム、タロスと入って来た。
ライナは「ごめんよ」とウルスラに頭を下げた。
「使用人から知らないお客を奥の間に通したって聞いて、叱ったとこさ。おお、その目の色は王女さまの方だね。お詫びしなきゃと思ってたとこに、この連中が剣術の稽古から帰って来たから一緒に連れてきたけど、よかったかい?」
ウルスラは涙の痕を拭って微笑んだ。
「勿論ですとも、みんなにも相談しなきゃと思ってたんです。みんも、ここに座って話を聞いてね」
皆が円卓の椅子に着くのを待って、ウルスラが簡単に事情を説明した。
その間、ロックが不貞腐れて外方を向いているのは当然として、当事者であるはずのゲルヌも知らぬ顔をしている。
その横ではカノンが再び顔色を悪くしながら、縋るような目でウルスラを見ていた。
「と、いうことなの。ライナさんにはご負担だと思うけど、中原の情勢がもう少し落ち着くまで、わたしたちと一緒にゲルヌ皇子も匿っていただきたいの。いいかしら?」
ライナは、おかしな言い方になるが、男気のある笑顔を見せた。
「いいともさ! 訳ありの客がもう一人増えたって、どうってことないよ! って、言いたいとこだけど、実は他にも理由があるのさ。ギータ、説明してやんな」
ボップ族のギータは、普通の椅子に座ると顔がテーブルに届かないため、幼児用の背の高い椅子にチョコンと座っていた。
皺だらけの小さな顔だが、目だけは大きく、クリッとしている。
「うむ。ちょうど好い機会じゃから、みんなに説明しておこう」
中原は千年続いた戦乱の時代の末期にあると、わしは思う。
統一への気運が高まっておるからのう。
ついこの間までは、ガルマニア帝国が一気に中原を制覇するかと思われたが、シャルム渓谷の戦いから流れが変わった。
周辺の弱小勢力も、それを見て息を吹き返したんじゃ。
その後、二転三転したものの、現状をざっくり言えば、ガルマニア帝国が中原の東側を、生まれ変わった新バロード王国が西側を、それぞれ制圧しようとして勢力拡大を図りつつある。
じゃが、双方とも問題を抱えておる。
ガルマニア帝国はその最高権力者である皇帝を失い、分裂状態じゃ。
因みに、ブロシウスはゲルポリスを旧称のエイサに戻し、そこを中心としたイサニアン帝国とやらを建国して、初代皇帝を名乗っておるそうじゃ。
ガルマニア帝国本体の後継者は、皇太子ゲーリッヒが自ら退いたため、第二皇子のゲルカッツェが新皇帝になるという。
まあ、当分国内はガタガタするじゃろう。
一方の新バロード王国は、元々軍事面に不安のある、まあ、有体に云えば弱い国であった。
そこに、強力な蛮族軍が加わり、磐石になったかと思いきや、やはり、そう上手くいくものではなかった。
正規軍と蛮族軍の間に、相当な軋轢が生じておるようだ。
が、それだけではない。
ああ、ウルスラ王女には聞き苦しいじゃろうが、もう少し言わせてもらうぞ。
自分たちを北方から率いてきた王の権威を嵩に着て、蛮族たちの一般市民への乱暴狼藉が甚だしいそうじゃ。
そのため、厳しい国境の警備を掻い潜り、国外逃亡する民衆が後を絶たないと聞く。
さて、こうして二大勢力が弱まっている間、わしらは手を拱いてはおられぬ。
自衛する方法を見つけねば、いずれはどちらかの勢力に呑み込まれてしまうじゃろう。
中原の西南部は、この商人の都サイカを始めとして自由都市が多い。
このままでは、どちらかの勢力に一つずつ順番に潰されていくだけじゃ。
そこで、サイカを中心に同盟を結んではどうかと考えた。
ライナにも相談し、二三の自由都市に打診したら、好感触じゃった。
名称は、取り敢えず『自由都市同盟』とでもしようかの。
さあ、そこで、じゃ。
その同盟がちゃんと機能するには、中枢が必要となる。
無論、場所的にはサイカということになるが、ライナには軍事的なことはわからんし、国際政治も得意ではない。
実務に当たる顧問団が必要じゃ。
当座、タロスとツイムに軍事面を見てもらい、わしが情報統括をするとして、外交交渉の担い手がおらん。
この前までいたクジュケ元参与が打って付けじゃが、それはニノフ殿下が困ろう。
まあ、今もゾイアを捜しに行ったままじゃしな。
おお、それもあったな。
ニノフ殿下が、今後どうされるのか。
そして、ゾイアが復帰したとして、どう動くのか。まだまだ不確定なんじゃ。
そこで、幼いながら、ウルス王子とウルスラ王女には、外交を担当してもらうしかない。
まあ、どちらが主体となるかは、相手次第じゃろうがの。
また、ロックは一応ゾイアの軍に所属しておるのだろうが、ゾイアが戻るまででも、わしらを手伝ってもらいたいのじゃ。
更に、でき得れば、ゲルヌ殿下とお付きの魔道師どのにもこの顧問団に参加してもらえば、わしらも助かる。単に匿うとかではなく、な。
どうじゃな?
すると、ゲルヌがスッと立ち上がった。
「断る!」




