表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1468/1520

1410 ハルマゲドン(66)

 タロスの身体からだを乗っ取ってバロード軍四万五千をひきいているドーラをめることに失敗したツイムにわり、自分が再度止めに行くというクジュケに、老人の姿になったアルゴドラスが自分も行くと告げた。

 クジュケは「いや、それは」と断ろうとして肩で大きく息をき、思いなおして「いいでしょう」とこたえた。

ただし、少しでもおかしな素振そぶりをなさったら、緩衝かんしょう地帯のどなかに放置します。よろしいですね?」

 すっかり酔いがめた様子のアルゴドラスは、鼻で笑った。

「そう警戒せずとも、こんな老人に今を時めく魔道師統領コンスルを倒すような力はないさ。抑々そもそもの望みは、一刻いっこくも早く中原ちゅうげんの争乱を収束しゅうそくさせること。そのため少々強引な手法しゅほうったが、今ドーラのやっていることは、明らかに争乱を助長じょちょうする行為だ。それを止めるのは、兄としての余の役目。決して他意たいはない」

 胡散臭うさんくさそうに横でその言葉を聞いていたツイムが口をはさんだ。

「いや、敵か味方かわからねえこんなじいさんを連れて行くぐらいなら、おれがもう一度行くぜ」

「口をつつしめ、ツイム」

 そうたしなめたのはアルゴドラス本人ではなく、ジェルマの身体からだにいるタロスであった。

「たとえ敵対する相手だとしても、両陛下りょうへいかの祖父に当たられるおかただぞ。それに、ドーラさまを説得するには、ほかに方法がないと思う」

 ツイムはムッとして横を向いたが、それ以上反対はしなかった。

 クジュケも迷いを吹っ切るようにテキパキと指示をくだした。

「ともかくツイムどのは怪我けが治療ちりょうに専念してください。スルージさんについては、カリオテ大公国たいこうこくのお力をお借りして、霊癒サナト族のかくざとへ運んでもらうよう手配します。タロスどのも、カリオテで待機たいきしてくださいね。では、アルゴドラスどの、参りましょうか?」

 アルゴドラスはニヤリと笑い、「おお、頼むぞクジュケ」と、まるで自分の部下であるかのように答えた。



 同じ朝を眠られぬままむかえた男がもう一人いた。

 ガルマニア合州国がっしゅうこくの民事補佐官ハリスである。

「何とかして、こちらも援軍を、出さねば、このままでは、合州国が、つぶされて、しまう」

 白頭巾しろずきんのため表情は見えないが、その独特の抑揚イントネーションの言葉にも、焦燥感しょうそうかんにじんでいた。

 そこへ予定にない来客が知らされたが、直後、その相手は案内もわずにズカズカと入って来た。

邪魔じゃまするぜ」

 白い歯を見せて笑っているのは、野人太子やじんたいしゲーリッヒであった。

 相変あいかわらずけものの毛皮をつないだ珍妙ちんみょうな服をまとい、ボサボサの赤毛を荒縄あらなわで一つにむすんでいる。

「おお、お久しゅう、ございます」

 ハリスは旧主筋きゅうしゅすじの元皇帝に頭を下げた。

 が、ゲーリッヒは肩をすくめ「かたっ苦しい挨拶あいさつは抜きだ」と断った。

「おれが言いてえことは、唯一ただひとつ。何故なぜ早く援軍を出さねえんだ?」

「そうしたいのは、山々ですが、合州国の危機にじょうじ、マオロンを中心とした、南部の周辺勢力が、しきりに、ちょっかいを、仕掛けて、来ており、対応に、追われて、おります。加えて、パシーバ州へ、派兵するには、必ず他州たしゅうを、通過せねば、なりませんので」

 ゲーリッヒは歯をき出した。

「だったら、おれに相談しろよ! いつでも通過させてやるし、何だったら、南部のうるせえやつらはまかせてくれてもいいんだぜ。小競こぜり合いは得意だからよ。だが、おれんとこはまだ、ちゃんとした軍勢には育ってねえんだ。訓練された正規軍には、とてもかなわねえ。だから、おめえに頼みてえんだ」

「おお、ありがとう、ございます。ならば早速さっそく精鋭せいえいを整え、ヤーマン閣下かっかを、お救いに、行って、参ります」

「頼んだぜ、白頭巾。この一戦に、この国の、いや、中原の将来が掛かってるんだ。絶対ぜってえ魔女ドーラなんかに、負けちゃいられねえ!」



 しかし、そのドーラ本人は、いまだに戦場に到着していなかった。

「くそっ! 跳躍リープ浮身ふしんもできぬのが、こんなにも間怠まだるこしいとは。うーむ、かとうて、ここで『識閾下しきいきか回廊かいろう』に戻ってまた迷子まいごになっては何にもならぬしのう。上手うまくゾイアの身体に辿たどける保証もないでな。いやいや、それより、今わたしがこの身体を抜ければ、タロス本人が戻ってしまう。今はただ、一日でも早くガルマニアへ到着せねば」

 全軍の先頭を爆走しながら、馬上でひとちるドーラのそばへ、部下の一人が馬を寄せて来た。

「タロス閣下! お願いにござりまする! 少しは兵を休ませねば、疲労のあまり落馬するものが続出しております! このままでは、とても戦えませぬ! どうか、どうか、全軍に停止をおめいじくださりませ!」

 激昂げっこうして怒鳴どなり返そうとして、ドーラは前方にあるものを見つけ、息を整えてタロスの声で部下に告げた。

「良かろう! 全軍をただちに停止させ、しば休憩きゅうけいを取らせよ!」

「ははっ! 有難ありがたき幸せに存じまする!」

 いさんで駆け戻る部下を後目しりめに、ドーラはもう少し進んでから馬をりた。

 その前方の上空から、しなびた老人の姿のアルゴドラスを前向きに胸にかかえ、クジュケがりて来たのである。

 かぶとを脱いだドーラは、吐息といきじりに皮肉を言った。

「お元気そうで何よりでございます、兄上」

 アルゴドラスも皮肉で返した。

「おぬしのおかげで、久々ひさびさに本来のおのれを取り戻せた。れいを言うぞ、アルゴドーラ」

「どういたしまして。で、ご用件は?」

「おぬしを止めに来た、と申したら、何とする?」

 ドーラは苦笑しながらも、腰の剣をスラリと抜いた。

「残念ながら、そこのくされ魔道師共々ともども、この剣で始末しまつするだけじゃ!」

 ドーラの剣が一閃いっせんした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ