表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1454/1520

1398 ハルマゲドン(54)

 エオスの大公宮たいこうきゅうでは、ガルマニア合州国がっしゅうこく内戦勃発ぼっぱつの第一報をニノフが伝えていた。



 詳細しょうさいはまだ不明だが、コロクス・ドーラ同盟軍は六万、一方ヤーマン直属軍は三万、如何いかにパシーバ州が山間地で大軍を展開しにくいとはいえ、この兵力差は大きい。

 しかも、事前にその気配がありありであったロッシュの乱と違い、今回ばかりは智慧者ちえしゃのヤーマンも油断していたようだ。

 考えてみれば、パシーバ族の諜報ちょうほう組織である『もりの番』はコロクスの配下だから、情報統制をしていたのだろう。

 さらに驚くべきことは、急先鋒きゅうせんぽうとして攻めているのはおもにドーラ軍で、まるで何かに取りかれたかのような捨ての攻撃をしているという。

 そのドーラ軍の先頭に立って全軍を鼓舞こぶしているのが、おば、いや、魔女ドーラ本人だ。

 みずから騎乗し、やりを振るって戦っているそうだ。


 うむ。

 おれも気になって、ハリスどのの動きは聞いたよ、クジュケ。

 ハリスどのの領地はロッシュの乱ののち分割され、旧リンドル領は名目上めいもくじょう息子ハンゼのものとなったが、まあ、実質的な変更はない。

 旧マオール軍二万に、新規にかかえた傭兵が一万、合計三万の総兵力だが、南のマオロン近辺の治安が悪く、全軍を動かすのはとても無理だ。

 しかも、ハリスどののガーコ州からヤーマンのパシーバ州へ援軍を出すには、ほかの自治州を横断しなければならない。

 ドーラのバローニャ州やコロクスのコロネ州は論外だから、ゲーリッヒのガルム州ということになる。

 ところがゲーリッヒは、内戦勃発早々そうそう不介入ふかいにゅうを宣言した。

 まあ、合州国建国当初は冷遇れいぐうされ、わずか数千名の兵力しか保有を許されず、ロッシュの乱ののち多少待遇が改善されたとはいえ、いまだに一万弱の兵力しかなく、巻き込まれれば一溜ひとたまりもない、というのが表向きの理由だ。

 本心では、いい気味だと思っていることだろう。

 ハリスどのもそれがわかっているから、迂闊うかつにガルム州に入れない。

 つまり、このままでは、ヤーマンの敗北は時間の問題だと思う。



 聞き終えたウルスとウルスラは同時にたような感想をらした。

「ハンゼが困ってるんじゃないかな」

「ヤンさんは大丈夫かしら?」

 同世代の仲間として、ハンゼやヤーマンの娘ヤンへの同情が先に立つ二人をチラリと横目に見て、クジュケは冷静な判断をくだした。

「前線で戦っているというドーラさまは偽物にせものでしょう。ご本人は『識閾下しきいきか回廊かいろう』から出ていないはずですし、肉体は今アルゴドラスさまとしてツイム大臣の監視下にありますから」

 ギータがしわ深い顔をツルリとで、うめくようにつぶやいた。

「ならば、ドーラに成りすましておるのは、おそらく白魔ドゥルブじゃろうな」

 ウルスラがキッと顔を上げた。

「援軍を送りましょう! このままでは、ガルマニア全土がドゥルブのものになってしまうわ!」

 クジュケがしぶい顔で「しかし」と言いかけた時、また入口の方で、シャンロウの「今ニノフさんがご報告中だあよ。後にしてけろ」と制止する声と、それにかぶせるように「冗談じゃねえ、暢気のんきに会議なんかしてる場合かよ!」と叫ぶロックの声が聞こえた。

 入口近くにいたニノフが扉をけ、「どうした?」とくより早く、血相けっそうを変えたロックが飛び込んで来た。

「監視船から報告があったぜ! 対岸で腐死者ンザビが動き出した! 火矢を打って近づけねえように応戦してるが、数が半端はんぱねえ! 早く何とかしねえと、みんなやられるぞ!」

 ガルマニア内戦の情報をもたらしたニノフも、顔色が変わった。

「わかった。今はともかく、ンザビを一体も渡河とかさせないことが先決だ。全軍に特別火箭かせんを手配し、同時に陛下へいかつくってくださった薬を配布する。取りえず、おれも現場に急行する。ロック、案内してくれ!」

「おお!」

 あわただしくニノフとロックが出て行くと、ウルスラがウルスに「あなたも行ってちょうだい」と頼んだ。

「え、ぼくも?」

「そうよ。ゾイアの身体からだにいるのは、今はあなただから。お得意の冷気をンザビにお見舞いしてやって。ああ、けれど、深入りは駄目だめよ。きっとわなが仕掛けてあるわ」

 ウルスは生唾なまつばを飲んで「う、うん」とうなずいたが、そののどあたりから抑揚よくようの無い声がこたえた。

「……心配ない。非位相者ストレンジャー電磁障壁バリアの特徴は把握はあくした。接近し過ぎなければ、危険はない……」

 ウルス自身も「まかせて!」と告げると、部屋を飛び出して行った。

 それを心配そうに見送って、ウルスラは改めてクジュケにたずねた。

「とてもガルマニアに援軍を送るような余裕はなさそうね。どうしましょう?」

 クジュケは少し考えたが、何か言いたそうなギータの顔を見て、「よろしければ、意見をお聞かせください」と珍しく弱音よわねいた。

「うむ。わしの見るところ、この両方の事態は決して無関係ではあるまい。あまりにも時期が一致し過ぎておる。それをつなぐ線は勿論もちろんドゥルブじゃ。わしらがンザビ対策だけに力をそそげばガルマニア全土を征服し、ガルマニアへ援軍を送ればンザビを渡河させるじゃろう。つまり、わしらは両面策戦さくせんを取らざるをんのじゃ」

 クジュケも覚悟がさだまったらしく、ウルスラに向きなおった。

「現状でスカンポ河西岸にいる軍勢でンザビをめているかんに、王都おうとバロンに残っているタロス大臣に軍勢をひきいてガルマニアへ行ってもらいましょう。ただし、とてもに合わないでしょうから、これは陽動ようどうのための威嚇いかくです。そうですね、一万もいれば充分でしょう。できるだけ派手はでに、後続こうぞくもあるぞ、と見せかけて」

「え? じゃあ、本軍は?」

 クジュケは大きくめ息をいた。

「あのおかたに頼むしかありません。わたくしは苦手ですが、そうも言っておれませんから」

「ああ、ヨルム猊下げいかね。そうね、プシュケー教団に軍を出してもらうしかないわね。わたしが行きましょうか?」

 これはギータがめた。

「いや。ウルスラはここにおった方がよい。出口を求めて彷徨さまようドーラがゾイアの身体に辿たどかぬよう、できれば見張っていてくれ」

 ウルスラは困惑こんわくの表情になった。

「そんなことできるかしら?」

「できずとも、努力してみてくれ」

「そうね。やるしかないわね」

 ウルスラの決意が固まったところで、クジュケは跳躍リープの態勢に入った。

一先ひとまずバロンへ行き、タロスどのとラミアンに指示を与え、その足で聖地シンガリアへ飛びます。では!」



 クジュケには、そのタロスに異変が起きていることなど、知るよしもなかったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ