1428 ハルマゲドン(84)
古代神殿の乗っ取りに成功した白魔の許へやって来た魔女ドーラは、バロード側に提案された策戦をあからさまに全て話し、それに乗るフリをして最後に逆転するのだと説明した。
しかし、聞き終わったドゥルブは、合体しているジョレの顔を顰めた。
「まさか、それを信じろ、とでもいうのか?」
ドーラは惚けたように、両方の眉を上げて見せた。
「わたしは、手の内を全部見せたぞえ。その上で、おぬしに賭けると云うておるのじゃ。それが信じられぬのか?」
ドゥルブはジョレの鼻を鳴らした。
「それはそうだろう? おまえが向うの話に乗れば、二百年の余命と新しい国が貰える。われらに協力したとて、生命辛々宇宙へ逃げるだけだ。これでは、損得勘定が吊り合わぬではないか」
ドーラは魔女らしく嗤った。
「確かに吊り合わぬのう。が、おぬしの言うのとは逆じゃ」
「逆?」
「おおさ。この先二百年長生きしようと、新しい国の女王になろうと、まあ、高は知れておる。考えてもみよ。わたしと兄は、一度は中原の支配者だったのじゃぞ。それが、老いさらばえた身体で長生きさせられ、苦労に苦労を重ねて新しい国を創ったとて、何になろう? しかし、おぬしらと共にこの世界の外へ飛び出せば、今まで見たことも聞いたこともない経験ができるのじゃろう?」
「それはそうだが、そのためには人間としての肉体を捨て、われらのような純粋な知性体になるしかない。まあ、単なる複製ではなく代替不可能暗号情報ではあるが、二度と人間に戻ることはできぬぞ」
ドーラは笑って見せた。
「望むところさね。今は若見せの魔道を使って美熟女の姿にしておるが、本当はヨボヨボの婆じゃ。こんな肉体に未練などないわさ。ゾイアの身体でも貰えれば、とも思うたが、何じゃかんじゃと理由をつけて断られてしもうた。で、あれば、おぬしらの一員に加えてもらい、一万年以上の寿命と、未知の世界での冒険を選ぶぞえ」
ドゥルブは、ドーラの真意を値踏みするかのようにジョレの顔で睨んでいたが、不思議なことに、白い平面の顔になろうとはしなかった。
「ふむ。ここで言質を取ったところで、いざとなればどう転ぶのかわからんな。が、これだけは言っておくぞ。もし、おまえが少しでもおかしな素振りを見せたら、宇宙艦隊の光子魚雷の発射を待つまでもない、われらのいる宇宙船の超光速推進機関を暴発させ、この惑星ごと吹き飛ばしてやる!」
しかし、ドーラはお道化たように震えて見せた。
「おお、怖や怖や。よくわからぬ言葉を並べて脅さずとも、裏切りはせぬ。信用してくりゃれ」
ドゥルブは結局最後までジョレの顔のまま、念を押した。
「忘れるな。われらが勝つか、この世界が滅びるか、二つに一つだぞ」
さすがにドーラも小さく舌打ちした。
「諄いのう。まるでジョレじゃな。まあ、よいわさ。わたしはこれからゾイアとの最後の打ち合わせに行くが、おぬしも遅れずに本殿を切り離すのじゃぞ。その前に魔道神の仲間の最終兵器が飛んで来たら、裏切るも何も、みんな死ぬだけぞえ」
「わかっている。準備はすぐに始めよう。寧ろ、おまえらこそ、遅れるなよ」
「勿論じゃ。この魔女ドーラに、お任せあれ!」
古代神殿からエイサ上空に跳躍したドーラは、西に向かって飛びながら、ずっと独り言ちていた。
いや、兄のアルゴドラスと対話しているようである。
まあ、あんなものじゃろう。
完全に信じた訳でもないじゃろうが、かというて、全く信じておらぬということもあるまい。
有り体に言えば、半信半疑じゃな。
え?
わたしの本心でござりますか、兄上?
それが実は、自分にもよくわかりませぬのじゃ。
こう見えても、わたしは女子ですからのう。
ジェルマのくれる寿命が若返りまで齎すのなら、迷いなどいたしませぬ。
新しい国創りにも励みましょう。
が、サンサルスの例を見ても、単に寿命が延びるだけのこと。
確かに、若見せの魔道で誤魔化すことはできまするが。
サンサルスもそうしておりましたからのう。
はあ?
いえいえ。
今更子を生したいなどと、思うてはおりませぬよ。
傍系まで含めれば、今のバロード人の何割かはわたしたちの子孫でありましょう。
この上、新たに子を産んで、一人前になるまで育てるのは、しんどうござります。
が、女子とは、いつまでも若くありたいと願うもの。
おお、恥ずかしや。
そんなことよりも、わたしが心を動かされたのは、あのドゥルブの様子を間近に見たからでござりますよ。
兄上は、あれをどうご覧になられましたかや?
ええ、そうでありますのう。
まるで、ジョレが主体となって喋っておるようでした。
まあ、ジョレという男が憑依され慣れておる、という特殊な事情があるにせよ、実に興味深いと思われませぬか?
ドゥルブにせよバルルにせよ、肉体を離れて何万年にもなろうかという存在は個性というものを持たず、それ故個性ある人間に触れると、強くその影響を受けるのではありますまいか?
あの臆病者のジョレにして然り。
ならば、武人としても統治者としても傑出した兄上と、奸智並ぶ者なき権謀術数の達人であるわたしと、この両者がドゥルブの内部に入れば、きゃつらを意の儘にするなど容易きこと。
つまり、間借りさせてもらうフリをして、母屋を乗っ取るのでござりまする。
如何ですか、兄上?
わたしと共に、神になりませぬか?




