13 最初の対決
本来勇猛なはずのガルマニア兵たちを命辛々逃走させた巨漢は、ゾイアの姿を目にするや、嬉しくて堪らぬように笑った。
頭髪だけでなく、篝火に照らされた顔には眉もない。
「グフッ、おまえ、殺す」
巨漢は、左手に持った短い柄の先から延びる鎖の途中を右手で握り、先端に付いている鉄球をブンブン振り回している。
直線的な動きの剣と違い、どう動くのか予測ができない。
しかも、鎖を握っている右手の加減で鉄球の到達距離を調整できるから、間合いも掴めない。
腕に覚えのあるガルマニア兵たちも、不慣れな武器を使う相手に戸惑い、棘付き鉄球の攻撃を防ぎ切れなかったのであろう。
と、ゾイアは長剣を左手に持ち替え、空いている方の右手をロックの方に差し出した。
「先ほどの刀子を、われに貸してくれぬか?」
その間、ゾイアは一瞬も巨漢から目を離さない。
腰が引けて、今にも逃げ出そうとしていたロックは、顔を引き攣らせた。
「ええっ、今のところ、おいらの唯一の武器なんだぜ!」
「大丈夫だ。おぬしの身は護る」
「た、頼むぜ、おっさん」
刀子の柄の方をゾイアの掌に乗せると、ロックは後ろに飛び退った。
「すまぬな」
ゾイアは受け取った刀子を握り、巨漢の振り回す鉄球と同じ速さで右腕を回し始めた。
ゾイアが何をするつもりか様子を見ていた巨漢は、馬鹿にしたように笑いがら、にじり寄って来た。
「グフッグフッ、それ投げる、つもり、か?」
「ああ、そうとも!」
言い様、ゾイアは投げた、長剣の方を!
ゾイアの予想外の行動に、巨漢は慌てて鎖を振って長剣を絡め取った。
ギリギリと音を立てて鎖が剣に巻き付く。
その刹那、ゾイアの体が宙を舞い、一回転して巨漢の頭上を越えた。
両足を踏ん張って地に降り立ったゾイアは、すぐに振り返り、身構える。
次の瞬間、巨漢はビクンと体を震わせた。その頭髪のない頭に、一本の髪の如く刀子が突き刺さっている。
ガクッと膝を付くと、痙攣しながら巨漢の体が倒れた。
すると、パン、パン、パンという間延びした拍手が聞こえてきた。
「見事だな。相手の意表を衝く智慧。それを実現する度胸と技量。只者ではあるまい」
拍手をしながら楼台の方から現れたのは、片目に黒い眼帯をした髭面の痩せた男だった。殆ど平服に近い軽装しかしていない。
しかも、その場の状況を忘れさせるような鷹揚な物腰である。
「だが、その男、アジムはおれの大事な義兄弟でね。一人で百人隊ぐらいの働きをする。それを殺られたんじゃ、おれたちにとっては大損害だ。せっかく情報屋から今なら後詰めがないから狙い目だと聞いて出張って来たのによ。この城の財宝を盗っても、巨人傭兵に大枚叩いたから、差し引き、いくらも儲かっていないしな。さあ、そこで相談だ。おまえはどう見てもガルマニア兵じゃない。むしろ、牢から出て来たところをみると、咎人だろう。いっそ、アジムの替わりにおれの義兄弟にならないか。分け前は弾むぞ」
「断る」
にべもない返事も男の想定内であったらしく、ニヤリと笑って右手を挙げると、楼台の出口から十字弓を構えた二十人ほどの仲間が出て来た。
皆一癖も二癖もありそうな面構えだ。弓にはすでに矢が番えられ、ゾイアに狙いを定めている。
「おまえは確かにいい戦士だし、このまま死なすのは惜しい。が、味方でなければ敵、というのがおれたちの流儀なのだ」
「おれたち?」
髭面の男は胸を張った。
「おれたちはおれたちさ。まあ、他人は『荒野の兄弟』と呼ぶがな。おれは首領のルキッフだ」
物陰に隠れていたロックが、「ひっ」と息を呑んだ。
「申し訳ないが、われは知らぬ。また、もし、知っていたところで、仲間になる気などない。が、敵になるつもりもない。アジムとかいう男には気の毒だが、殺らなければ殺られていた。われは、この城から出してもらえば、それでよい」
ルキッフは笑いながら首を振った。
「残念だな。おれたちの流儀は言ったはずだ。あばよ!」
ルキッフは、再び右手を挙げ、サッと振り下ろした。
十字弓から、一斉に矢が放たれた。




