1417 ハルマゲドン(73)
一進一退を続けるガルマニアの内戦に、異変が起きつつあった。
切っ掛けは、ファーン率いる援軍二千にバスティル騎士団などが加わった凡そ三千の軍勢によって、ヤーマン軍側の猛烈な反撃が開始されたことによる。
軍の強さの半ば以上は指揮官に依ると云われるが、烏合の衆と言っていいコロクス・ドーラ同盟軍の柔らかな脇腹を喰い破るように、ファーンの少数精鋭の部隊が縦横無尽に突破した。
抑々プシュケー教団の大規模な援軍と、結局虚報とはなったものの、バロード軍四万五千の到着前に決着をつけたいと総攻撃を命じながら、総大将たるコロクスは前線に出ようともしなかったのである。
追い打ちをかけるように、勇猛果敢で知られるハリス配下の旧マオール軍二万の参戦が噂となって伝わり、一気に同盟軍の士気が下がった。
本来の自分に戻って帰って来ていたドーラは、起死回生の策として、機械兵によるエイサの古代神殿襲撃を白魔に示唆した。
「少なくとも、ゾイアを始めとするバロード勢には充分に牽制となろうし、ゲルヌがプシュケー教団に援けを求めれば、こちらに向かうはずの援軍を足止めできるやもしれぬ。ともかく、時間稼ぎをしておる間に、何としてもヤーマン軍を潰すのじゃ。何なら、わたしが直接軍の指揮を執ってもよいぞえ」
これにはドゥルブよりも、一介の巫術師上がりで軍事には疎いコロクスが喜んだ。
「そりゃあ、ありがてえだがや。何ちゅうても、かつて中原を統一したアルゴドラス聖王が指揮官なら、全軍が奮い立つでよ」
ドーラはちょっと嫌な顔をしたが、隠すことなく真実を告げた。
「いずれわかること故、教えておこう。兄とは仲違いして別れたのじゃ」
コロクスの狒々のような顔が唖然とした。
「意味がわからにゃあでよ。おみゃあらは両性族ではにゃあか」
ドーラは顔を顰めた。
「偶々そうなったのじゃ。それもこれもゾイアのせいぞえ。まあ、兄の戦略・戦術はずっと横で見ておったから、そこら辺の将軍よりはマシじゃろうて。何はともあれ、前線を立て直さねば、皆共倒れになるわい。おお、そうであった」
ドーラは自分の幻影を纏ったままのドゥルブの前で、パチンと指を鳴らした。
薄れかけていた幻影が消えると、ずんぐりむっくりしたサンテの姿に戻ったが、顔はまだ白い平面のままであった。
「やはり目立つのう。必要な時以外は、サンテに戻っておれ」
ドーラに言われるまま、白い平面は消え、死んだ魚のような目をしたサンテの顔になった。
髭面の口の部分にある小さな鉄格子から、サンテ本来の声がした。
「お帰りなさいませ、ドーラさま」
「わたしはこれからすぐに前線に飛ぶ。おぬしは馬で追って来よ」
「畏まりました、ドーラさま」
恭しく傅かれて多少は気分を良くしたのか、ドーラは張り切って前線へ飛んだ。
しかし、ドーラが叱咤激励しても前線の兵士たちの士気はなかなか上がらず、焦燥に駆られているところへ、サンテの馬が追いついて来た。
「ご報告したいことがございますが、今、宜しいでしょうか、ドーラさま?」
ふと嫌な予感がしたのか眉を顰めながら、ドーラは「構わぬ。早う申せ」と催促した。
「それでは申し上げます。ご命令によりゴーレム十二体を投入してエイサの古代神殿を攻撃いたしましたが、ゲルヌ皇子らに迎え撃たれ、全滅いたしました」
ドーラはすぐには何も言わず、孔が開くほどサンテの顔を睨んでいたが、フッと笑顔になった。
「冗談も度が過ぎると笑えぬぞえ。本当のことを述べよ」
「本当のことでござりまする、ドーラさま」
ドーラは怒鳴りつけようと大きく息を吸ったが、ハッとしたように周囲を見回して声を押し殺して叱責した。
「馬鹿も休み休み言え。ゴーレムとやらは、数体でもゾイアやウルスが手古摺ったというではないか。その倍の人数で攻めて、何故こんな短時間でやられるのじゃ? まさか、ゾイアに待ち伏せされたのかえ?」
「いえ。ゴーレムを倒したのは、ゲルヌ皇子とジョレ将軍の二人でした」
「ますますわからぬのう。ゲルヌはともかく、ジョレはまた何かに取り憑かれて、怪物になったとでも申すのか?」
「いいえ。そうではなく、二人は魔道神から、この世界にはない武器を供与されておりました。灼熱剣というもので、超高温になった刀身で相手を斬る剣です。まあ、光線銃などに比べれば実用性は低く、どちらかといえば懐古趣味の玩具のようなものです」
「阿呆! ああ、いかん、声が大きくなったわい。その玩具で、なけなしの精鋭部隊を全滅させられたおぬしらは、底抜けの阿呆じゃ」
と、サンテの顔が白い平面に変わった。
「われらとて不甲斐ないと思っている。但し、たとえ玩具程度の武器であっても、未開の惑星の住民に渡すことは、かれらの倫理規定にも反する行為だ。おかしいと思い、まだ機能が残っていたゴーレムに調べさせたところ、驚くべき事実が判明した」
ドーラは吐息混じりで促した。
「ふん。聞くだけは聞いてやろう。何じゃ?」
「古代神殿に、バルルはもうおらぬ」
「な、何ぃ!」




