1421 ハルマゲドン(77)
白魔の傀儡となったジョレは、機械兵の口から金属の筒を引き抜くと、その握りの部分を掴んで本殿の外に出た。
その同じ武器で仲間を殺され、恐慌状態になって逃げていた赤目族たちが門前に集まって騒いでいる。
「神殿を破壊するとは、何と罰当たりな!」
「狼藉者め、疾く立ち去れ!」
「ここはわれらの聖域なれば、穢すこと勿れ!」
「神罰を畏れよ!」
「畏れよ!」
「畏れよ!」
「畏れよ!」
が、ジョレは皮肉な笑みを浮かべて、手に持っている武器を上に向けて発射した。
轟音に怯えて震える赤目族たちを見回し、ジョレは小声で「殺すほどでもないか」と呟くと、胸を張って告げた。
「神は死んだ。いや、死んではいないが、おまえたちを見捨てたのだ。あんな薄情な魔道神より、われらドゥルブを信仰しろ。きっと今より幸せになれるぞ」
奇妙なことに、憑依したはずのドゥルブが、ジョレの人格と違和感なく融合していた。
ジョレという男が憑依慣れしているということもあるだろうが、これも一種の才能かもしれない。
それはともかく、この世界には馴染みのない武器を手にしたその姿は、悠揚迫らざる風格さえあった。
赤目族たちは、その武器に対する恐怖も相俟って、気圧されたように黙り込んでいたが、一人が堪りかねたように尋ねた。
「本当にバルルはわれらを捨てたのか?」
仲間たちは「よさぬか」「恥を知れ」「不信心者め」と叱責したが、その声は小さかった。
それを充分に心得たように、ジョレは自信たっぷりな口調で話し始めた。
本当だとも。
今こそおまえたちに真実を教えよう。
おまえたちの知るバルルとは、神などではない。
成程知性は高く、寿命も計り知れぬほど長いが、まあ、言ってみればそれだけの存在だ。
で、あれば、おまえたちの忌み嫌うわれらと何の違いがあろう。
ああ、因みにだが、バルル同様、われらをドゥルブと呼んだのはこの惑星の人間たちであり、われら自身が名乗った訳ではないぞ。
しかし、われらの本当の名を言ったところでおまえたちには無意味だから、ドゥルブと呼ぶがいい。
抑々、われらはこの宇宙とは別の宇宙で進化した存在だ。
よって、説明の中でわからない言葉が出て来るだろうが、まあ、聞き流してくれ。
尤も、われらとて肉体を離脱する以前はおまえたちと似たような存在であり、それはバルルも同じはずなのだ。
さて、偶然によってこの宇宙に漂着した際、自分たちと同様な知性体が居ることを知り、われらは宥和を試みた。
嘘ではないぞ。
拒絶したのはバルルたちの方だ。
われらが有機生命体の根絶を主張したら、倫理観がどうのと小煩いことを言ってな。
当時のわれらは先鋭的な虚無主義に染まっており、妥協するつもりもなかったから戦争となった。
当初優勢に戦いを進めていたが、やはり余所者であるわれらは補給が続かず、徐々に抑え込まれ、味方の大部分は元の宇宙へ逃げ帰った。
戦時捕虜であったわれらだけはこの世界に取り残され、一万数千年の時を無駄にした。
ところが、われらと同時にこの惑星に墜落したバルルは、仲間の救援を待つ間、神のフリをしておまえたちを支配したのだ。
そして、遂にその救援が来ると知るや、おまえたちを捨てて逃げたのだ。
何故だと思う?
ここにいるわれらを滅ぼすため、連中はこの惑星ごと吹き飛ばすつもりなのさ。
倫理観がどうのこうのなど、聞いて呆れるだろう?
おっと、心配するな。
われらとて、むざむざとやられるつもりはない。
こうして船橋、おまえたちの云う古代神殿も手に入った。
後はこれを宇宙船本体に接合させれば、いつでも逃げられるのだ。
そこで、おまえたちに提案がある。
ここに残っていれば、死を待つばかりだ。
いっそ、われらの部の民となり、共にこの宇宙を支配せぬか?
シンと静まり返る赤目族たちのうち、ジョレに質問した一人が突如地面に両手を着いた。
「どうか、わたくしたちをお導きください!」
それにつられたように次々に大部分の赤目族は平伏したが、当然、何名かは反撥した。
「騙されるな!」
「みんなも正気に戻れ!」
「ドゥルブの言うことなど聞くんじゃない!」
「きっとバルルが救ってくださる!」
ジョレは嗤いながら、武器を水平に構えた。
ダーン、ダーンと音が響く度に立って反対する者たちが倒れ、それを見て慌てて這い蹲る者もいた。
遂に立っている者がいなくなると、ジョレは宣言した。
「おまえたちをわが僕とする! 逆らえば死を与えるが、従ってついて来れば、いずれわれらの仲間に加えることを約束しよう!」
赤目族たちは顔を上げ、一斉に唱和した。
「ドゥルブ!」
「ドゥルブ!」
「ドゥルブ!」
満足そうにそれを眺めていたジョレの顔が、白い平面に変わった。
「ふむ。面白い。われらが直接人間を支配するより、この者に任せた方が上手く行きそうだ。いい拾い物をした。こうなれば、あの半腐れのサンテとかいう男は、早めに処分しよう。とっくに賞味期限が切れているからな」
自分の冗談にウケて、切れ目のような口が哄笑した。
(作者註)
バルルとドゥルブの戦いについては、1109 牢獄島からの脱出(16) ~ 1122 牢獄島からの脱出(29)あたりをご参照ください。




