1416 ハルマゲドン(72)
ゲルヌ皇子が、機械人形の体内に格納されていた灼熱剣という武器をジョレにも渡し、その使い方を教えたところで、古代神殿に警報が鳴り響いた。
防護殻消滅!
シールド消滅!
各員敵の攻撃に備えよ!
繰り返す!
シールド消滅!
……
ゲルヌはグッと奥歯を噛み、ジョレに指示を与えた。
「わたしは飛んでいる敵を斃す。おまえは地上から接近する敵を排除し、赤目族を護ってくれ。但し、この武器は接近戦にしか使えぬようだ。決して無理をするなよ」
「ぎょ、御意」
山羊のような顎鬚を震わせるジョレに、ゲルヌは不安そうな一瞥を向けたが、それ以上は言わずに飛び立った。
一気に古代神殿の屋根より高く上昇すると、視認できるだけでも十体以上の敵が飛び回っている。
「しかも、相手は飛び道具を持っているしな。うーむ、どうするか?」
が、悩んでいる暇はなかった。
一番近くを飛んでいた機械兵がゲルヌに気づき、東方魔道師タンリンそっくりの顔をこちらに向けると、その口からニュッと金属の筒が出て来た。
「くそっ!」
反射的に身を翻し、撃ち出された金属の玉を避けたが、すぐに第二弾、第三弾と飛んで来る。
「とても逃げ切れぬな。ならば」
ゲルヌはヒートソードの柄を強く握って発熱させると、シールドなしの短距離跳躍で至近距離に出現した。
相手の無表情な顔が目の前にある。
「喰らえっ!」
ゲルヌがヒートソードを大上段から一閃させると、まるで牛酪をナイフで切ったように、縦に真っ二つになった。
「ほう。凄いものだな」
感心したのも束の間、後方から発射音がした。
ゲルヌが消えた残像を金属の玉が貫いた時には、本人はそれを発射した相手の背後にいた。
「残念だったな!」
ゲルヌがヒートソードを真横に薙ぐと、ゴーレムの身体は上下に分かれて落下した。
が、仲間が二体も殺られたことに気づき、残りのゴーレムたちが一斉にゲルヌの方に向かって来た。
「来るなら来い!」
ゲルヌは態と空中浮遊して敵を引き寄せ、かれらが金属の玉を発射した瞬間、ショトリープで一人の背後に廻り、玉避けにしつつヒートソードで斬り、次の玉が飛んで来る前に次の敵の後ろに廻って斬る、ということを繰り返した。
それで半数は片付けたが、敵も一箇所に留まることの愚を覚り、出鱈目に飛び回り始めた。
更に、口からの射撃だけでなく、肘や膝を折り曲げて、丸みを帯びた太い円錐形の火箭のようなものを撃ち出した。
以前ゾイアが同じ武器で狙われたことがあるが、直線的に進む金属の玉と違い、これは空中で方向転換しながらしつこく相手を追尾する。
ゲルヌは細かくショトリープしながら衝突を避けたが、これでは相手を攻撃する余裕がない。
が、狭い空域で戦っているため、円錐形の火箭の何本かは味方であるゴーレムも追い掛け始めた。
「混戦模様だな」
ゲルヌは苦笑したが、一瞬でも油断すれば火箭に当たってしまうため、少しも気が抜けず、疲労が蓄積して来るのを感じていた。
一方、地上を任されたジョレは、怯えた目で周囲を警戒しながら、ヒートソードの柄をギュッと握り緊めていた。
そのため刀身は赤を通り越して橙色に変わり、それも徐々に明るく光り始めている。
と、柄の部分がブルブルと振動し、そこから抑揚のない声が聞こえた。
「……加熱し過ぎています。握力を緩めてください……」
「ええっ。そんなこと急に言われても、緊張で手が強張ってるんだ。無理だよ」
「……危険ですから、手を離してください……」
「だから、無理だって。ううっ手が熱くなって来た。何とかしてくれよ」
「……已むを得ません。放熱しますので、剣先を差し障りのない方向に向けてください……」
「差し障りって言っても、うーん、どっちに、あっ!」
その時、前方からゴーレムの一体が歩いて来るのが見えたのである。
「わ、わ、わ、どうしよう」
狼狽えるジョレに構わず、抑揚のない声は「……では、放熱します……」と告げ、剣先から白熱した光が放射された。
全くの偶然であったが、その光は接近しつつあったゴーレムの頭部に命中したのである。
直後、頭部がドロドロと融け崩れ、ゴーレムは仰向けに倒れて動かなくなった。
茫然とそれを見ていたジョレも、跳び上がって喜んだ。
「やった! やったぞ! これなら敵の飛び道具も怖くない! わたしでも勝てるぞ! あ、そうか、殿下にも教えなきゃ」
上空で苦戦しているゲルヌは、地上で叫んでいるジョレの言葉が、最初はよく聞き取れなかった。
「どうしたのだ、ジョレは。とても助けてやる余裕などないぞ。ん? いや、違うな。もっと強く握れと。おお、そうか!」
ジョレの助言の意味がわかると、ゲルヌは飛びながらヒートソードを強く握り、その剣先をゴーレムに向けた。
白熱した光が迸り、一体、また一体と撃墜して行く。
その間にも円錐形の火箭が追って来るため、一箇所に止まらぬように気をつけねばならない。
遂に最後の一体を始末すると、今度は逆に一箇所から動かず、自分を囮にして火箭を集めた。
地上で様子を見ていたジョレは、火箭がゲルヌに向かって集中し、爆発したのを目撃して絶叫した。
「ああっ、殿下あああーっ!」
と、横から声がした。
「上手くいったな」
「え? 殿下?」
見ればゲルヌが笑って立っている。
「熱の光で火箭も退治しようかと思ったが、動きが複雑すぎるから、同士討ちさせる方が手っ取り早いと思ったのだ。さあ、これで一先ず片付いた。わたしはゾイアを捜しに行くから、念のため、おまえはここに残ってくれ。その剣さえあれば、大丈夫だろう?」
「はあ……。あ、いえ、畏まりました!」
(作者註)
ゴーレムについては、488 ミッテレ・インポシビリタス(16)あたりをご参照ください。




