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1448 ハルマゲドン(104)

 北の大海へ行く前にバロードに立ち寄ったゲルヌ皇子おうじは、すぐに双王宮そうおうきゅうの『なまり』に向かった。

 入口に見張り役として立っている秘書官シャンロウに、「皆集まっているか?」とたずねると、「んだ。だども」と声をひそめた。

めてるだあよ」

「そうか」

 えて詳細は聞かず、ゲルヌは「今戻った」とのみ告げて室内に入った。

 その途端とたん、「どうしておいらは行っちゃ駄目だめなんだよ!」と怒鳴どなる情報将軍ロックの声が聞こえた。

 どうやら、北の大海の現場へ連れて行く人選で、言い争いになっているようだ。

 ゲルヌは静かに自分の席に座って、成り行きを見守った。

 ロックに答える統領コンスルクジュケの声もとがっていた。

「何度も申しましたが、魔道が使えない人間には危険だからですよ」

「魔道が使えさえすりゃ、そこのちっちゃなガキでも行かせんのか?」

 ロックは、そんなことはないだろうという反例のつもりで、部屋のすみ高椅子ハイチェアにチョコンと座っているジェルマ少年を指差ゆびさしたのだろうが、意外にもクジュケは当然のようにうなずいた。

「ええ、そのつもりです。まあ、跳躍リープ不得手ふえてらしいので、わたくしがかかえて行くことになりますが」

 ロックが「そんなの不公平じゃねえか!」といきり立つのを、横に座っていた陸軍大臣タロスが「まあ、落ち着け」となだめた。

 もっとも、タロス自身も納得はしてはいないようで、続けて反論を述べた。

「危険という点でえば、この世界のどこにても同じだろう。しかも、わたしたちは軍人なのだ。文官のそなたが危険を承知で行くのに、わたしたちに後方に残れと言われて、はいそうですか、というわけには行かんのだ。まして、子供を連れて行くとあっては、猶更なおさらだ」

「あんたたちが足手纏あしでまといだからさ」

 そうこたえたのは、勿論もちろんクジュケではなく、自分のことが話題になっているジェルマであった。

 クジュケがあわてて「これっ、口をつつしみなさい」としかったが、本音ほんねは同じであろう。

 険悪けんあく雰囲気ふんいきの中、ようやく正面に座っているウルスラ女王がゲルヌに声を掛けた。

「お帰りなさい。ごめんなさいね、帰って来るなりこんな状態で。でも、る程度はお互いの本音をぶつけた方がいいと思ったから、だまって聞いていたの。それで、向こうの様子はどうだった?」

 対立していたロックとクジュケも、自然とゲルヌの方に注目した。

「うむ。ゾイアは無事に隧道トンネルを貫通させていた。今頃はもう、出口付近まで進んでいるだろう。われわれも急いだ方が良い。ただ、一つだけ気になったのは、白魔ドゥルブ傀儡かいらいとなっているジョレの様子だ」

「まあ、苦しんでいるの?」

 心配するウルスラに、ゲルヌは苦笑した。

「逆だ。むしろ、快調そのものに見えた。あれでは、どちらがどちらに取りいているのかわからぬ」

 どう理解すべきか不得要領ふとくようりょうな顔で「そう」と生返事なまへんじをしながらも、ウルスラは本当に聞きたかったであろうことをたずねた。

「それで、お祖母ばあさまは?」

 ゲルヌは少し首をかしげた。

「正直なところ、まったく普通に見えた。あれが演技なら、大したものだ」

 多少皮肉じりの感想に、ウルスラよりも先にロックが反応した。

「ってことは、こっちを裏切るつもりだぜ! ドゥルブを裏切るつもりなら、そばにいてドキドキしねえはずがねえ!」

 同じカリオテ人として触発されたのか、ジェルマが「どっちにしろ裏切る前提なんだな」と混ぜっ返した。

 クジュケが「静かになさい」とたしなめると、ウルスラが大きくめ息をいて、表情を改めた。

「本当のことを言うべき時が来たようね。わたしも、できればお祖母さまを信じたかった。でも、お祖母さまがドゥルブに味方したら、世界が終わることもわかっていたわ。だから、ゾイアに頼んだの」

 皆顔を見合わせたが、誰も聞いていなかった話のようで、全員がウルスラの発言を待った。



 以前、同じようにお祖母さまに聖剣を渡さざるをなかった時、第一発言者プライムさんに協力してもらって、聖剣自身に時間を遡行そこうさせたことがあったわね。


 そうね。

 ゲルヌの提案だったわ。

 その時はお祖母さまが、わたしやニノフ兄さまに聖剣を使えないようにするだろうと見越して、あらかじめプライムさんの合図で過去に戻るように命令してから、お祖母さまの手に渡るようにしたの。

 結果的にプライムさんはそのことで生命いのちを落としてしまったけれど、聖剣は戻って来た。

 その際、お祖母さまはわたしたちに使えないようにするのと引き換えに、ゾイアにも使えるようにしたわ。

 その前後の記憶はお祖母さまにはないらしいけど、同じことが成功するか、自信が持てず、ゾイアに考えてもらったの。

 一応今回も、お祖母さまに聖剣を渡す前、ゾイアはわたしと同じ命令をしたわ。

 もし、お祖母さまがゾイアにも使えないように命じていたら、戻って来た聖剣で確認できるから、その時には、ゆるしてもらえるかわからないけど、正直に打ち明けてあやまろうと言ってね。

 幸い、聖剣はゾイアの命令を聞いたわ。

 でも、前回と違って、お祖母さまが何日か聖剣を保持することになるから、同一時間線にあるもう一つの聖剣の存在に、聖剣自身が警告を発するおそれがあるそうなの。

 ああ、ごめんなさいね。

 わたしも理屈はよくわからないわ。

 でも、それをける方法はあったわ。

 過去に戻った聖剣を、再び未来へ行かせたの。

 これで、合図を出したゾイアの手許てもとに、聖剣が渡るはず。

 あとはゾイアが中和すればいいのだけれど、問題は、その後一昼夜ゾイアが人事不省じんじふせいになることよ。

 だまされたことがわかれば、お祖母さまは聖剣をうばい取り、今度はドゥルブを復活させるかもしれない。

 それをさせないために、わたしたち魔道の力を持つ者が結集しなければならないのよ。

 わかってもらえるかしら、タロス、ロック?



 最初にタロスが「御意ぎょいのままに」と深く頭をさげると、ロックも渋々しぶしぶ「しゃあねえな」とうなずいた。

 クジュケもホッとしたように、「さすがゾイアどの」と感心した。

「それで、合図は何でございますか?」

「ええ。『時は今』というらしいわ」

 ゲルヌも「いいだろう」と同意したが、ふとひとちた。

「ふむ、そうか。ゾイアの大音声だいおんじょうなら、本殿はおろか、宙船そらふねの本体にも響き渡るだろうから、聖剣にも充分聞こえるな」

 しかし、ここにいる誰もが、本物の聖剣がすでにドーラの手を離れ、ジョレの手下になった機械からくり人形の亜空間サブスペース保管庫ストレージ格納かくのうされているとは、知るよしもなかったのである。

(作者註)

 第一発言者プライムが聖剣を過去に戻す合図を送った件は、963 代理人(14)あたりをご参照ください。

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